NINJA、くノ一と邂逅する(挿絵あり)
「サイゾーさんや……飯はまだかのう?」
「もう、おじいちゃん。ご飯はさっき食べたでしょ!」
宿屋の一室で目の前の美女がまるで老人のような口調でボケる。いや、実際ちょっと呆けてる。そう、これがくノ一撫子さんだ。
「サイゾーさんはわしを飢え死にさせる気なんじゃー……ひぃぃ、殺されるー」
ポニーテールに結い上げられた黒髪に体のラインが浮き出た忍装束、色気を凝縮したようなたわわな乳房。ただし中身はじいさんだった……こんな展開が許されてたまるか!責任者を出せ!俺は深々とため息をついて、おにぎりを取り出す。
「おお……白い飯じゃ。じゃが、ばーさんの飯が食いたいのぅ……」
どうやって見つけたのかと言うと、くノ一の情報を集めにネイのギルドに行ったら入り口で「炊飯器も飯盒も無い」と泣いていたのを拾ってきたのだ。
「肉とパンの外人さんのような食事はわしには辛くてのう……ありがたや、ありがたや」
撫子おじいちゃんはお孫さんのゲームを何となく借りてやっていたら転移してしまったとのこと。スキルで料理を作るという考えに至らず、とりあえず日本食が食べたい一心で材料を集めていたらしい。
「このまま、この世界で孤独に死んでいくのかと思ったが……そうかい、お前さんも神隠しにあったのかい」
憂いを帯びた顔で呟く美女 (ただし中身は老人)。
「帰る方法はまだわかりませんが、俺たちと来ますか?」
「それは出来ないんじゃ」
悲しげに俯く撫子さん。俺が理由を問う前に撫子さんが言葉を続けた。
「見て貰った方が早いかもしれんなぁ。サイゾーさんや、ちょっとわしを殴ってみてくれ」
「え?いや、ご老人を殴るわけには……」
躊躇う俺に撫子さんは呵呵と笑う。
「軽くで良いんじゃよ。言ってもピンとこないような話だからのう」
「それじゃあ失礼して……」と俺はちょんと撫子さんの体に拳を当てる。瞬間、ありえない事が起こった。
「ああーーッ!」
撫子さんの悲鳴と共に忍装束が弾け飛んだのだ。肌には傷ひとつついていないのに、服だけが弾けてしまう。
「な!? なッ!? 」
俺が混乱していると撫子さんが服の残骸を纏わりつかせて立ち上がる。
「こんなふうにちょっとしたことで破廉恥なハプニングが勝手に起こってしまうんじゃよ。誰かと居るとほぼ確実にの……迷宮でも何度化け物共に破廉恥な目に合わされそうになったことか」
そう言ってさめざめと泣く撫子さん。オート破廉恥モードとか俺より酷い。
「死ぬ前にばーさんの飯が食いたかったのう……孫の成長も楽しみじゃったのに……」
この世界に来てから楽しくやっていた俺とは逆にこんなに苦しんでいる転移者も居たなんて……。
「撫子さん、諦めないでください。俺、帰る方法を探すのに協力しますよ」
俺の言葉に撫子さんはハッと顔を上げる。そのまま感極まって抱き着いてくる撫子さん。やめて、見た目は息子さんが反応しそうになる美女なんだから!これで反応したらしばらく立ち直れないから!
「おお、サイゾーさんは何と漢気のある御仁か!この爺を哀れんでくださるとは」
「いや、待って……ちょ……離れて……うわぁぁ!」
しかし、おいおいと泣く撫子さんは聞いていない。オート破廉恥モードが発動したのか、俺は撫子さんにしがみつかれたままバランスを崩しあり得ない体勢でベッドに倒れ込んだ。
「ひゃん!」
倒れた拍子に胸を鷲掴みにしてしまい、撫子さんが悶える。中身がじいさんだから辛い、色々辛い。恐ろしすぎるだろ、オート破廉恥モード!
