ディレス、竜を一刀両断する。
<地名紹介>
『ミディリア』
物語の舞台となる、剣と魔法の世界。地球とほぼ同じ面積で、人々は魔法を生活に役立てながら暮らしている。
海よりも陸の方が多く、まだ未開拓の場所がたくさんある。
__________オルド平原にて。
平原の主、オルドドラゴンに呑み込まれてしまったアルビットを助けるべく、ディレスは大剣を抜く。一方、フーカは少し離れた所で心配そうにディレスを見守っていた。
「ディレスさんの『魔法』……。一体どんなものなんだろう……。」
アルビットの事も心配だが、ディレスが「心配ない」という以上、フーカはそれを信じるしかなかった。
ディレスの大剣_____。一見するとなんの変哲もない剣だ。「大剣」と言われて大抵の人がイメージするようなものと何ら変わらない。とても魔法が使えるようには見えないが……。
ディレスと対峙したオルドドラゴンは、呻き声をあげながら怒り狂っていた。芝生の地面を無差別に爪でえぐり、空に向けて炎を吐き出す。
オルドドラゴンは自分のナワバリに入られると、とてつもなく激昂する。つまり今のオルドドラゴンは、噴火した火山のように危険なわけだ。
「ふん、いかにも頭の悪そうな行動だな。」
しかし、そんなオルドドラゴンをディレスは鼻で笑った。オルドドラゴンはその言葉に反応したかの様にディレスを睨みつけ、前屈みになる。
魔物という種族は、多少の人語は理解できるものが多い。ディレスの挑発にまんまと乗っかったオルドドラゴンは、怒りに身を任せて突進してきた。
「あ、危ない!」
フーカが思わず声を出す。
しかし、オルドドラゴンの突進攻撃はディレスには擦りもしなかった。
まるで瞬間移動でもしたかのようにオルドドラゴンの頭上に飛び上がったディレスは、落下の勢いと共に背中を斬りつけた。その斬撃はオルドドラゴンの鱗をいとも容易く貫き、大きな傷をつける事に成功する。
それにより、悲痛の叫びと共にオルドドラゴンは更に怒り狂い、とっさにディレスの方を振り向き口から炎の弾を撃ちだした。
その攻撃は地面に着地する寸前のディレスに直撃し、やがてその全身を炎が包みこんだ。
「ディレスさん!」
フーカが叫び声を上げる。だが、その声が逆にオルドドラゴンを呼び寄せる最悪の結果になった。
「……あ…」
ズシン、ズシンと大きな足音を立てながら、オルドドラゴンはゆっくりとフーカに接近する。ぱかりと開いた口は、人一人丸呑みするくらい訳のない巨大さだ。
絶体絶命の瞬間だった。フーカは恐怖でその場を動けないまま、強く目を閉じ、死を覚悟した。
「………!!」
……
………
…………しかし、そこから一向に何も起こらない。
「……?」
恐る恐る目を開くと、オルドドラゴンはフーカの一歩手前で立ち止まっていた。
いや、正確に言うならば必死に進もうとしているが、そこから一歩も進めずにいるのだ。そしてオルドドラゴンの後方から聞いたことのある渋い声が聞こえた。
「……言っただろう、心配するなと。」
その声の主がオルドドラゴンの尻尾を掴んでいるのが見えた。フーカは安心と喜びの混ざった声で、声の主の名前を呼んだ。
「ディ……ディレスさん!!」
「ふん!」
ディレスは片手で掴んでいた尻尾を両手で持ち、背負い投げをするようにオルドドラゴンを反対側へぶん投げた。
「す……すごい……」
人間が竜を背負い投げ____。目の前の光景に、フーカは空いた口が塞がらなかった。
「怪我はないか?」
ディレスは、フーカの元へ歩いて行く。
「はい、大丈夫です…。ディレスさんの方こそ大丈夫ですか?」
「……炎に当たったのは、エレメントを吸収する為だ。」
「あっ…!そっか、炎は魔法の素になるんでしたね。」
早とちりしたフーカは、納得した。
炎であれ水であれ、この世界の住人ならば吸収する事ができる。しかし、何でも吸収出来るといるのは、最強なのではないだろうか。フーカは、少し疑問に思った。
しばらくしてオルドドラゴンは起き上がり、二度も自身の攻撃を無効化されたにも関わらず、依然として怒りながら口から攻撃の準備をする。そして、耳鳴りがおきそうな叫び声と共に先程の炎の弾のようなものを何発も吐き出した。しかしそれは、先程のものとは違い炎を纏っていない。これは_____。
