【完結】あの鐘が鳴るころに…。sideルナ
こちらの作品は5月10日に公開した「あの鐘が鳴るころに…」のsideルナversionです。
一部内容に被りはありますが、目線が違うということで、ご了承ください。
また文中にあるマナが歌った歌につきましては
主題歌「月影白翼|白鴉の祈り」と共にお楽しみください。
https://youtu.be/Et40alnuwO8
そよ風が優しく吹き、緑が生い茂る季節─────
ルナは丘に立っていた。
そしてそこから遥か先に見える海を眺めていたのだ。広大でどこまでも続く青い空と境界線が重なる広い海…。
だが、その瞳はどこか寂し気に映る。風が彼女のおくれ毛を揺らす。
ふっと彼女の張り詰めていた目元が一瞬、緩んだ。
「ルナー!」
誰かが彼女を呼ぶ声が近付いてくる。ルナは声の方へとゆっくりと振る変える。ルナには声の主が誰だかわかっているのだろう。その姿を見てニッコリと笑って答える。
「シン!」
そう。シンだった。12歳だった少年は今や背が伸びてルナを追い越していた。更に肉体労働で鍛えられたのか、ガッチリとした筋肉がついていた。声もより低くなっていた。
「やっぱりここに居たのか。」
「やっぱりって何よ?」
「だってそうだろ?マナがあの海を渡って行ったんじゃないかって思ってるんだろ?」
「………………。」
シンがそう言うとルナはムスっとした表情をして黙り込んだ。
「………………そうよ。あの海のむこう、マナのことだもの。どこかの国できっと幸せに暮らしているわ。」
「………………。」
シンは黙って俯いた。ルナの気持ちが痛いほどわかっているからだ。
遡ること5年─────
ここ、モントン王国は花の香が漂う小さくも美しい国であったが、花の影には闇があり、飢えた子どもが路地に蹲り、税に追われた農民が眠れぬ夜を過ごしていた。繁栄という名の仮面の下で、この国はゆっくりと腐っていた。
そんなある日、双子の王女たちの15歳の誕生日の夜、とうとう反乱が起こった!
反乱軍の首謀者は国王の実弟。ガラネット公爵だ。
兄の暴政ぶりに国の滅亡危機を感じて主要貴族と共に立ち上がった。
祝賀パーティーで油断していた王族は見事に捉えられ、国王夫妻は処刑。
二人の王女たちも処刑の日を迎えるが、二人はとうに諦めがついていた。
〝これで民たちが飢えから逃れられるのならそれでいい〟と最後まで取り乱しはしなかった。
そんな時、ガラネット公爵が二人に提案をした。
どちらか一人がこの場に残り、もう一人が東の塔の鐘を明日の朝、太陽が昇りきるまでに鳴らすこと。
それは二人の絆を引き裂くような発言だった。
だが二人はお互いを信じながらも相手が生きていられることを、ただそれだけを願っていた。
ほほう、それで?どっちが残るんだ?」
ガラネット公爵の言葉に
「私が残るわ!だからマナ、お願い!」
ルナは自ら申し出た。
そうルナは元王女だった。
そして鐘を鳴らしに行くのは双子の片割れ、マナ。
直後、ルナの目の前でマナは民衆たちから暴力を受ける。ルナは自分が代わりに行けばよかったと後悔する。
だが、マナはまっすぐにルナを見て、ただひたすら東の塔を目指して行った。
残ったルナはマナの身を案じながらも待つことしか出来ない。
長い長い時間の始まりだった。
〝マナのことだ。きっとやり遂げようとするだろう。でも、私はマナに逃げて欲しい…。〟
目の前で暴力を振るわれ、痛々しい姿をしていたマナ。その様子を見ていたルナは案じていた。
マナの後を追うように監視役がついていくので、行く先々でマナは民衆から暴力を受けることになることを。
〝マナならきっと東の塔まで辿り着けるし、あの塔を登り切ることも出来るはず…。だけど、どうかお願い。マナ。逃げて。〟
このガラネット公爵が言い出した言葉には裏があり、「鐘を鳴らす方は逃げてもいい」という意図があるった。
だからルナは自分から残ると言い出したのだ。マナだけでも生きて欲しいという気持ちが強い。
夜になっても鐘が鳴らない。
〝もうマナが東の塔まで着いていてもいい頃ね。マナは逃げてくれたかしら…。それとも民衆に酷い目に遭わされていないかしら…。〟
ルナは祈る気持ちでそこに立つー
姿こそ、みすぼらしい囚人の姿であったが、それでも彼女の佇まいからは気品が溢れていた。
一度、ガラネット公爵夫人、つまりルナにとってのおばに椅子を進められたが、断った。
「私は父と母を止められなかった。これは明らかな罪ですから…。」
このルナの発言には夫人も驚いていた。まだ15歳なのにこんなにしっかりして…。親の責任を背負う覚悟を持っていることに王女としての誇りを彼女から感じたから彼女の言う通りにさせた。
