NINJA「ハゲがいたぞ!殺せ!」(挿絵あり)
※警告!今回は過度の残酷描写を含みます。心臓と心の弱い方はブラウザバックするようお願い致します。
「マヨネーズ、味噌、醤油、米にトラック……どうもこの世界には元の世界との共通するモノが多すぎる」
俺はデコトラの脇に穴を掘って作られた簡易竈の上の大鍋で、グツグツと煮えている猪鍋を器によそいながら呟いた。クセのある猪肉と根菜を濃い目の味噌味で煮込んであるワイルドな夕食だ。
「私たちにはピンとこないが、そんなに似ているのか?元の世界と」
今日の夕飯となった猪を単身で狩ってきた功労者、ロベリアさんがそう聞いてくる。「猪が見えた」とデコトラを飛び下りてナイフ一本で仕留めて来るとかワイルドなおっぱいさんだな。おかげでドロップした肉が夕食に上っている。本来猪肉は少なくとも数日、可能なら腐る直前まで熟成させたほうが美味いと聞いたが、ドロップアイテム故かそのままでも割りといけた。
「いえ、世界は全然違うのにモノだけが似ているんです。なのでその辺りから探ってみようかと……」
俺たちは一路、本の都ブッカーズを目指している。何でもこの都の迷宮、書物や紙がドロップするらしい。そのせいで学都とも呼ばれる大きな都市だ。調べもの、もしくは未だ知られざる知識を探すにはうってつけだろう。
「そうねぇ、あの都なら世界の迷宮ドロップ一覧くらいあるかもしれないしね。……それにあそこは食材ドロップが少ないから食材は高く売れるわ」
モーガンさん、最後の一言は目が笑ってなかった。獲物を狙う猛禽の目だよ、それ。いや、そもそもこの世界の事情に疎い俺と撫子さん、常識人だが筋力特化で細かいことは気にしないロベリアさん、子種以外に興味の無いエロフ……と、ちょっと経済観念諸々に不安のある面子ばかりだからモーガンさんがこうなるのも仕方ないんだけどさ。本当に苦労をお掛けします……後で高い酒でもプレゼントしよう、うん。
「サイゾーさんや、飯はまだかのう?」
「撫子おじいちゃん、ご飯は今食べてるでしょ!」
モチャモチャと猪鍋を食べる撫子さんにお茶を差し出す。日本茶各種も撫子さんのために何処かで仕入れたいところだ。緑茶、ほうじ茶、玄米茶等々が道具袋にストックされてはいるが無限にあるわけじゃないし。ついでに作った猪鍋を料理スキルのレシピにストック、和風ならばレシピに登録出来るようだ。逆に和食以外だとパンひとつとして登録出来なかった。
「若い頃、鹿はよく撃って食ろうたが、猪は初めて食べるの……わしの畑には猪は居んかった」
猟銃片手に鹿を追う撫子おじいちゃんか……現代っ子には想像もつかないな。というか、鹿がいて猪がいないって撫子さんの出身はもしかして北の大地?
「ハタケって何ですか?」
肉食エロフことユーニスちゃんが猪肉を口からはみ出させたまま首を傾げる。ああ、そうだった。この世界に農耕は広まっていないのだった。
「地面を耕して食糧を作る場所だよ。野菜とか穀物とか」
「地面から食べ物を?それって食べて大丈夫なんですか?」
ユーニスちゃんの言葉に土がついてる野菜を汚ないと言って食べたがらない現代っ子の例えを思い出したが、そもそも迷宮から物資を得ているこの世界の住人には土から食べ物を作ること自体が奇っ怪に映るのだろう。モンスターの跋扈するこの世界で、農耕について語っても仕方ないだろうからと話題を変えようとしたその時、モーガンさんの悲鳴が上がった。
「キャァァッ!」
悲鳴を上げたモーガンさんの髪が一房プッツリと断ち切れている。
「何が……ッ!」
ネズミが居た。いつの間にか周囲は人間の子供くらいありそうな大きなネズミの群れに取り囲まれていた。二足歩行のネズミはなぜか頭部だけ色とりどりの毛に覆われやたらとフサフサしている。
「チッ、ハゲネズミか!」
ロベリアさんが即座に戦闘体制に移る。ハゲネズミ?いや、フッサフサだよ?鋭い前歯をカチカチと鳴らしながらフッサフサのハゲネズミたちが喚く。
「毛を寄越せー!」
「毛おいてけー」
「刈るぜ、刈るぜー!」
モーガンさんが切られた一房を悔しげに眺めながら言葉を紡いだ。
「よくも、乙女の髪を……!気を付けてサイゾーくん!そのネズミは他の生き物から奪った毛を編み込んで頭に纏う習性があるの!捕まったら丸刈りにされるわよッ!」
あのフッサフサはヅラなのかよ。異世界舐めてた……こんな恐ろしい生き物がいるなんて。捕まったらハゲにされるなんて絶対に御免だ!