「…!風の弾か」
ディレスは風の弾を手でバシバシ弾く。
「あれ……?風の弾は吸収しないんですか?」
疑問に思ったフーカは、ディレスに問いかけた。
「人それぞれだ。俺は炎を吸収できるが、風は吸収できん。それは魔具にも言える事だ。」
「そうなんですか……」
魔法についてだんだんと分かって来る。その人にあったエレメントや魔具でないと魔法は使えないのだ。
「さて、そろそろ決めるか。アルビットの奴も心配だしな。」
ディレスは飛んでくる風の弾のうち1発をグーで殴った。それはオルドドラゴンへ向けて真っ直ぐ飛んで行き、顔面にヒットして全体を仰け反らせた。
その間に、ディレスは次の行動に出ていた。
大剣の魔法でトドメをさす___。そう思ったフーカだが、よくよくディレスを見てみると大剣を持っていないことに気づく。
「あれ、大剣はどこへ行ったんですか?」
「あそこだ。」
ディレスが指差した方向は____、オルドドラゴンの尻尾。そこに大剣が刺さっていた。
「でも、それじゃ魔法使えないんじゃ…」
フーカが当然の疑問を口にする。しかしそれもディレスの計算の内だった。
「問題ない。俺の中の炎のエレメントは、既に剣に吸収させている。」
ディレスは右手のひらをオルドドラゴンに向け、意識を集中させた。すると尻尾に刺さっている剣が光りだし、剣を覆うように巨大な刃状に変化していった。
「腹がへっているんだろ?こいつを喰らうといい。口からではなくて申し訳ないがな。
_____<一の剣『炎輪』>」
ディレスが右手を振り下ろすと、大剣は輪を描くように一回転し、オルドドラゴンを一瞬にして真っ二つにした。そして二つに別れたオルドドラゴンは、そのまま地面に倒れこんだ。
「_____まあ、こんなものだな。」
ディレスはピクリとも動かないオルドドラゴンの側に落ちた大剣を拾い、背中の鞘に収めた。
「すごい……、あれが魔法……」
フーカにとっては全く信じ難い事だった。大剣、魔法、ドラゴン…地球には無かったそれらが、この世界には確かに存在している。この目で見てしまったのだから信じるほかにない。少しの間呆然としていたが、やがて現実に戻ってきたかのように何かを思い出し、
「………!!あっ!そういえば、アルビットさんは!?」
動かなくなったオルドドラゴンに近づき、アルビットを探し出した。
「ここにいるぞー……」
オルドドラゴンの右半身の腹部から、ズルズルとほふく前進しながらアルビットが出てきた。見た所無傷だが、何故か上半身は裸になっている。
「アルビットさん!……って、何で上半身裸なんですか!?」
フーカは手で目を覆い、指の隙間からアルビットを見る。立ち上がったアルビットは右手を腰にあて、他人事のように笑いながら話した。
「いやー、消化されないようにと思ってさ、とっさに服脱いでくるまってたんだよね。おかげで助かったよ。服は溶けちゃったけど」
「とりあえず服を着て欲しいです……」
フーカは顔を赤らめ視線をそらす。
「なんにせよ、無事で良かったな。」
ディレスのその言葉には、アルビットは言い返した。
「何が無事なもんか!」
ディレスに大股で近づき、つっかかる。
「あのなぁ、もう少しマシな倒し方なかったのかよ?一歩間違えれば俺も一緒に真っ二つになってたんだからな!」
「そうか、良かったな。なってないぞ。」
「ああ、そりゃどーも……って違ぇよ!謝れよ!」
アルビットが地団駄を踏む。そして、手を頭の後ろで組みながら少し上を見上げた。
「あーあ、折角フーカに俺の魔法見せてやれると思ったのになー」
「それに関しては俺に責任はない。」
「そうだけどさー…」
ついには、口を3のようにして拗ねだした。
「それよりも早くマカ鉱山に行くぞ。日が暮れてしまう。」
「おっとそうだった。マカ鉱山に行くんだったな。フーカ、行こうぜ。」
「は、はい!」
フーカは力強く返事をする。先程の不安など、どうやら何処かに消え去ったようだ。
歩き出した二人の後をフーカはついて行った。そして、フーカは思う。
このクランに依頼して良かった。
この人たちなら、きっと_____。
__________時は夕刻、オルド平原にて。
最初の危機を乗り越え3人は先へ進む。
近い未来に起こるであろう、絶望にはまだ気づかずに__________。