アルビット、竜に呑み込まれる。
<キャラクター紹介>
フーカ 性別:女
本名は吉野 風香。16歳。
緑色の長い髪で、前髪は揃えている。赤いカチューシャが特徴の、地球の人間。
革製のカバン(ショルダーバッグ)の中には常にお菓子が入っている。
身長:160cm
体重:51kg
________時は夕刻。
セントラ・エッジを出発した3人は、マカ鉱山へ続く平原『オルド平原』に来ていた。
オルド平原____。見渡す限り広大で、生い茂る芝生と吹き抜ける風以外は何もない、『自然』そのものといった場所。三人が目指す『マカ鉱山』は、その先にある。
「この辺はまだ魔物も出ないし平和だな。」
先頭を歩くのは、リーダーのアルビット。
その3歩後ろをフーカ、さらに後ろをディレスが歩いている。
確かに魔物は出て来ないが、それ以前に、とにかく何もない。緑の大地と夕焼けの空の間を、三人はただひたすらに歩いていた。
歩きながら、フーカには疑問に思っている事があった。もちろんクランについての不安もあるが、地球には存在しなかった『アレ』についてだ。フーカはアルビットの隣に並び、思い切って質問した。
「あの、アルビットさん達は『魔法』が使えるんですよね?」
そう、それは『魔法』について。ここは、本や映画でしか見た事がない、魔法がある世界なのだ。フーカは、それが見たくて仕方なかった。
「ん?うん、使えるよ。それがどうかしたのか?」
「いえ、私の暮らしていた地球……『エア』には、魔法なんてありませんでしたから…。やっぱり、手から炎とか出せるんですか?」
「うーん、半分正解だな。そもそも魔法ってのは、まず『武器』がないと使えない。」
「え…そうなんですか?」
「そうだよ。武器……正確には『魔具』っていうんだけど、魔具自体に『エレメント』を吸収、放出する機能が備わってるんだ。」
「まぐ…、えれめんと…?」
聞きなれない言葉が出て来て、フーカは少し頭を抱える。
「うーんと…それじゃ、1番最初の段階から教えるよ。そうすれば多分わかりやすいから。」
「あ…はい、お願いします。」
フーカは、少し顔を赤らめた。
「まず、俺たちミディリアの人間は、炎や水、雷とか風とかを吸収して、蓄える能力を持っているんだ。」
「吸収…ですか?」
「そう、吸収。で、吸収した状態のものを『エレメント』って呼ぶ。炎を吸収したら『炎のエレメント』、水を吸収したら『水のエレメント』が、その人の中に蓄えられるんだ。こんな風にね。」
アルビットが力を込めると、電気のようなバチバチとしたものが彼の右腕を覆いだした。
「……わぁ……!」
「これは、俺の中にある『雷のエレメント』。でも当然このままじゃただの雷だし、魔法なんかじゃない。そこで出て来るのが……」
「あっ、『魔具』ですね!」
フーカは、閃いたように手をポンと叩く。
「そう、その通り!さっきも言ったけど、魔具にはエレメントを吸収、放出する能力がある。その魔具に吸収させたエレメントを放出させたものが……『魔法』なんだ。」
アルビットは腕の雷を消し、続ける。
「ちなみに魔具にもいろんな種類がある。剣とか槍とかな。」
「なるほど…すごいですね、魔法って!」
しかし、ここで1つフーカに『ある疑問』が浮かぶ。
「えっと…つまり『魔具』あっての魔法ですよね。ディレスさんの場合は、背中に差してる『大剣』ってことになりますけど、アルビットさんの魔具は何ですか?」
そう、アルビットには、魔具と思われる物を所持していないのだ。可能性があるとすれば右手にはめている指輪くらいだが、それでも魔具とは考えにくい。
「ふふん、知りたいか?」
何故かアルビットは得意気になっている。フーカも「知りたいです。」と答えるが、もったいつけるように、
「まぁ、魔物が出たら見せてやるさ。」
と、結局は秘密にするのだった。フーカは呆気にとられ、コントでよく見るようなバランスの崩し方をした。