夫人が食事を用意させてもルナは断った。
「今、マナが私のために必死になってくれてるんです。必要ありません。」
このルナの凛とした態度に周りの者たちの方が〝この処刑は正しいのか?!〟とさえ思い始めるほど、ルナは謙虚に、慎ましく、誇らしかった。
そして夜が明け、陽が昇り、
─────それでも鐘が鳴らなかった。
ルナはペタリとその場に座り込んでしまった。
〝マナ。逃げ延びれたかしら…。それとも何かあって間に合わなかったのかしら…。〟
マナに何かあったんじゃないかと思うと居ても立っても居られなくなり、ルナはガクガクと震え出した。
その様子を見て回りの人間はルナが処刑が確定したことに恐怖を感じて震えているのだと思った。
そしてガラネット公爵が
「間もなく、約束の時間だな。」
そう言ってルナを見た。目の前には断頭台。そしてその前には民衆が再び集まり出していた。
ルナは断頭台の前でペタリと座り込んだままだ。
〝マナは無事に逃げただろうか…。流石にあんな目に遭って東の塔まで辿り着くなんて無理だよ………。〟
じわりとルナの目に涙がにじんだ。
太陽が昇っていく…。
その様子を涙ぐみながらずっと見つめているルナ。
「さあ、宣言していた高さまで太陽が昇ったぞ。お前の片割れはどうやら逃げ切ったようだな。よかったな。」
「………………。そうね。私も嬉しいわ。」
「お前は裏切られたのに悔しくないのか?」
「………………。裏切っていない。私がマナの幸せを願っているだけだから。」
「ハ!何とでも言え。約束は約束だ。お前を処刑する。」
そうガラネット公爵が宣言したときだった
「カーン、カーン………。」
「──────────!!」
「鐘が鳴った!」「鐘が鳴ったぞ!」
民衆が口々に言う。
その鐘の音を聞いて、ルナは涙を流した。
─────生きていた!
「バカね…、マナ。だけど、ありがとう。戻ってきたら一緒に泣きましょうマナ。」
こうしてルナもマナも処刑が回避された。
すぐさまシンの元へと駆け付けるルナ。
だが、マナの行方はわからない。
「大丈夫よ。マナもきっとわかってくれるわ。それよりもその後、マナはどこに?」
「いや、俺も探してるけど会わないんだ……………。」
「そうなの?私を置いてどこかに行ったりしないと思うけど…、鐘を鳴らしたあと、ちゃんと逃げられたのかしら………。」
そのとき、そっと風がルナの頬を撫でた。
ルナはきっとそうだと思い空を眺める。
「どうした?」
シンがルナに声を掛ける。
「ううん、なんでもない。何だかマナの声がしたような気がしたの。」
そう言ってルナは少しの間、空を眺め続けた。
「いつか、この国が落ち着いて、私達が平民になったと知ったらきっと、マナはここに戻ってくると思うの。」
「ああ、そうだな。ここにいた頃のマナは活き活きしていたもんな。」
ルナはニッコリと笑う。
「な、なんだよ?」
「ん?だって、シンってばマナのこと好きだったでしょ?それまで会えないだなんて寂しいんじゃない?」
ルナの言葉にシンは真っ赤になって
「ば…!馬鹿なこと言うなよ!」
そう言って背中を向けてしまった。
くすっとルナは笑って、〝早く戻ってきてね。〟と心の中で呟いた。
それから暫くは慣れない平民としての暮らしをしていたルナ。
ある日、奇妙な話が漏れ伝わってきた。
「なんでもあの塔の上で女の子が死んでたんだってさ。」
「─────!?」
その話を聞いたルナは耳を疑った。
塔の点検には数か月に一度係の者が上の階まで登る。だからそれまで何かあっても発見されない。
─────まさか!
「その話!本当ですか!?」
ルナは思わず声をあげて話をしていた人に聞いた。
「なんだい?大きな声で、びっくしりたじゃないか。」
「すみません…。」
「何だい?知り合いかもしれないのか?この区間を管理している管理部へ行ってみな。遺体が回収されてるって話だ。」
「ありがとうございます。」
ルナはペコリと頭を下げてすぐにその足で管理部へと走って行った。
〝違う!違う!─────絶対違う!〟
どんなに否定しても頭の中も心の中も不安が押し寄せてくるばかりだった。一生懸命に走っているのに、一向に進まないような気すらした。
街の中央に設置された管理部に辿り着いた時はルナの顔色は真っ青になっていた。走ってきたから本当なら真っ赤になっているだろうに…。
辿り着きはしたものの、真実を知るのが怖くて中に入るには勇気がいった。ただ一歩、足を前に出せばいいだけなのに、その足がとてつもなく重く、何度も出しては引っ込めてを繰り返していた。
すると中から声がした。
「誰だい?ここ(管理部)に用かい?」
ルナはビクッツとした!
