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NINJA迷宮珍走

描写が薄いと言われたので少し真面目に一部の描写を増やしてみました。何時もより重く真面目な内容となっておりますのでご注意ください。




 「あぁーーッ!」



 ヘドロのように薄汚れた緑の肌をしたハイゴブリンによる棍棒の一撃で服が弾け飛び、大事な所だけをわざとらしく残して紫紺の布の破片が舞う。しかし、東洋人らしいきめ細かい肌には傷ひとつ無い。そして俺は手裏剣を投擲。ハイゴブリンの額が爆ぜてドロップアイテムに変わった。



 「あ、ちょっ……そんな変なもの入れてはいかんのじゃ!」



 淡く発光するターコイズブルーのジェル状をした巨大なスライムが撫子さんの肢体を捕らえて締め上げると、服が溶けて帯を残して消滅。しかし、真珠のような肌には傷ひとつ無い。そして俺は火遁の術でスライムを核ごと消し炭にする。スライムはドロップアイテムを残して塵と消えた。



 「ダメ……じゃ……そんな太いの……アヘェェェーーッ!」



 三メートルはあろうかという体躯に暴力的なまでの筋肉に鎧われた豚顔のハイオークの群れが、剣というにはあまりにも大きく硬くそして黒い素材で出来た塊というべきモノで、か細いくノ一を蹂躙した。それがパンパンと肌を打つ度にビクンビクンと悩ましく白い肢体が跳ねる。しかし、雪花石膏(アラバスター)のごとき肌には傷ひとつ無い。そして俺は忍者刀で一閃して首を切り落とす。血飛沫が舞う暇もなくハイオークはドロップアイテムと化した。



 どうも、みなさん如何お過ごしでしょうか?俺は今、ネイの迷宮60階層付近にいます。ご覧の通りなぜか敵の攻撃が全て撫子さんに集中し、さらに撫子さんは破廉恥な目にあっても傷ひとつつかない。仏陀に負けないくらい俺は悟りを開いた顔をして、撫子さんが注意を引き付けている敵を淡々と処理するマシーンとなっている。


 AV業界で企画をやっている向こうの世界の知人が「エロいものを一日中見ていると精神的インポになる」と嘆いていたが、あれは実に的を射ていると確信した。もう胸の先端の桜色が視界で揺れていても、古の大賢者のように動じなくなっている。慣れとは恐ろしいものだ。


 俺たちは前衛撫子さん、火力役俺の分担が見事にはまり物凄い速度で迷宮を疾走している。階層が深くなると巨大なモンスターが増えるせいか壁も道幅も広くなり遠近感を狂わせ、まるで不思議の国に迷い込んだ気分に襲われてしまう。



 「撫子さん、そろそろ少し休憩しましょう」



 粗方周囲のモンスターを狩り尽くした後、俺は巨大な柱の脇に腰を下ろしておにぎり(回復アイテム)を取り出した。



 「おお、米じゃ米じゃ……ニッポン人は米があれば生きられるのじゃ」



 撫子さんはいつの間に用意したのか座布団を迷宮の床に敷いて座っている。お茶を飲む姿が妙に爺臭い……いや、爺か。せっかくだからと道具袋から秘蔵の沢庵も出してやる、うむ似合う。


 ピクニックよろしく薄暗い迷宮で和やかに昼食を摂っていると、不意に遠くから重低音が響いてくるのを感じた。



 「ん?新手か?」



 断続的に、しかし一定のリズムで響く低い音。酷く耳慣れた、けれど迷宮に似つかわしくない音に俺は眉をひそめる。



 「……この音は……まさかそんな」


 「あ?なんじゃって?」



 俺の呟きを撫子おじいちゃんが耳に手をあてて聞き返す。



 「だーかーらー、この音!聞こえません!? 」


 「わしのスリーサイズじゃと?」


 「ちげーよッ!なんで若返ってるはずなのに耳がそんなに遠いんだよッ!じいさんのスリーサイズなんてどこにも需要をねぇし!」



 思わず年上だというのに敬語が消失してしまった。爺のスリーサイズなんて公開しても誰も得をしないではないか。そんなやりとりをしている間も音はどんどん大きくなる。ドッドッドッと大気を震わせるこの音……間違いない、エンジン音だ。



