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『中途半端で何が悪い』

<魔法紹介>

属性

魔法には属性がある。火、水、風、雷、地が主な属性で、他にも数種類の属性がある。ミディリアの人間は幾つかの属性を体内に吸収することができるが、吸収できる属性は、人によって異なる。

____その男は奇妙だった。

 大福の様に丸っこい顔で、小さな目を隠すくらいの面積しか持たない丸いサングラスと、水泳帽の様な黄色いゴム帽子を被り、頬を持ち上げるくらいの笑顔でアダーラの死体の上に(たたず)んでいたのだ。

「それにしても相変わらずの腕前ですねぇ、ディレスさん。」

 完全な円形と言っていい程膨れたお腹で、黄色と白のピッチリとしたボーダーライン柄のオーバーオールを着こなしながら、それを支える二本の細い足を前に出し、飛び込むかのように酸の湖へ身を沈めた。

「ぷはっ!…この湖の上を超スピードで駆け抜けアダーラに蹴りを食らわせるなんて、人間業じゃありませんよ。」

 酸の湖から顔だけを出し、依然として変わらぬ笑顔でディレスの方へ歩き出した。

「そしてアダーラが仰け反った勢いと共に、壁から舌と一緒に引き抜かれた大剣で真っ二つ…。いやはや、末恐ろしいですねぇ。」

 湖から上がり、ディレスの目の前に立つ。酸の湖に浸かっていたにも関わらず、肌はおろか服にさえ傷一つついていなかった。

「……俺には、お前の方が末恐ろしいがな。」

 謎の男を見下ろし、ディレスはその場を去ろうとする。

「おや、どちらへ行かれるのですか?」

 謎の男が手を後ろに組んで質問した。

「仲間の所だ。依頼を達成せねばならんからな。」

 ディレスは振り向かず歩きながらそう答えた。

「ほう、仲間ですか…。」

 謎の男は、意味深に不敵な笑みを浮かべる。

「そういえば知っていますか?犯罪クラン『アンエイグルス』の話。」

 その言葉で、ディレスは歩みを止めて反応する。

「近頃静かにしていたそうですが、また動き出したみたいですよ。」

「なんだと…?」

 ディレスは静かにそう言うと、顔を僅かに謎の男に向けた。


________


「てめぇ、なんて事しやがる…!」

 フロッツェルは怒っていた。目の前の獲物を仲間に横取りされ、冷静でいられる彼では無かったのだ。

「ご、ごめんよ。でもリーダーがやれって言うもんだからさ…」

 両掌を振りながらテュパはジクリーを見上げる。ジクリーは黙って腕組みをしていた。

「リーダー、どういう事だ?人の獲物を奪うからには、覚悟出来てんだろうな?」

 不穏な空気が三人を包む。しかしジクリーは冷静に答えた。

「ああ、そうだな。済まなかった。」

 腕組みを解き、閉じていた目を開く。

「だが、今一度思い出せ。俺たちは『盗賊団』だ。人を殺める事が目的ではない。先程の事もそうだが、お前がしようとしたそれは盗賊団たり得る行動だったか?」

「…それは…、そうだけどよ…。」

 ジクリーの言葉で、フロッツェルは少し冷静さを取り戻す。

「お前の考えが正しいとは思わん。だが、決して間違いであるとも思わない。人の数だけ考え方があるんだ。たとえ否定されようとも、お前は、お前の思う事を信じて生きればいいのではないか?」