話を変えるように、アルビットは立ち止まり、両手を大きく広げて深呼吸をする。
「それよりもさ、いい所だと思わないか?この平原。辺り一面何にもない原っぱでさ、何ていうか、俺大好きなんだよね。」
少し顔を膨らましていたフーカだが、この何もないオルド平原を見渡して、自然と笑みがこぼれる。
「……確かに、すごくいい所ですね。」
フーカも立ち止まり、目を瞑った。
辺り一面見渡せる平原。
夕焼けの空が心を落ち着かせ、綿のように気持ちよく吹く風が力強く生い茂る一面の芝生を、波のように踊らせる。その風で揺れる長い髪を手でかきあげながら、フーカはしばらく自然を感じていた。
「……気持ちいい…。」
やがて目を開けると、1羽の鳥が飛んでいるのが見えた。
「あ、鳥………」
しかしその鳥は、空からこちらへ向かって急降下し、どんどん近づいて来る。そして、三人の前に立ちはだかった。
「………っ!?」
フーカは、目の前の光景を疑った。
突如眼前に現れた巨大な生物____。頭に生えた2本のツノ。ギラリと輝く鋭い爪と牙。ライフルでも弾きそうな、体を覆うウロコ。飛行を可能にする青い翼。そして、三メートルはあるであろう鋼鉄の尻尾。
それは「鳥」と呼ぶにはあまりに異質で、そう、それはまるで_____。
「お、竜だ。」
「竜だな。」
「りゅ、竜ですよーーー!!!」
初めて見る竜に叫ぶフーカとは対照的に、至って平常心の2人。
「何だ、地球にも竜っていたのか?」
アルビットがのんきに尋ねた。
「いえ、本で見たことあるだけで、本当にいるんだっ……て!そんな話してる場合じゃないですよ!」
フーカは、震える手で歩いてきた道を指差し、「逃げましょう!」と2人に叫んだ。
「いや、それは無理だろう。」
だが、ディレスがすぐに否定する。
「な、何でですか!?」
「……アレは『オルドドラゴン』。ナワバリに入った時のみ現れる、平原の主だ。一般人…ましてや地球の人間が走って逃げても追いつかれるだろう。それに……」
ディレスは背中の大剣を鞘から引き抜きながら、
「…逃げるよりも倒した方が早い。」
引き抜いた大剣を構え、迎え撃とうとしている。
「そっか。知らない間にナワバリに入ってたのか。」
アルビットも悠長にオルドドラゴンを見上げている。だが二人には、絶対の自信が感じられた。
「……本当に勝てるのでしょうか……?だって、竜ですよ……?」
吹き荒れる風の中、フーカは依然心配そうに2人を交互に見る。だが、それも当然の反応だ。どう考えても、人が竜に勝てる筈がない。
「大丈夫だって、心配するな。」
アルビットは、顔をフーカの方に向けた。
「確かに強そうだけど、見掛け倒しみたいなヤツだからさ。ただ、飲み込んだものはすぐに消化しちまうから、飲み込まれないように注意だけしてれば_____。」
「あっ、アルビットさん、前…」
そこまで言った所で、オルドドラゴンの右腕がアルビットを掴んだ。
「あ…」
そのままオルドドラゴンは、ぱくっとアルビットを丸呑みした。
「え……」
一瞬何が起きたか分からず硬直したフーカだが、すぐに我に返り、
「え……っ、えーーーっ!!?アルビットさん、食べられちゃった!!?」
突然の出来事に、あわてふためく。
「全く、何をやっているんだアイツは」
しかし、ディレスは全然動じない。
「ア、アルビットさん食べられちゃいましたよ!?早く助けないと……!」
「心配するな。アイツはこれぐらいでは死なん。」
「でもさっき、飲み込んだものはすぐに消化するって……!溶けちゃうってことですよね!?」
「とにかく大丈夫だ。黙って見ていろ。」
「でも……」
しかしフーカは、ディレスのその余裕から、本当になんとかなるのかもしれない、と微かに思い始めた。
「……肩慣らしには丁度いい。ついでに見せてやる。この俺の『魔法』をな。」
ディレスは剣の切っ先をオルドドラゴンに向け、言い放った。