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フーカ、誘拐される。

<魔物紹介>

オルドドラゴン

オルド平原に住む竜。普段は温厚だが、ナワバリに入られるとものすごいキレる。だが、その巨大な見かけに反してあまり強くないため、ナワバリに入っても危険は少ない。

 標高約300m。先程倒したオルドドラゴンとは比べものにならない大きさの、マカ鉱山。

 アルビットたち三人は平原を越え、ついに目的地に辿り着いた。

「うわぁ…すごい高さですね…。」

 目の前に立ちはだかるそれは、『山』というよりも『岩』と言った方がしっくりくる。その高さに圧倒されながらも、フーカは見える事のない頂上を見上げていた。

「やっと着いたぞ。ここがマカ鉱山だ。」

「これから、ここを登るんですか?」

 太陽はすでに姿を消し、空が暗く染まっている。この悪状況で山を登るのはさすがに危険だ。

 しかし、一息ついたアルビットの口からは予想外というよりも、想像もしていなかった言葉が出てきた。

「登る?こっから下るんだよ。」

「え、下る…?」

 アルビットは目の前を指差し、続けた。

「ほら、あそこ。入り口があるだろ?あそこから下に行くんだ。」

 指差された方向を向くと確かにあった。人為的に造られたと思われる、鉱山の入り口。

「この鉱山はさ、地下に行くほどレアな金属が採掘出来るんだ。だからトレジャーハンターとかが穴を掘りまくって、いろんなところに出入り口が出来てるんだよ。」

「…そ、そうなんですか…。」

 辺りを見回すと、そこら中に穴があるのが発見できた。鉱山というよりは『巨大アリの巣』の様だ、とフーカは思った。

「おい、地図はあるか?見せてみろ。」

「あ…はい。」

 ディレスに言われ、フーカはショルダーバッグの中から宝の地図を取り出し、渡した。(かかと)を上げながらアルビットも横から地図を覗き込む。

「……どうだ、ディレス?宝の場所分かるか?」

「…ああ。多少道は入り組んでいるが大丈夫だろう。」

 ディレスは地図をフーカに返した。

「よーし、じゃあ行くぞ!フーカ、準備はいいか?」

「はい!OKです!」

「ここから先は魔物の巣窟でもある。はぐれないようにしっかりと着いて来い。」

 三人はマカ鉱山へ足を踏み入れた。_____そしてその直後、すぐ近くの草むらから怪しい三人組がひょっこりと顔を出す。

「おい。聞いたか、お前たち?」

「ああ、確かに聞いたよ。」

「この先に財宝があるって言ってたな。」

 アルビットたちが鉱山に入って行く後を、この三人組は密かに尾行していた。


_____『ジクリー盗賊団』。近頃現れた盗賊団で、主にクランに所属している人間を狙い、依頼などで獲得した金目の物を汚い手段で奪い取ることを生業(なりわい)とした、盗賊というよりは強盗に近い集団である。それぞれ、左眼の眼帯、金色のコート、頭の上から垂らした青いポニーテールが特徴的だ。


 そのリーダー、眼帯のジクリーが今回目をつけたターゲットがアルビットたち三人だ。

「ジクリー。あいつら、俺知ってるぜ。確か『セントラ・エッジ』とかいうクランだ。」

 戦闘員のフロッツェルは、顎に手をあてながら言った。月の光で金色のコートが微かに光る。

「セントラ・エッジ?…って事は、あの背中に大剣背負ってた奴は、もしかして元王宮騎士のディレス・レゴリーか?」

 ジクリーは驚いてフロッツェルを見る。

「あぁ、多分そうだぜ。マトモに戦ったら……この俺でも危ねぇかもな。」

「ほんとかい……!?それってヤバイんじゃないのかい?」

 盗賊団の紅一点、青髪のテュパも冷や汗をたらりと流す。

「うぅむ……。偶然この鉱山を歩いてたから目をつけたが、どうする?」

 ジクリーの一言で、3人は輪になるように集まってしゃがみ、会議を始めた。

「今回はやめるべきじゃないかい?元とはいえ王宮騎士が相手じゃ、返り討ちにあうよ。」

「ああ、テュパの言う通りだ。フロッツェル、お前はどう思う?」

「確かに危険だ。だが考えてもみろよ。王宮騎士が請け負う程の依頼だぜ。きっと、とんでもねぇ宝が埋まってるに違いないぜ。」

「そうだな…それも一理ある。」

「でも、あいつらが取った宝を奪う手段なんかあるのかい?」

「それは…おそらく無理だろう。やはりここはおとなしく……」

「いや、方法ならあるぜ。」

 フロッツェルはニヤリと悪い笑みを浮かべる。

「なに、本当か?」

「本当かい?」

 ジクリーとテュパはほぼ同時に声を上げた。フロッツェルはこくりと頷き、話を進める。

「セントラ・エッジのメンバーに女はいなかった筈だ。て事は、一番後ろにいたあの女、あいつは間違いなく依頼主だぜ。そしてあの女は宝の地図を持っていた。という事はだ、隙を見てあの女を誘拐して宝の地図を奪っちまえばいい。そうすりゃディレスたちは、道も分からず依頼主ともはぐれ混乱する。その間に宝を取るって寸法よ。」

