ジクリー、頭を叩かれる。
<キャラクター紹介>
ディレス・レゴリー 性別:男
クラン『セントラ・エッジ』のメンバー。32歳。
オールバックで、無精髭を蓄えている。昔は王宮騎士団に所属しており、その実力はリーダーのアルビットよりも上である。
頼れる存在だが、少々抜けている所もある。
身長:186cm
体重:79kg
「待てコラぁー!」
走り去る何かを追うアルビット。きっとアイツがフーカを連れ去ったに違いない。
その距離はどんどん近くなっていく。そして、ついにその後姿を捉えた。
「捕まえたぞ!」
「うわっ!」
体制を崩し、捕まえたなにかを下敷きにするように倒れこんだ。
「いってて…ん?」
顔を上げると、そこにはフーカと…三人の見知らぬ人間が同じように倒れていた。
「フーカ!大丈夫か!?」
アルビットはすくっと立ち、フーカに手を差し出す。
「は、はい。大丈夫です。ありがとうございます。それよりも…。」
差し出された手を取り、フーカも立ち上がった。そして地面に倒れこんでいる三人組を訝しげに見下ろした。
「この人達は一体…?」
倒れている三人組_____。
一人は右目に眼帯、もう一人は金色のフードを被っている。最後の一人は、青色の長い髪から察するに女性だろうか。一言で言えば「怪しい連中」だ。
「う、ううん……」
眼帯の男が目を覚まし、ハッとなり倒れている2人に声を掛けた。
「お、お前達!起きろ!」
「ん…」
その言葉で残りの二人も起き上がる。そしてアルビット達をみて、三人同時に驚いて壁際まで素早く後ずさりした。さすがのアルビットも、ワンテンポ反応が遅れてから口を開いた。
「だ、誰だお前達…」
壁に背中を付けながら、三人組はアルビット達に聞こえないように小声で相談を始めた。
「ど、どうすんだいリーダー。小娘だけ連れ出すつもりが、もう1人来ちまったじゃないか。あれは一体誰だい?」
「うむ…暗くてハッキリとは見えんが、アレは恐らく……」
眼帯の男は一瞬溜め、閉じていた目を見開いた。
「……ディレス・レゴリー……!!」
「な、なんだってぇ…!?」
2人に衝撃が走る。
「んなワケあるか。あれはちげーよ。」
金色のフードの男が、眼帯の男の頭を叩いた。
「痛っ、お前今、たた…!?」
「ディレスじゃないって事は、アレは誰なんだい…?」
眼帯の男を気にもかけず、青髪の女が質問した。
「もう1人いただろ。俺にはこの暗闇でもハッキリ見えるぜ。見た所10〜20代って所か…。何とかなりそうだ。」
「本当かい…!?」
フードの男が懐から武器を出そうとする。しかしそれを眼帯の男が止めた。
「いや待て、ここは穏便に済ませるぞ。」
眼帯の男は二人を交互に見る。
「俺たちは『盗賊団』だ。宝を持ってない連中を痛めつける訳にはいかん。それに、ディレスだってまだどこかに潜んでいるんだ。今は、アイツらの仲間のフリをするのが得策ではないか?」
いつになく頼れるリーダーのその顔つきに、2人も納得した。
「…そうだな。リーダーに言われちゃ仕方ねぇ。」
「さすがリーダー。決める時は決めるね。」
こうして、怪しい三人組_____もとい『ジクリー盗賊団』の意見がまとまった。
しかし、提案したリーダーのジクリーには別の理由があった。そう、何を隠そうこの男は_____
(よし。これでいい。これで闘わずに済むぞ。痛いのは嫌だからな。決してビビってるわけではないぞ。決して……。)
_____臆病なのである。それはもう、心の中で言い訳してしまう程。
「…おーい、誰なんだって聞いてんだけど…。」
痺れを切らしたアルビットが、再度声を掛けた。その言葉に反応したのは金色のフード、フロッツェル。
「あぁ、待たせたな!俺たちは『ジクリー盗___ぐむっ!?」
慌ててテュパが口を塞ぐ。そしてフロッツェルの胸ぐらを掴み、声を殺して叫んだ。
「あんた馬鹿かい!?『盗賊団』なんて言ったら、モロバレじゃないか!!」
「す、すまん…。盗む事以外になると、どうも頭が回らないぜ…。」
「もういいよ!ここはアタシに任せな!」
