NINJA危機一髪(挿絵あり)
風呂場での騒動の後、俺たちは御詫びにと供された豪華な夕食を楽しんでから眠りにつく。勿論、今度は毒入りじゃない酒も堪能できた。
「むふふふふ……」
夜半、俺は不気味な笑い声に目を覚ます。体が重い、もしかして金縛りというやつだろうか?うっすら目を開けると俺の上に何かが乗っていた。
「むふふ……良く眠ってますね。今のうちに……」
闇の中で揺れる銀糸の髪……ユーニスちゃんだ。妙に生々しい手つきで体をまさぐられる。
「いただきま……」
身の危険を感じて俺は寝惚けた頭のまま飛び起きた。寝間着に使っているモノノケバスターからの持ち込みアイテム甚平の合わせがはだけていて俺は冷や汗をかく。ヤバい、喰われるところだった。
「な、なんでここに!? 」
「えへ。ちょっと鍵をちょろまかして夜這いにきました!」
可愛らしく言っても台詞の内容は完全に肉食系である。とにかく、この場を切り抜けなくては……。
「いや、ほら、俺たち会ったばかりだろ?」
「時間なんて関係ありませんよ?」
鬼気迫るオーラを纏ってユーニスちゃんがゆっくりと飛び退いた俺に歩み寄ってくる。
「責任取れなんて言わないですから。ね?子種だけ、子種だけでいいから」
そんな「先っぽだけでいいから」みたいに言われても全然萌えないし燃えない。俺はジリジリと壁際に追い詰められた。冷や汗が首筋を伝う。まるで獲物を狙うような目のまま微笑む少女。
「むふふ……つーかまーえたー」
「いやぁぁぁぁ!喰われるぅぅッ!」
雑巾を裂くような俺の悲鳴がこだまする。それは隣の部屋まで届いたらしく、扉が乱暴に押し開けられた。
「どうしたサイゾー!? 」
「何があったのサイゾーくん!? 」
二人が部屋に飛び込んで来るが、タイミングが最悪だ。寝間着のユーニスちゃんが俺の腹部に乗り上げ、俺は半裸に剥かれている。それを見て目を丸くする二人。
「あらまあ、お楽しみ中だったかしら?」
わかっているクセに茶化すモーガンさん。俺は肉食獣に襲われたシマウマのように半泣きになって助けを求めた。俺、サバンナじゃきっと生きていけない……。
「ちが……ふざけてないで何とかしてくださいよ!二人とも!」
俺の懇願にロベリアさんがやれやれとため息をついて、ユーニスちゃんをひょいと引き剥がす。片手にぶら下げられながらユーニスちゃんは無念そうに呟いた。
「子種だけでいいのに……」
「おいこら、俺は種馬か何かか!」
思わず突っ込みを入れてしまう。肉食にも程があるだろ、このエロフは。
「本人の意思を無視するのは良くないぞ、ユーニス」
ロベリアさんがたしなめると、ユーニスちゃんしょんぼりとうなだれた。俺?俺はモーガンさんを盾にして後ろで震えてますが何か?いやだって、ロリな外見でアラフォーの生々しい執念燃やしてくるんだぞ?怖いだろ。捕まったらそのまま人生の墓場まで強制連行されそうで。
「……わかりました」
お、そうか。わかってくれたか。
「身も心も落としてから絞り取ればいいんですね!わたし頑張る!よし、旅仕度してこなきゃ。じゃ、また明日!」
「そういうことJYANEEEEEEE!」
叫びも虚しく、ユーニスちゃんは疾風の如く走り去る。旅仕度って……ついてくるつもりなのか?
【旅の仲間が加わりました】
すでに決定事項なのかテロップ!シマウマにライオンと旅をしろという無茶振りだぞ、それは。そんな不条理が許されるのはライオンキ○グくらいだろ!?
「ああ、うん……何て言うか……頑張ってね、サイゾーくん」
モーガンさんがポンポンと俺の背中を叩きながら慰めを口にする。きっと今の俺は崖っぷちに追いやられたチワワのような顔しているのだろう。
「モーガンさん……ロベリアさん……」
俺はユーニスちゃんに乱された甚平をかき合わせながら、目に涙を溜めて上目遣いに二人を見やった。男としての見栄と現実の恐怖がせめぎ合い、声が震えてしまう。
「……今夜は……一緒に寝てください」
長身筋肉覆面男の上目遣いの気持ち悪さとかそんなことはどうでもいい。またあの襲撃があるとトラウマで息子が機能しなくなりそうなことのほうが重大だ。男のプライド?……バカヤロウ、プライドで息子が守れるか!
「わかった、わかったからそんな情けない顔をするな」
ロベリアさんがあやすように座り込む俺の頭を抱き締めてくれた。あ、この体勢……丁度顔が胸に。アラフォーの恐怖に心が折れている俺はここは甘えさせて貰うことにして、ふかふかのおっぱいに顔を埋める。ああ、癒される……今ならこのくらい怒られないだろう。ロベリアさんって下手に出られたり、弱ってる相手には甘いよなぁ……。
精神を回復しつつ俺はそのまま眠りに落ちた。
「それではパパ、ママ、ケイト兄さん。行ってきます!」
旅館の前で、これから敵の陣地を蹂躙しに行く兵士のような顔をしてユーニスちゃんが言う。
「婿殿をきっちり捕まえてくるんだぞ、妹よ!」
「はい、兄さん!」
ガシッと抱擁し合う兄妹。もうエルフなんか嫌いだ。俺の内心を知ってか知らずか、ケイトが俺に向き直る。
「妹を頼む。それとこれは昨日の詫びと礼だ。受け取ってくれ」
そう言って渡されたのは薔薇に酷似した花の花束。……男から薔薇の花束渡されて嬉しい男がいるだろうか?礼じゃなく罰ゲームだろ、これは。
「ケイト兄さん、それは兄さん秘蔵のキュアラローズじゃないですか」
「いいんだ、妹よ。これはサイゾーのような男にこそ相応しい」
二人の説明によると、この薔薇もどきはあらゆる状態異常を回復させる効果がある貴重なものなのだとか。役に立つなら貰っておこう。
「ハッハッハ、サイゾー様はおモテになりますなぁ」
すでに馬車に待機しているタタルさんが笑う。いや、笑い事じゃないからな?
結局、リムケユの街に到着した時と変わらぬ面子で俺たちは一路、リンディの街を目指す。そして俺は相変わらず鶏に騎乗している。道行く人々の視線が痛い、そんなに見られると穴が空くからやめてくれ。これはもう、どこかで馬モンスターを封印する必要があるな……俺の精神のために。
まだ街に近く人が多いためゆっくりと街道を進んでいると、すれ違う旅人の会話が漏れ聞こえてきた。
「リンディのギルドに最近凄い奴が現れたらしいぞ?」
「ああ、なんでもソロで迷宮の味噌と醤油を狩りまくってるとか」
へえ、俺以外にも味噌と醤油を欲しがる奴がいたのか。
「なんて奴だったか……えーとそう!KUNOICHIだ!」
なんだってーー!?
KUNOICHI?くノ一?もしかして、俺以外にもモノノケバスターから転移した奴がいるのか?モノノケバスターのヒロインの一人、くノ一撫子はそれは美人なおっぱい忍者だったはずだ。これはリンディの街へ行く目的が増えたな。いや、下心は無いぞ?同類が居るかもしれないから期待してるだけだぞ?ホントだぞ?
俺の夢と希望を乗せて馬車はガタゴト進む。
シマウマ系チワワNINJA。ナイスガイなNINJAなんかうちにはお置いていよ……。




