プロローグ
小さい頃の僕の夢はどこにでもいる子どもが思っている夢だった。
ゲームの世界に入ってみたい。
ただそれだけだった。
そんな子ども時代もいつの間にか終わり、僕こと東陽太は高校二年生になろうとしていた。
春休みまであと数日を残したそんな日だった。僕の友達の安田智哉が僕の肩に両手をポンと乗せた。
「なに?」
自分でもしまったと思うほど、僕の声は低かった。今日は朝から不運の連続でとても機嫌が悪かった。それが声にもでてしまったのだ。
「あ、ごめん。今はやめといた方がいい?」
智哉が小さな声で謝る。
「いや、こっちこそごめん。ちょっと機嫌がわるかっただけだから」
「そう?」
智哉は中学の頃からの付き合いだ。智哉はぽっちゃり気味なうえに、身長が低い(160センチメートルぐらい)。そのせいで周りからからかわれることがあるが、当の本人はまったく気にしていないし、からかうといってもいじめというレベルではないから僕も特に気にしていない。
「実は新作のゲームの試作品をおじさんがくれたんだ。一緒に今日やらないか?」
「それってこないだ言ってたゲームのこと? うん、やりたい!」
智哉についてもう一つ話しておこう。智哉のおじさんはとっても大きなゲーム会社の社長なのだ。こうして新しいゲームの試作品ができるとよく僕らにくれる。
「今回のゲームは二人以上でしかできないからオレ、このゲーム全然やってねぇんだよ」
「ふぅんそうなんだ。楽しみだなぁ。早く学校おわらないかなぁ」
僕がそう言った瞬間、6時間目始まりのチャイムが校内に響き渡った。
やっと長い長い今日の授業も終わり、僕と智哉は走って安田家に向かった。
「お邪魔しまーす」
「ただいまぁ!」
僕と智哉は靴を脱ぎ散らし、智哉の部屋に向かう。
「いらっしゃい、東くん。……あら、もう智哉の部屋に行っちゃた」
智哉おばさんの声が聞こえた気がしたが、僕は足を止めなかった。
カセットを差し込むと、ウィーンという音とともに、画面にタイトルが現れた。タイトルは…………。
「『勇者になろう』」
おじさんにしては意外と地味なタイトルだ。
「お、始まるぞ」
智哉の一言により、僕は口を閉じた。画面に『ちょっとまってね』と写し出される。その下にはスライムが横に揺れていた。
そんな時だった。
画面にいるスライムが画面から飛び出してきた。
「…………!?」
声も出す間もなく、僕と智哉はスライムに体を巻きつかれ画面の中に引きずり込まれた。