フロッツェルを放し、テュパはアルビットの方に向き直る。
「えーと、すまなかったね。アタシ達は旅の者だよ。興味本位でこの鉱山に入ったはいいものの、迷って困ってたんだ。偶然あんた達に会えて助かったよ。良かったら鉱山を出るまでの間、一緒に行動しないかい?」
テュパの言葉に、ジクリーとフロッツェルもウンウンと頷いた。
「へぇ、そうだったのか。そりゃ大変だったんだなー。」
テュパの言葉を信じるアルビット。その反応に、三人は心中でニヤリと笑った。
「そうなんだよ。だから一緒に_____」
そこまで言った瞬間だった。テュパの言葉を遮り、アルビットは声のトーンを少し落とした。
「なんてな、嘘だろ。」
「っ!?」
予想外のアルビットの言葉に、3人は肩をビクつかせた。
「旅の者が理由もなくこんな真夜中に鉱山へ入るのか?」
「う…」
「そもそもフーカを連れ去ってる時点で怪しい。」
「うう…!」
「どちらも、俺たちの目的をどこかで知っていて、利用しようって考えでもなけりゃ出来ない事だ。」
「ううう…っ!」
アルビットは、人差し指を三人組に向けた。
「要するにお前ら、フーカが探している宝を狙った___盗賊団か何かだろ?」
「ぜ、全部バレたーーーーっ!!」
三人は、口を揃えて叫ぶのだった。
____________
「さて、どうしたものか……。」
ディレスは、巨大ヘビ『アダーラ』と対峙していた。
先程まで広い空間だったその場所は、地面一帯が紫の酸の湖に変わっていた。コポコポと毒々しい泡が出ては消え、周りの地面に侵食していく。
ディレスは壁に垂直になるように剣を刺し、柄の上に立つ事で難を逃れていた。しかしこのままでは身動きが取れない____。肝心のアダーラはというと、酸の海の中に身を潜めている。そしてそこから顔だけ出し、ディレス目掛けて勢いよく自慢の舌を伸ばして攻撃した。
「!!」
ディレスはその攻撃をジャンプしてかわす。が、アダーラの舌は標的を大剣に変え、柄に巻きついた。
「…!しまったな……」
このままでは柄に着地出来ない。かといって柄に着地しなければ、酸の湖へ落ちてしまう。
ディレスは一瞬目を閉じると、小さく息を吐いた。
「仕方がない…。少し、本気を出すか。」
__________
「……ふ、ふん、よく分かったな。その通り!俺たちは____『ジクリー盗賊団』だ!」
フロッツェルが開き直り叫んだ。
「ええい、こうなりゃヤケだよ!あんた達!その宝の地図と金目の物、置いて来な!!」
「くそ…やはりこうなるのか…。」
フロッツェルに合わせて、テュパも叫ぶ。ジクリーは小さく呟いた。
「嫌だね。宝まであともう少しなんだから。な、フーカ?」
「そ、そうです!あなた達みたいな人に取られてたまりますか!」
「おいおい、まだ状況がわかってないようだな。」
フロッツェルは勝利を確信しているかのように不敵な笑みを浮かべている。
「どういう事だ?」
「分からないのか?数は三対二。こっちの方が有利だぜ。それにこっちには…俺がいる。」
フロッツェルが懐から一本のナイフを取り出し、構えた。どうやら戦闘には自信があるようだ。
「ふーん。何だ、そんな事か。」
しかしアルビットは余裕そうに、耳を小指でほじりながら言う。
「数なんか関係ないぜ。お前ら三人、俺一人で十分だ。」
その言葉が、三人を怒らせた。
「な、なんだと…!?」
「そこまで言われちゃ、黙っていられないね。」
「…ああ。俺たちの恐ろしさを、とくと見せてやろう。」
空間一帯がピリピリした空気に変わる。
「フーカは下がってな。危ないから」
一人で相手をしようとするアルビットの横顔を、フーカは心配そうに見つめる。
「だ…大丈夫ですか、アルビットさん…!いくらなんでも、三対一なんて…!」
「そっか、フーカはまだ俺の魔法知らないからな。いいから見てなって。」
心配そうなフーカを手で制し、ジクリー達を見る。そして意識を集中させると、右手から黒い球体のような物が出現した。その不可思議な球体を握り拳で覆い、構えた。
「さあ、かかって来い!」