 どうだ?とフロッツェルは自慢気に2人に聞いた。

「す、すごいよ!この作戦なら宝を横取りできるんじゃないかい!?」

「そうだな…完璧だ。」

 フロッツェルの作戦に2人は大賛成のようだ。そのまま指揮をとりながら、一番前を進んで行く。

「よぉし、そうと決まれば早速行こうぜ。宝を奪いによ。」

「うん!」

「ああ。……ところで、リーダーは俺だからな…。」

 ジクリー盗賊団もマカ鉱山へと入って行った。


___________


 一方、アルビットたちは鉱山を進んでいた。

「うへーっ、思ったより中は暗いなー。」

「そうですね…。足下が見えないです。」

 鉱山の中は日が暮れている事もあってか非常に暗い。直線に続く道の中にも幾つかの別れ道があり、少し気を抜くとはぐれてしまいそうな程だ。

「なぁディレス、明かりとか持ってないのか?」

 アルビットが辺りを見回しながら聞いた。ディレスはやれやれといった表情で右手から炎を出す。

「これなら少しはマシになるだろう。」

 炎を中心に、周りが少し明るくなった。

「おお、サンキュー、ディレス!」

「ディレスさん、ありがとうござ……って、キャーーーっ!!」

 明るくなった途端、突然フーカが何かを見て叫び出した。悲鳴がエコーとなり洞窟内に響き渡る。その声に二人は驚いて、慌ててフーカの方を振り返る。

「ど、どうした、フーカ!?」

「こ、これ……。」

 しゃがみ込んだフーカは震える指をそれに向けた。

「これは……」

「おぉ、ガイコツ!」

 フーカが見たそれは人間の頭蓋骨だった。

「な、何でこんな所に…?」

 青ざめた顔のフーカは、今にも泣き出してしまいそうだった。

「魔物の仕業だな。この痕跡からして、蛇の魔物『アダーラ』。鉱山に入ってきた人間を捕食しているのだろう。アダーラは人間の骨だけを綺麗に残すからな。」

「そ、そんな魔物がいるんですか…?」

 フーカは唾を飲み込む。ドラゴンや魔法同様見た事ない物だったが、これは決して見たくない物だった。

「逃げるなら今の内だぞ。」

 ディレスのその言葉に、フーカは少しむくれて反論する。

「逃げません!お宝があるのに引き返してなんかいられないです。」

 何か固い決意でもあるかの様に、フーカは勇敢に立ち上がる。そして、その勢いで一番前を歩き出した。


__________


「いたぞ、ディレスたちだ。」

 その頃、ジクリー盗賊団はアルビットたちに追いついていた。

 少し後ろを気づかれないように尾行しながら、ヒソヒソ声で会議をする。

「どうするんだい?あの女、一番前を歩いているじゃないか」

「どういう事だ……?もしかしてアイツ、ディレスよりも強ぇっていうのか……」

 フロッツェルも合わせてうろたえる。しかし、この状況をジクリーは冷静に分析していた。

(いかんな…。予想外の出来事に2人は取り乱している。リーダーの俺がしっかりしなければ……!)

 一番後ろを歩いていたジクリーだが、ここ一番でそのリーダーぶりを発揮した。前を歩く二人に右手のひらを向け、指示を出す。

「落ち着け2人共。ここはいったん引き返…」

「とりあえず様子を見ようぜ。まだチャンスはある筈だからな。」

「それが得策だね。」

 フロッツェルの一言で、しばらく様子を見る事に決定した。

「……ん?リーダー、何か言ったかい?」

「……いや、何も。そうだな。様子を見るか。」

 ジクリーは寂しげに手を下ろした。


____________


 着々と財宝に近づくアルビットたち。再び先頭をアルビットが歩き、フーカ、ディレスと続く。

「そういえば、クランの人達って他にはいないんですか?」

 暗がりに耐えられなくなったフーカは、恐怖を紛らわそうとアルビットに話題をふっかけた。

「いるよ。俺とディレスの他に、あと2人。」

「2人…という事は、全員で4人なんですね。他のクランもそのくらいなんですか?」

「いや、普通はもっといるけどな。俺たちのクランは最近できたばっかりだからな。」

「そうなんですか…。」

「リーダー含め4人のクランなど前例はないがな。」

「えっ?」

 ディレスが後ろで独り言のように呟く。それに対し、アルビットは右頬をポリポリ掻きながら、誤魔化すように繋いだ。

「ま、まぁ、色々あるんだよ。それよりも先を急ごうぜ。」

 そこで話を切り、足早に進み出した。どうやら何か訳ありのようだが、ここでそれを質問する事はフーカにはできなかった。


 どのくらい奥深くまで来ただろうか。かれこれ1時間は経過している。道中にはコウモリの魔物やゼリー状の魔物などが出現した。それらを全て魔法を使わず倒し、アルビットやディレスにはまだ余裕があったが、女の子であるフーカはそうではなかった。