「リーダー…」

 テュパが思わず声を漏らす。そこまで考えての行動だったという事に、尊敬の念を感じたのだ。そして、それはフロッツェルも同様だった。

「悪りぃ……済まなかったぜ、リーダー。」

 フードを頭から外し、フロッツェルは反省した。

「気にするな。それよりも、早く宝を探しに行くぞ。」

 三人が和解したその時だった。どこからか見知らぬ声が聞こえて来たのだ。

「う、うぅん……」

 三人は驚き、固まるように集まる。

「な、なんの声だい?」

「わ、分からん、誰かいるのか…?」

 テュパとジクリーが互いに顔を見合わせる。

 その声の正体に気付いたのは、フロッツェルだった。

「おい、あれ…。」

 フロッツェルの指差した方向を二人は見る。その先にあったのは_____

「あ、あれ…?一体何がどうなったの…?」

 _____フーカだった。確かにテュパの魔法弾で撃たれたはずの彼女は、信じられない事に無傷で立ち上がったのだ。

「な…!あんた、どうして生きてるんだい!?」

「な、何でって…?」

 一番驚いたのはテュパだった。確かに手応えもあった。それなのにこの少女は生きている____、無意識の内にテュパは銃を構えていた。

「っ!おい、テュパ!?」

 ジクリーの言葉を横目に、テュパはフーカ目掛けて魔法弾を発射した。それは一直線に飛んで行き、フーカの右腹部を捉えた。だがしかし、魔法弾はそのまま音もなく消えてしまったのだ。

「……なっ……!?」

 驚きで声も出ないテュパに、フロッツェルは聞いた。

「おいテュパ、もしかしてアイツ、魔法弾を吸収してるんじゃないか?だから他の属性の魔法弾で攻撃すりゃあ…。」

「そ…それは無理なんだよ…。」

 フロッツェルの言葉を途中で遮り、答えた。

「だって、アタシの魔法弾は…五つの属性を含んでるからさ…!!」

「な……!!」

 テュパの魔法は、火、水、風、雷、地の五つの属性を銃弾として放つ魔法だ。だからこそ、あり得ない現象が起こっていたのだ。普通、ミディリアの人間が吸収できる属性は、一人あたり一つか二つである。それは生まれつき決まっていて、訓練を積む事によりある程度まで強化する事が出来る。しかしそれでも、五つの属性を吸収するなど不可能な話で、前例など存在しなかった。

 だがそれは、あくまでも『ミディリアの人間』の話に限る。僅かながら、別の可能性もあり得るのだ。それに気付いたテュパは冷静さを取り戻し、突然フーカを蔑む様な目で見た。

「そ…そうかい、あんた地球(エア)の人間なんだね?」

 その目に、フーカは若干の恐怖を感じる。

「そ…そうですけど…それが何だっていうんですか?」

「何…?地球(エア)の人間だと…?」

 地球(エア)の人間_____。その事実は、やがてテュパだけでなくジクリーとフロッツェルをも冷たい目に変えていく。それはまるで汚い物でも見るかのような____、迫害の眼差しだった。

「な、何ですか?地球(エア)の人間だからって、それがどうしたっていうんですか!?」

 何が起きてるのか、フーカには分からなかった。しかしこれだけははっきりと分かっていた。

______怖い…、とてつもなく_____。

 フーカにとって、味わったことのない感覚。それが、徐々に心を侵食していったのだ。

 やがてテュパが、その感覚の正体を告げた。

「…何もどうしたもないさ。地球(エア)の人間ってのは、魔法が効かないし使えない。この世界じゃ魔法を使えない奴は半端者のクズ。いや、それ以下の存在さ。」

「……っ!?」

 フーカは耳を疑った。嘘に決まっている。だって、何故なら_____。

「そんなの、嘘に決まってます!だって、アルビットさんたちは私を助けてくれましたからっ!」

_____そう。アルビットとディレスは助けてくれたのだ。フーカの依頼を受けてくれた。テュパの言うことが本当なら、そんな事をするはずがない。しかしテュパは、追い打ちをかける様に冷酷な言葉を浴びせた。

「はっ!おめでたい奴だね。そいつらも、あんたを利用してたのさ!あんたが取った宝を横取りする為に仲間のフリをしてたんだよ!」

 フーカの心に何かが刺さった。頭がぐるぐるし、膝から崩れ落ちる。

 もちろん、信じられるような事では無かった。信じたくなかったからかもしれない。しかし、テュパたちの冷たい目は、紛れもなく本物…フーカ自身に向けられていた。もしかするとアルビットとディレスも同じ様に、心の中ではフーカを嘲笑っていたのかもしれない。利用していたのかもしれない。そう考えると、止まらなくなった。

