01 目が覚めたら……
「よ…………」
声が聞こえる。…………誰の声だ?
「ようた、陽太!」
この声は…………
「智也!?」
目を開けると隣りに智哉が座っていた。
なぜか智哉は布切れのようなボロボロの半そで半ズボンを着ていた。
「やっと目が覚めたか……。お前、何回呼んでも反応しないからオレ、超ビビったんだからなっ」
「あ……ご、ごめん。それより、お前そのカッコなんだよ?」
「知らねぇよ。オレが目を覚ました時はすでにこれだった。つか、それはお前も同じだからな」
…………確かに僕も智哉のような服装だ。
「陽太、ここどこだと思う?」
言われた瞬間僕は周りを見渡した。ここは小さな部屋のようで、床も天井も気の板をはめて作ったような感じだった。部屋の隅にはろうそくが一本小さな机の上に置いてあり、近くにはお粗末なベッドが二つ並んであった。
「ここどこだろうな…………」
「オレ達って確か、スライムに体を巻きつけられて、ゲームの画面に引きずり込まれたよな?」
「じゃあここって、ゲームの、中?」
「…………」
「…………」
しばらくの沈黙。
「んなわけないって! ゲームの中に入るなんて考え、いくらなんでも幼稚すぎるぜ」
「そうだよなぁ。そんなわけないよなぁ」
僕もつられて智哉の意見に頷くいた。
そんな時だった。
「お待たせしましたぁ! 『勇者になろう(お試し用)』を利用して頂き誠にありがとうございます! 私はこの『勇者になろう(お試し用)』のガイドを務めさせてもらいます、新堂と申します!」
僕らと同い年ぐらいの女の子がドアを開けてずかずかと入ってきた。
「…………は?」
この子は何を言っているのだろうか? 確か『勇者になろう(お試し用)』って智哉のおじさんが作ったゲームの名前じゃ……。
「じゃあここって、ほんとにゲームの世界なのか?」
智哉が小さく震えながらつぶやいた。
「はい、そうです! ここは安田様のおじ様が作られたゲームの中であります」
新堂と名乗った少女が答える。新堂さんは明るい茶色い長い髪が小さな波のようにうねっており、腰のあたりまであった。とろんとした大きな目に小さな顔、ほっそりとしたからだ。その体を白い無地のワンピース(僕たちのようにボロボロであった)が包んでいた。
「んなわけないだろうが! ゲームの中? そんな夢みたいなこと言っていいのは小学生までだっ」
とうとう智哉がキレた。
うぅ、と新堂さんが困った顔をする。そしてすがるような目で僕を見つめる。…………はぁ、しょうがないなぁ。
「まあまあ智哉落ち着けよ。ここがゲームの世界だっていう証拠があればいいんだろ? じゃあ彼女に証拠を見せてもらおうじゃないかい。そうすればいいんだよね、新堂さん?」
そう言うと今まで困っていた表情をしていた新堂さんは太陽のようににこっと笑った。
「えぇ、ごほん。それではすご~く簡単に証明させて頂きます。外に出ましょう!」
ドアノブに手をかけるとおもいっきし扉を開けた。
明るい、とにかく明るい。
外の様子を一言にするならこれが一番であろう。景色が明るいのもあるけど、何より道を歩く人たちが明るい。服装はみんなボロイのに表情は笑顔でいっぱいだ。
「彼、彼女たちはマスター――――安田様のおじ様のことです――――がおつくりなさった者たちです。マスターは笑顔が本当にお好きな方でしたから、こんな小さな者たちにも笑顔をお与えなさったのです」
太陽のような笑顔を持つ少女は太陽のような笑顔で語る。そしてゆっくりと扉を閉めた。