「どうした!? サイゾー!」
音を聞き付けてロベリアさんたちが部屋に駆け込んできた。部屋の中には、服が破れたまま俺にしがみついて泣いている撫子さんと、胸を鷲掴みにしている俺。どう見ても強姦です、ありがとうございます。死にたい……。
「な!サイゾーさん、溜まっていたならわたしを使ってくれればいいのに!」
ユーニスちゃんが見当違いの非難の声を上げる。
「サイゾーくん?とりあえずお話しましょうか……」
「そうだな、ちょっと話を聞かせて貰おうか」
モーガンさんとロベリアさんの目が笑っていない。怖い。
「ご、誤解だぁぁぁぁぁ!」
俺の悲痛な叫びが宿屋にこだました。
「なんだ、そういうことだったのか」
俺は床に正座したまま事情を話し終える。足が痺れた。あ、撫子さんの忍装束は時間が立つと自動的に修復されていた。まあ、度々ああなるなら自動修復は必須か。
「はい……なので撫子さんが帰る方法を探すのを手伝おうかと」
「私は構わないぞ。遠い異国の地に来て苦しむご老体を放っておくのは寝覚めが悪いからな」
ロベリアさんがそう言うと、他の二人も軽く頷く。
「特に予定も無いしねぇ。私たちのパーティーなら各地の迷宮で稼ぎつつ行けば困らないと思うわよ?長距離移動になるから馬車でも買いましょうか。食糧はサイゾーくんの道具袋があるから保存は気にしなくていいし……ついでに他の街で仕入れたものを売り捌いて行商も兼ねれば……」
我らがパーティーの有能なオカマが早速計画を立て始めてくれる。出来るオカマは違うな。
「わたしは子種を貰うまでどこまでもついていきます!」
ギラついた目で宣言するユーニスちゃん。うん、置いて行きたい。
「ほっほっほ……サイゾーさんは人望がおありですなぁ」
人望というより、危なっかしいから保護されているだけの気もするが多分気のせいだろう。NINJAの人望ですよ、人望。
【旅の仲間 (要介護)が加わった】
いや、待てテロップ。撫子さんは介護が必要なほど呆けてねぇよ!そもそも破廉恥モードをどうするかの解決策も無いのにパーティーに加えられるか!帰る方法を探すのを手伝うとは言ったが、同行させるとは言ってない。
「ご老体、きっと帰る方法を見つけましょう」
「おお!何と心優しい娘さんじゃ!わしは……わしは……うぉぉぉん!」
「え?あ、ちょっと……きゃあぁぁ!」
撫子さんが泣きながらロベリアさんに抱きつくと、勢いで胸部のアーマーが外れた。敵の攻撃を受けても外れなかった鉄壁のビキニアーマーが撫子さんに抱きつかれただけで外れたのだ。きたない、さすが破廉恥モードきたない。
「なんだ、なんだこれは……」
顔を真っ赤にしながら胸を隠して踞るロベリアさん。撫子さんに悪気は無いので怒るに怒れないのだろう。破廉恥モードは素晴らしいな……解決策なんかいらなかったんだ!
「撫子さん、ようこそ我がパーティーへ!」
俺と撫子さんは固く握手を交わす。「サイゾー、後で覚えていろ」とロベリアさんが涙目で睨んでくるが、生おっぱいを拝めたのでちょっと殴られるくらい我慢しよう。
「そうと決まれば、明日にでもネイの迷宮で米と次の街で売れそうな目ぼしいものを狩りに行きましょうか」
モーガンさんの提案に否やはあろうはずもなくその場の全員が頷いた。
「撫子さんはずっとソロで潜ってたんですよね?前の迷宮はどのくらい行きました?」
「ふむ、確か五十階層くらいじゃったかの?」
撫子さんの言葉に三人が驚愕に目を見開く。
「五十!? ソロで未攻略層の五十階層まで!? 」
転移門が設置されていない未攻略層はすぐに戻れないこともあって危険が跳ね上がる。まあ、手応え的に変なイベントに遭遇しなければ俺もそのくらいならソロで潜れると思うけどね。ぼっちで潜るのは寂し過ぎるからやらないけど。
「人が居ないからやりやすかったぞい、あの辺りは」
モーガンさんがいち早く驚きから立ち直り俺の肩を掴んだ。目がちょっと怖い。
「サイゾーくん」
「はい、なんでしょう?」
「私たちは上の階層でお米を集めておいてあげるから、君は撫子さんと無理の無い深さまで潜って資金調達ね?」
嗚呼、モーガンさんの心の算盤が見える。そうだよな、馬車に食糧に行商の品にとなると資金はいくらあっても困らないもんなぁ。俺の希望に付き合ってもらう手前否とは言えない。
斯くして、NINJAとKUNOICHIによる迷宮アタックが決定した。
KUNOICHIやっと出せました。チーレム一直線ですよ。キャラ説明回のためギャグ少なめ……