「よし、撤退しましょ……」
「ダメよ」
髪の安全を優先して潔く撤退しようとしたらオカマさんに阻止された。
「ハゲネズミの様々な生き物の毛を編み込んだ頭部の飾りはとても良い値で売れるの。全部狩るわよ!よくも髪を……髪は女の命なのに!許さない!」
最後が本音か、オカマさん。つまり頭部を傷付けないように狩れと?デコトラ丸にサクッと轢き殺してもらうことも出来ないじゃないか、面倒な。
「来るぞ!構えろ!」
ロベリアさんが盾と剣を構えて叫ぶ。キィキィと軋むような鳴き声と共に飛びかかってくるハゲネズミ。あっという間に弾け飛ぶ撫子さんの服。
「私は魔力矢で、サイゾーくんは飛び道具で一匹ずつ仕留めるわよ!」
ロベリアさんと撫子さんが前でハゲネズミたちを引き付けている隙に、俺とモーガンさんが端から狩っていく。ユーニスちゃんはさらにその後ろで前衛の回復だ。……まあ、撫子さんには回復はいらないが。鉄壁の紙装甲とはこれ如何に。
「こいつら強いぞ!」
「ヒィィ!仲間のヅラが!」
次々に討ち取られヅラを剥がれる仲間の姿に残ったハゲネズミたちが怯む。残党が散り散りになって逃げようとしたその時、オートNINJAモードのスイッチが入った。
「他者の尊厳を奪い己を偽る不埒者共め……」
ベベン、と何処からともなく響く三味線の音。いつの間にかデコトラの上で腕を組んで直立する俺。舞い散る紙吹雪。
【ミッション・ハゲがいるぞ!殺せ!】
テロップよ。お前は今、全国の髪の不自由な人を敵に回したぞ。毛髪差別、ダメ絶対!
「その偽りの姿、このNINJAサイゾーが暴いてくれよう。ハゲ共、刮目せよ!俺がNINJAだ!」
その言葉にハゲネズミたちが怒号を上げた。憎しみの視線が俺の頭髪に突き刺さる。
「フサフサな奴は引っ込んでろ!」
「フサフサな生き物はすべからく禿げろ!」
「刈るぜ、刈るぜー!」
逃げようとしていたハゲネズミたちは一斉に俺に飛びかかってくる。迫る前歯、これを防がねば俺はハゲてしまう。嫌だ、俺はまだ尊厳を捨てたくない!
「舞い散れ!天遁十法・風遁の術!」
ハゲネズミたちの中心に轟々と音を立てて風の渦が出現。ハゲネズミとそのヅラを次々に巻き上げていった。ふわりと舞う色とりどりのヅラが月明かりに照らされて幻想的な光を帯びる。降り積もるヅラは、数々の生き物たちから奪われた毛で編まれた来歴のせいか、美しさと物悲しいさを同時に醸し出す。
「ハゲよ、散滅すべし」
そのままハゲネズミたちはヅラを残して、風の渦に天高く舞い上げられ空の彼方に消えた。
【ハゲを成敗しました】
斯くして、我らがパーティーの毛髪は守られた。しかし、この世に髪の不自由な者がいる限るハゲは滅びぬ。何度でも蘇るだろう。そのためにシリコンフリーのシャンプーを使い、頭皮を揉みほぐし、海藻を喰らえ、男たちよ!俺たちの毛髪の闘いはここからだ!
こんな残酷描写を入れていいのか悩みつつ書く決断をしました……。せめて挿絵をコミカルにして中和しようと今回は漫画タッチです。ああ、後頭部の十円ハゲが疼く……。