「ハァ、ハァ……」

 彼女にはだいぶ疲労が溜まっていた。二人について行くだけでも精一杯だったが、しかし足手まといになりたくない一心でなんとかその足を動かしていた。

「大丈夫か?」

 アルビットが声をかける。それにフーカは笑顔で答えた。

「大丈夫…ですよ。早く、先に…い、行きましょう…。」

 表面上では笑っているものの、今にも倒れてしまいそうなのが見てとれた。

「……おーいディレス、休憩しようぜー。俺疲れちまったよ。」

 再び最前列を歩いていたディレスにアルビットは呼びかけた。そしてフーカに向き直り、

「ゆっくり行けばいいさ。別に誰かと競争してるわけでもないしな。だろ?」


 アルビットの気遣いに、フーカは思わずうつむいた。

「……はい……。すみません、ありがとうございます…。」



 3人は、偶然見つけた鉱山の広い空間に座り込んだ。

 空間の真ん中に、落ちていた燃えそうな木々を設置し、ディレスの炎で光源を確保している。

「宝まであとどのくらいだ?」

 アルビットが、あぐらをかきながらディレスに聞いた。

「もうすぐだ。少し休んだら出発するぞ。」

 ディレスは立ったまま壁に寄りかかっている。

「すみません…、足手まといにならないって言ったのに…。」

 しゅん、とフーカは気を落とす。

「何言ってんだよ。魔法も使えないのにここまでこれるなんて、それだけで大したもんだぜ。」

 アルビットがすかさず励ます。その言葉にフーカは閃いた。

「魔法…。地球(エア)の人間が魔法を使う事は出来ないんですか?そうすれば私だって、少しはお役に立てるのに……。」

地球(エア)の人間にはエレメントを体内に留める能力がない。魔法を使うのは無理だ。」

 ディレスがはっきりと言う。しかし、こういう事ははっきりと言われた方がかえって良いかもしれない。

「そうですか…。」

 フーカ自身もその言葉で諦めがついたようだ。

「…だが、全く使えないと言うわけではない。」

「えっ……?どういう事ですか?」

 フーカが、ばっと顔を上げる。何としても魔法を習得したいと思ったからだ。

「……実際に食らってみれば分かる。」

「魔法を、ですか?」

「そうだ。その覚悟があるならな。」

「…………」

 フーカはしばらく考え込む。実際に食らうとは、一体どういうことなのだろうか。それで魔法が使えるようになるとは思えないが…。


 その時_______

 突然、真ん中に設置していたディレスの炎が、ふっと消えた。

 視界が一気に暗くなる。そして、アルビットが一瞬の殺気に気付く。

「危ない!」

「きゃあっ!」

 アルビットがフーカを担ぎ、その場から飛び退く。直後、フーカのいた場所が何か酸のようなもので溶かされた。

「あ、ありがとうございます、アルビットさん……」

 アルビットはフーカをその場に下ろし、天井を見上げながら叫んだ。

「ディレス!あれ見ろ!」

 ディレスは視線を天井へ向けた。フーカも釣られるように天井を見る。そこには、得体のしれない何かがうごめいていた。

 一言で言い表すならば、『蛇』。ただ、とてつもなく巨大で、舌が異常に発達している。

「さっきのはこいつのヨダレか……。」

 アルビットはフーカに忠告する。

「フーカ、気をつけろ。アイツはあの巨大な酸の舌で、人間を綺麗に召し上がるからな。って……あれ?」

 アルビットが異変に気付く。さっきまでそばにいた筈のフーカが、どこにもいなくなっていた。

「フーカ!?どこだ!?」

 辺りを見回すと、奥に続く通路へと何かが走って行くのが見えた。

「!!フーカ!」

 アルビットは血相を変えて、その方向へ走りながらディレスに叫んだ。

「ディレス!そのヘビ任せた!俺はフーカを助けに行く!!」

「こっちは任せろ。コイツは俺1人でも十分だ。それよりも、明かりはなくて大丈夫か?」

「大丈夫!すでに目は慣れてたからな!んじゃ、任せたぞ!」

 アルビットは、何者かの後を追って行った。


「……今日は大型の魔物に縁があるな。」

 ディレスは剣を抜いた。巨大ヘビ『アダーラ』も、長い舌を伸ばして威嚇している。互いに戦闘準備は万全だ。



 連れ去られたフーカと、巨大ヘビ『アダーラ』。

 果たして3人は、無事に財宝を取る事はできるのか………?

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