 「エンジン音がなんでこんなところで……」



 長く広い回廊の闇からギラギラとした光が急速に近づいてくる。姿を現したそれは、白銀の巨大なボディに鋭角的なフレームを纏い、色とりどりの電飾が迷宮の闇を冒涜的なまでの安っぽさで照らす。そう、それは……



 「デ、デコトラ?」



 デコレーショントラック、そう呼ぶしかない物体が迷宮の回廊を爆走していた。闇に慣れた目に毒々しい電飾の輝きが突き刺さる。



 「撫子さん!避けて!」



 未だに茶を啜っている撫子さんをトラックから庇おうと手を伸ばすが、一歩届かない。



 「撫子さーーーんッ!」



 爆走するトラックに轢かれてくノ一の体が宙を舞う。修復された忍装束は再び弾け、最後の砦であるパンツすら無惨に引き千切られた。白い布の花弁がヒラヒラ散り行くのを俺は呆然と見つめる。



 「なんて……なんて酷いことを……完全に放送禁止じゃないかっ」



 撫子さんを酷い放送事故に追いやった憎き敵を睨みつける。コウモリが派手派手しくペイントされたトラックから人型の何かが降りてきた。



 「この吸血鬼の(カシラ)たる血吸いのヤスの縄張り(シマ)で調子こいてるジャリがいるってェ聞いて来てみりゃア。なんでェ、ジャリはジャリでもニンゲンのジャリじゃねーかい」



 パンチパーマにサングラス、金のネックレスを幾重にも重ねたチンピラ風吸血鬼がガンを飛ばしながら宣う。



 「デコトラにパンチパーマ……」



 ポカンと口を空けている俺にパンチパーマの吸血鬼ヤスが驚いたように怒鳴った。



 「な!? おどれ、何でワイの使い魔“デコトラ丸”の名前を知ってやがるんでいッ!」



 そのデコトラ、使い魔なのかよ。あと、今更かつわかっていたことで、ついでに慣れてきたがさっきから体が動かない。完全にオートNINJAモードに移行してます、ありがとうございます。


 倒れ伏していた撫子さんが起き上がる。全裸になった撫子さんの恥部はモザイク処理されていた。なんでやねん。



 「く……すまぬ、サイゾーさんや……放送事故を起こしてしまったわしはもうお茶の間に出る資格は無い……後は頼むぞ」



 そう言って撫子さんは涙を流した。その姿に吸血鬼が下卑た笑みを浮かべ、唇を舐める。



 「なんでェ、女連れかジャリ。女はいただいてシノギにさせてもらおうかじゃねーか。女の血ィはいいシノギになるンだわ」



 「よくも、我が戦友を……。そして女人を食い物にしようというその性根……闇から出でた物の怪よ。このモノノケバスターNINJAサイゾーが成敗してくれる!」



 デコトラの電飾に負けない光源不明の逆光を背負い、ジャキーンという効果音と共に謎ポーズを決める俺。周りに人の目が無くて良かった、本当に良かった。



 『ヤスの兄貴……本当にヤるんですかい?相手はジャリと女じゃアありやせんか』



 デコトラ丸からエンジンを揺するような重低音の声音が響いた。その言葉に、デコトラに乗り込みながら吸血鬼ヤスは青筋を浮かべて大声を上げる。



 「なんじゃ、ワレ。兄貴分に逆らうってェのか?ああん?」


 『そういうことじゃあ、ありやせんが……』



 デコトラ丸の言葉を無視してアクセルを踏み込む吸血鬼ヤス。獣のような唸りを上げてトラックの巨体が俺に迫る。網膜を焼く強烈なライトがどんどん近づいてくるのに、俺の体は動かない。真っ直ぐにトラックを見つめて仁王立ちするばかりだ。ヤバい、ここままだと轢かれる!避けろよ、オート俺!緋緋色金(ヒヒイロカネ)の忍者刀を使えばトラックごとぶった斬るくらい出来るだろ!?