「嘘…そんなの…、」

 へたりと座り込み、俯いたまま呟いた。

_____地面を見つめながら、涙が止まらなかった。


「嘘なんかじゃないよ。魔法も使えないような半端者を助ける奴なんていやしない。だから、その宝の地図をこっちに______」

 テュパがフーカに近づき、手を伸ばした。しかし、そこから違和感に気付く。

「…………?」

 伸ばした手が動かない。それどころか、後ろに引っ張られる感覚がテュパを襲う。

「お、おい、何だこれ…?」

「体が動かんぞ…?」

 テュパだけではない。ジクリーとフロッツェルもだ。

「………?」

 止まらない涙を流しながら、フーカは顔を上げた。その目に光はなく、目の前の風景は滲んで見えなかった。

「くっ、なんだいこれは!?動かないよっ!これもあんたの仕業かい!?小娘!」

 テュパが必死に足掻き地図を奪おうとするが、その手がこれ以上フーカに近づく事は無かった。『何か』によって阻止されていたのだ。

 それはもちろん、フーカの仕業ではない。何故ならこれは紛れもない『魔法』_____。誰かが、フーカを守るために魔法を使っているのだ。誰かが______。

「くそっ!半端者の小娘が!とっとと地図を……」

「いい加減にしろ。」

____声が聞こえた。テュパの後ろ、フーカの目の前から。

 全員が声の方向に顔を向ける。身動きがとれないにも関わらず、その方向にはすんなりと顔を向ける事が出来た。

「て、てめぇは…!?心臓を突き刺して死んだはずじゃあ……!?」

 フロッツェルがうろたえた。目の前が滲んで見えないフーカだったが、すぐに分かった。その声が誰なのか。そう、その声の主は____。

「フーカ、無事か?ごめんな、すぐに助けてやれなくて」

「………アルビットさん……!」

 確かに心臓を刺されたはずのアルビットが、そこに立っていた。

「どういう事だ…!?何で生きてやがる!?」

 フロッツェルが懐にしまったナイフを取ろうとするが、やはり動かない。

「さぁ、なんでだろうな。」

 アルビットがほくそ笑む。すると、盗賊団三人の身動きの制限が解除された。そのままフーカの前まで歩いていき、しゃがみこんでフーカの頭をポンポン叩いた。

「アルビットさん…、私……。」

 涙でぐしゃぐしゃの顔で、精一杯振り絞って声を出した。それにアルビットはニコッと笑って答える。

「安心しろって。俺たちはフーカを見捨てたりしない。言ったろ?依頼者を信頼出来ないようじゃ、この仕事はやってられないって。」

 フーカの頭から手を放し、曲げた人差し指で涙を拭った。

「…フーカは、俺たちを信頼してくれるか?」

 その言葉でフーカの目に光が灯っていく。暖かい何かが彼女を包み込む。そして、いつも通りの明るい返事をした。

「はい……っ!信じてますっ!」

「ああ!そんじゃ早いとこ、こいつらを片付けないとな。」

 アルビットは立ち上がり、盗賊団を見る。先程身体の自由を取り戻した三人は、一箇所に集まっていた。


 しかし奇妙だった。。テュパが左肩に付けた傷も、フロッツェルがナイフで突き刺した心臓の痕も左頬の擦り傷もアルビットには残っている。血は止まっているようだが、そもそも心臓を一突きされて生きているというのがおかしい。盗賊団三人は、不気味にアルビットを見ていた。

