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奴隷NINJA(挿絵あり)

素顔の挿絵を、とのお言葉を頂きせっかくなので挿絵追加しました。反省はしない。

 「ええ!? もうこの街を発った?」



 リンディの街の冒険者ギルドで俺は素っ頓狂な声を上げる。タタルさんをリンディの街まで送り届けたその足で、噂のくノ一のことを聞きに冒険者ギルドまでやって来たのだ。



 「はい、迷宮から大量のドロップアイテムを集めるとすぐに。腕の立つ方でしたからお引き留めしたかったのですが、何やら切羽詰まった様子でしたので……。お知り合いでしたか?」



 受付嬢が丁寧に応える。どうやらすれ違いになってしまったらしい。



 「いえ、同郷の者かもしれなかったので少し気になって……次の行き先を聞いてませんか?」


 「さあ、ただ『米が足りない』とこぼしていらしたのでもしかするとネイの街へ行ったのかもしれません」


 「そうですか、ありがとうございました」



 受付嬢にお礼を言って俺はカウンターを離れた。味噌と醤油、そして米……噂のくノ一が本当にモノノケバスターからの転移者なら俺と同じく回復アイテムの材料を集めていることになるな。


 そのまま、俺は酒場に向かう。くノ一を追うにしろ追わないにしろ、パーティーメンバーと相談しないことには始まらない。



 「サイゾーくん、こっちよ」



 酒場の片隅のテーブルで先に食事と酒を注文していた三人が俺の姿を見つけて手招きする。三人は今日はハニーワインを飲んでいるようだが、俺は甘い酒と飯の組合せは苦手なので辛めの蒸留酒を注文した。



 「どうだった?」



 シアンボアのモモ肉を齧りながら問うロベリアさんに俺は肩をすくめて返す。



 「残念ながら、すれ違いになってしまったみたいで」


 「女ですか?女を探しているんですか?もう、サイゾーさんったら……わたしは何番目でもいいですよ。良いんですよ?」



 チラチラアピールしてくるエロフを聞こえない振りでやり過ごす。おっぱい原理主義者だと何度言えば……。



 「そのままネイの街へ行った可能性があるんですが、知ってますか?」



 「ここから南に行った街ね。行きたいのぉ?サイゾーくん」



 ハニーワイン片手にしなだれかかってくるモーガンさんをひっぺがしつつ、唐辛子とニンニクの利いたパスタにフォークを伸ばし俺は答える。



 「何がなんでも会いたいわけじゃないですから。同郷の人間かもしれないってだけですし。……それより」



 俺はおもむろに道具袋から小振りの容器を取り出す。



 「これ、試食してみませんか?」



 途中で買った味噌で試しに黄身の味噌漬けを作ってみたのだ。本当は卵の黄身を四、五日漬け込まなくてはならないのだが、そこはゲームスキルですっ飛ばせた。



 「あらぁ、綺麗ね。サイゾーくんの国の料理かしら?」


 「ええ、これがまた酒と合うんです」



 味噌に漬け込まれた黄身は透き通って固まっていて琥珀のような美しさがある。別名、琥珀玉。ギルド併設の酒場は持ち込み可なので好きなものを持ち込んで酒と楽しむことが出来るのはありがたい。うちのメンバーは全員酒飲みだからな。というか、冒険者ってやつは何かと飲みたがる奴が多い。俺もだが。



 「む、これは美味いな……ハニーワインじゃなくキツめの蒸留酒が欲しくなる味だ」



 ロベリアさんが黄身の味噌漬けをつまみながら物欲しそうな視線を俺の持つ蒸留酒に向けてくる。はいはい、そんな目で見なくても分けてあげますよ。



 「お、兄ちゃん美味そうなもん食ってんな?」



 リンディギルドの冒険者がそう声を掛けてきた。味噌と醤油は大量に買ったので少し振る舞っても構わないだろう。



 「食べてみます?俺の国の料理なんです」



 そう言いながら黄身の味噌漬けをすすめている間にあれよあれよと酒場の男たちが集まってくる。そう、結局また酒場は宴会場と化した。









 「ここはどこだ?」



 目覚めると狭い檻の中に居た。首には首輪。手足も縄で戒められている。


 確か昨夜はギルドの酒場が宴会場と化した後、意気投合した連中と何軒かはしごして……その後の記憶が無い。ロベリアさん達が先に宿に行ったのは覚えている。あ、思い出した……泥酔して路地裏でゲロってたら親切な通行人が酔い覚ましの薬をくれてそれを飲んだら意識が……。知らない人から貰った薬を飲むとか無防備過ぎるだろ、俺。もう当分酒なんか飲むもんか。



 「起きたのかい?」



 檻の中で隣に座っていた男が声を掛けてきた。



 「あの、ここは」


 「奴隷商のところだよ、非合法のな」



 なんだってーー!?