 「死にさらせ!ジャリがぁぁぁ!」



 鉄の巨体が俺を轢き潰そうとしたその時、甲高いブレーキ音が迷宮にこだました。



 「NINJAは死にましぇん!」



 俺の鼻先でトラックが停止する。オートモードになっていなかったらあまりの恐怖に多分漏らしていたに違いない。



 『もう、やめましょうや……兄貴。こんな真っ直ぐな目をした男を殺せねェよ!』



 デコトラ丸が悲痛に訴える。



 「裏切りやがるってェのか!デコトラ丸!」



 怒気に顔を歪めるヤスに尚もデコトラ丸は言いつのった。



 『ヤスの兄貴……アンタ変わっちまったよ。迷宮の女モンスターを食い物にして、幻覚茸(シャブ)を売り捌いて……。あっしと迷宮を走るのが何より楽しいと言ってくれた兄貴は何処に行っちまったんです!? 』



 パンチパーマとデコトラの愁嘆場とかもう訳がわからないよ。



 「チッ、もういい。ワイが一人で殺る!」



 怒りに任せてパンチパーマの吸血鬼がトラックを乱暴に降りて、俺の前に立つ。



 「心意気ィだけで生きられるほどこの迷宮が甘いと思うなよ?ジャリ」



 ガンを飛ばしながらそう啖呵を切る吸血鬼を、俺は鼻で笑った。途端に吸血鬼から殺気が湧き上がる。



 「ふっ……自らを慕う者の信頼を失って何を得ようというのか。愚か者め」


 「この糞ジャリが……ぶっ殺してやる!血ィ吸い尽くして干物にして飾ってやるから覚悟しィや!」



 吸血鬼が大きく床を蹴って飛翔。獲物を狩るために研ぎ澄まされた牙が俺を狙って襲い掛かった。



 「遅い!疾風斬!」



 フィルムのコマが飛んだかのように次の瞬間には抜刀した俺が吸血鬼の背後にいた。



 「あ?が?」



 ズルリと首がずれて落ちる。首から噴き出す血に染め上げられながらも吸血鬼はまだ生きていた。鮮血に染まった目を恐怖に見開くヤス。



 「う、嘘や……ワイがこんなニンゲンに……」


 「闇に還るがいい」



 喚く生首に俺は忍者刀を突き付ける。紅く輝く刀身が死神の刃となって生首に迫るその時。



 『やめたって下さい!虫の良い話だってのはわかっとります。あっしの命を取ってくだすっても構いやせん。だからどうか兄貴を……』



 電飾をギラギラと明滅させてしくしくとオイルを零しながらデコトラが命乞いをする。



 『そんなひとでも……あっしの兄貴分ですから』


 「デコトラ丸……お前……」



 ヤスが目を見開き、ほろりと涙を流した。そして、覚悟を決めたように視線を俺に向ける。



 「にいさん……ワイがここで死ぬンは自業自得や……だが、デコトラ丸はワイに言われて走ってただけだ。どうかこの命に免じて逃がしたってください」


 『兄貴!』


 「構わん。ワイが業突く張りやった報いや」



 二人の会話を尻目に忍者刀を振り下ろす。



 『兄貴ーーーーーッ!』



 飛沫いた血が生首に掛かった。忍者刀が斬りつけたのは俺自身の腕。ボタボタと落ちる血が生首に吸収されていく。



 「え?な、なんで」


 「お主ならこれでしばらく保つだろう。俺に封印されるがいい、さすればその体も修復されよう」



 俺は口寄せ封印のための巻物を取り出し二体のモンスターに掲げる。



 「闇を払って生まれ変わり、次はただこの世を走る生を全うせよ」


 「ワイらを助けてくれるンか?」



 俺はゆっくりと首肯した。



 「兄貴……兄貴と呼ばせてくだせェ!サイゾーの旦那!」


 『あっしにもそう呼ばせてくだせェ!兄貴!』



 滂沱の涙を流して転がる生首。ホラーだ。これこそ放送禁止だろう。



 【デコレーショントラックと運転手(アッシー)の口寄せが可能になりました】



 モーガンさん、どうやら馬車を買う必要はなくなったようです……デコトラだけど。




 「ところでサイゾーさんや……飯はまだかのう?」


 「もう、おじいちゃん……ご飯はさっき食べたでしょ!」



 



テンプレなのに誰もトラックに轢かれてないと気付き、トラック回となりました。テンプレたるものトラックの一台にくらい轢かれないとダメですね。


※そろそろ予告通り、週一、二くらいの更新になります。

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