「お前…どういう体の構造してんだ?それも魔法なのか?」

「魔法…まぁ、ちょっと違うけどそんな所だ。」

 フロッツェルの質問に、アルビットはややぼかす様に答える。

「魔法が使えるなら、何だってそんな地球(エア)の半端者を助けるんだい!?そんなクズ、放っておけば良かったじゃないか!」

 テュパの何気無い一言で、アルビットは目つきを変える。普段のアルビットの優しそうな目とは全く対照的な、鋭く怒った目だ。

「半端者だっていいじゃないか。魔法が使えなくたって、おかしい事なんか何もない。」

 空間一帯の空気が変わる。地面に落ちている小石が徐々に宙に浮き、アルビットに引き寄せられていく。

「フーカはいい奴だ。自分が足手まといにならない様に頑張ったり、傷付いたら心配してくれる。」

 やがて宙に舞う小石は、それぞれがまるで地面に落下する様に別の方向へ飛んで行き、次第に盗賊団の三人の身体も宙に浮き始める。

「な、なんだこれは…!」

 自分たちの身体が軽くなった様にフワフワと浮きながら、三人は身動きが取れなくなっていた。

「ディレスだってそうだ。王宮騎士を辞めた半端者だってのに、今は俺のクランで一番頼りになる奴だ。俺は、そういう半端者たちが入れるクランを目指してるんだ。」

 三人は変わらず浮きつづける。これはもはや、重力の法則を無視していた。

「重力が……!!まさか、これがアイツの…!」

 そこで切れたように重力が戻り、三人は尻餅をついて落下した。アルビットは構わず、最後の言葉を続けた。

「中途半端で何が悪い。人と違くて何が悪い。半端者を、一生懸命生きてる奴らをバカにするのは……許さないぞ。」

 アルビットの威圧に三人は尻込みする。そして恒例のように、会議を始めた。

「や、やばいよ。謝って許してもらえる雰囲気じゃないよ。ここは逃げた方がいいんじゃないかい?」

「しかし、今みたいに重力を操作されたら逃げるどころではないぞ…!」

「ここは一か八か、戦うしかねぇみたいだな…。」

「で、でも…」

 残された最後の選択肢とはいえ、ジクリーとテュパはためらう。

「大丈夫だ!三対一なんだぜ、さっきみたいにやりゃあ勝てるはずだ!」

 フロッツェルは立ち上がった。それにつられるように、ジクリーとテュパも立ち上がる。

「行くぜ!テュパ、リーダー!」

「うん!」

「ああ!」

 フロッツェルがアルビットに突進する。先程と同じ様にテュパが銃を構え、ジクリーは地中に潜った。

「……何にも分かってないな、お前ら。」

 アルビットは呆れるように目を細める。右手をパーにして前に伸ばし、黒い球体を出現させた。そして力を込めると、黒い球体が前進し、やがてフロッツェルとすれ違った。

「はっ!どこ狙ってやがる!」

 フロッツェルが突きの体勢でアルビットに近づいた瞬間______。

「っ!?うおっ!!」

 突然、先程の黒い球体に引き寄せられた。そのまま前進する黒い球体に連れ去られ、勢いよく壁に衝突した。

「ぐぁっ…!!」

「フロッツェル!!」

 テュパがフロッツェルに一瞬気を取られる。そしてアルビットに視線を戻すが、その一瞬の内にアルビットはテュパの目の前まで移動していた。

「あ……」

「遅いよ、構えるの」

 テュパの銃を手で軽く弾き、くるりと振り向く。その五メートル程先には、ちょうどジクリーが地中から出てきた所で、呆気に取られた顔と手だけを出していた。

「あのさぁ、もっと別の手で来なって。さっき見てるんだからさ、そのコンビネーションは。」

 テュパを背にしながらアルビットは続ける。

「あ、あんた、何者なんだい…!?」

 震える声のテュパに対し、アルビットは左胸のナイフの傷に触れ、衝撃発言をした。

「……さっき誰かが言ってたよな。何で生きてるんだって。でもさ、大体想像はつくだろ?不死身なんだよ。……俺は。」

____そう。死んだはずの彼が生きていたのは、彼が不死身だったからである……。

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