 つまり俺は奴隷に売られたのか?奴隷NINJAとかおかしいだろ!? 敵に捕まるならまだしも、酔い潰れて奴隷落ちとかもうNINJAとして終わってるだろ!? 



 「災難だったな。まあ、諦めるこった」


 「そんな……」



 そうだ、こんな時こそオートNINJAモードで切り抜ければいいんだ!さあ、来い!オート俺!今こそ活躍の時だ!



 【顔が晒されて力がでない】



 なんだよその『顔が濡れて力がでない』とかいうどっかのパン男みたいな理由はぁぁぁーー!


 確かに覆面が下ろされている。意識すると同時に体から力が抜けるのを感じた。随分長く晒されていたのだろう。ああ大変だ、顔を隠さなくては……。



挿絵(By みてみん)


 「お前たちはこれからネイの街に運ばれて競売に掛けられる。逃げようとしても無駄だからな」



 強面の男が室内に入ってくると同時にそう言い放った。



 「うう……おかあさん」



 檻の中で少女が泣き出す。くそ、覆面さえしていれば……このままではネイの街へドナドナされてしまう。そうだ、道具袋!道具袋からクナイを取り出して縄を切ればいい!



 【顔が晒されて力がでない】



 道具袋すらダメなのかよぉぉぉーー!この役立たず!覆面だけがアイデンティティーなんてどれだけ個性が無いんだよ、NINJA。もっとこう、独自性を出していこうぜ?時代は個性だよ、個性。



 【顔が晒されて個性がでない】



 もうテロップさんは黙って。というか、酒を大量に飲んだから催してきた。手足縛られてるけどどうすればいいんだ?



 【漏らしますか? はい/いいえ】



 ……殺意でテロップが殺せたらいいのに。



 「おにさーーん!そこの強面のお兄さん!トイレに!早くトイレに行かせてくれーッ!」



 俺の叫びが牢の中にこだました。



 見張られながら用を足すという嫌な羞恥プレイを慣行した後、俺はどうすれば口元の布を上げられるか考えている。牢の中にいる人たちは両手が縛られているので布を上げてくれと頼むわけにもいかない。



 「ゲホ……ゴホッ……」



 俺が何度も咳をすると見張りの男が気付いて俺に寄ってくる。



 「てめーまさか病気か?」


 「ちょっと風邪を……周りにうつすと事ですから口元のマスクを上げてくれませんか?」


 「チッ、仕方ねぇな……」



 男は面倒臭そうにマスクに手を伸ばすと乱暴に引き上げた。体に力が戻ってくる。嗚呼、NINJAパワーが戻ってくる。



 「掛かったな、阿呆め!」



 即座に入るオートモードスイッチ。やっぱりイベントに分類されるよな、これ。



 「あ?なにを言って……てめぇ!縄はどうした!? 」


 「ふっ、縄抜けは忍のたしなみではないか。戒めを解き放つ、斬!」



 呼び出した忍者刀を一閃すれば鉄格子は脆く崩れ去った。



 「闇から闇に消える者、影から影に渡る者……モノノケバスターNINJAサイゾー、只今推参!悪しき者共よ、闇に還るがいい!」


 「なんだこいつは!? けっ、だけど奴隷の首輪はついたままじゃねーか」



 男はニヤリと笑いながら、懐から小さな宝珠を取り出して俺の前に翳す。



 「“命令”だ。檻に戻って這いつくばれ」



 首輪が光り、俺の意識を浸食しようとしてくる。首輪とNINJAの意志がぶつかり合い光が明滅。甲高い音を立ててついに首輪が砕け散った。



 「な!? 奴隷の首輪が!」


 「笑止!俺に命令出来るのは主君と定めた方のみ!貴様ごとき下郎にこのサイゾーが御せるものか」



 気合いだけでルールを覆すとかどこの少年漫画の主人公だよ、俺は。いや、今は気合いでパワーアップご都合主義は有り難いんだけどね?



 「望まぬ者を強制的に搾取しようというその心根、斬り捨ててくれる。福利厚生無し休日無しサービス残業で物の怪と闘い続けるのは我ら忍だけで十分であろう!」



 ああ、モノノケバスター内じゃ確かに休日って無かったな……完全にブラックじゃねーか。なんだかNINJAが可哀想になってきた……。忍者刀の一閃を受けて男は崩れ落ちる。



 「……峰打ちだ。貴様には売られた哀れな民の居所を喋ってもらわねばならんからな。お縄につき、尋常な裁きを受けるがいい」



 その光景に囚われていた人々から歓声が上がった。



 「これにて一件落着!」



 【奴隷商人 (ブラック)を成敗しました】



 ちなみに帰ったらユーニスちゃんに泣かれ、モーガンさんに説教され、ロベリアさんに小突かれた。当分、俺だけ禁酒令を受けました……反省はしている。



異世界テンプレ奴隷回でした。話ごとの繋がりはありつつも一話完結モノの体裁に落ち着いてきた今日この頃。長編は犠牲になったのだ

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