「あ…。あの…。」
ルナはその場で固まってしまった。
すると中から人が出て来た。ミドルな男性だ。
「なんだ?子供じゃないか?…ん?君はもしかして元王女の…。」
ルナは自分のことを覚えている人がいるとは思わず、ビックリした。
そして静かに頷いた。
男性はルナを見て哀れんだ顔をした。
ルナはどうして男性がそのような顔をして自分を見るのか、答えは二つ考えられた。
一つは元王女が平民として暮らしていること。だけどきっとそれじゃない…。
そしてもう一つは…。
そう考えるとルナは涙が出そうになっていた。そして恐る恐る声を掛ける。
「あの…、噂で聞いたんですが、あの塔の上で…、その…、」
とても言いにくそうにしているルナを見た男性は察していたのだろう
「こちらに来なさい。」
それだけ言って奥へと歩き出した。
ルナはギュッと手を握りしめて、男性の言う通りについて奥へと進む。
「─────!」
広い部屋の真ん中に土台があり、その上に棺があった。
それを見つけた途端、ルナの足はピタリと止まった。
今まで響いていた足音が止まった瞬間、そこは「無」になった。
男性は棺の前で待っている。ルナの方をジッと見ていた。ルナには彼がどんな顔をしているのかわからなかった。心臓の音がドクン!と高鳴るー。
足がそれ以上前に進まない。
大きく飛び跳ねる心臓。
音がこの「無」の空間に響いてしまうんじゃないかと思うくらいドクン、ドクンと鼓動していた。
それでも男性は黙って立っていた。
ルナは怖いけど男性が待っていることを感じて、重い足を一歩出した。
─────コツン!─────・・・・・・・
靴の音がその部屋全体に響く。
〝─────怖い…。〟
その音があまりにも無情に響くのでルナは怖くなり、ガクガクと震え出した。
それでも男性は黙って待っていた。
一歩、一歩…。
ゆっくりと歩を進めるルナ。
部屋の中にはルナの足音だけが響いている。
ようやく男性の元に辿り着いたルナは棺を見た。黒く大きな棺…。どこか冷たく無機質に見えた。
「心の準備はいいかい?」
低いが、さっきよりも何倍も丁寧で優しい口調だった。
ルナは深呼吸をして、小さく頷いた。
ギィィィ…。
男性が棺をゆっくりと開ける。
胸の鼓動が更に大きくなる。少しずつ棺の中が見えてくるー。
「─────!」
─────刹那!
ルナの鼓動は一瞬、大きく飛び跳ねて、止まったかのようだった。
「─────嘘っ!」
ルナの目に飛び込んできたのはあの日、最後に見たマナの姿だった。
肉体がボロボロになっていて、その身体が誰のものかは既にわからないほどだ。
だがルナにはわかる。
〝この服…、あのときの、あの日の服だ─────!〟
いつから泣いていたのかわからない。ルナの瞳からは次々と涙があふれ、頬を伝っていた。
薄々感じてはいた。
もしかしたらどこかでもう死んでしまっているんじゃないかと…。
でも見つからなかったということで逃げ延びたんだと信じたかった。
こうして見つかったことで
ルナに残酷な事実が突き付けられた。
「マナ…。」
ルナは命がけで自分を助けてくれたマナに、どんな言葉をかけたらいいのかわからなかった。
ただひたすら遺体に手で触れてマナの名前を呼んでいた。
「マナ…マナ…。会いたかったの、ずっと会いたかったの。だけどこんな再会を望んでいたわけじゃないの…。マナ…。あぁ…あなたに沢山話したいことがあったのに…。こんな事を言いたいんじゃないのに…。あぁ…マナ…!」
ルナはもう自分で何を言っているのかわからなくなっていた。
立ち会っていた男性も目元を押さえていた。
静かな会場にはルナの泣き叫ぶ声だけが響いていた。
そんなとき、どこから聞き付けたのか、シンまでやってきた。
「ルナッ!マナが見つかったって…」
そう言って部屋に入った途端、言葉に詰まったシン。
彼は一瞬で状況を察知したのだろう。
「ま…まさか……………。」
そう言いながらゆっくりと棺の元へとやってくる。
男性がシンの前に立ちふさがる。
「………………?」
シンは不思議そうな顔で男性を見上げる。
彼は首を横に振った。静かに…。その顔は悲痛な表情だ。
シンはなぜ自分を通してくれないのかと思った。
「ここまでにしておきなさい。きっと彼女も見られたくないだろう…。」
静かにシンを諭すように言った。
「なんでっ!」
シンは言葉を止めた。
そのとき、シンは自分が彼女にしたことを思い出した。
〝俺が彼女に会えるはずがない…。彼女を信じずにあんなことをしたんだから…。〟
グッツと拳を握り、俯いた。
ルナが口をひらいた。
「シン、ごめんね。マナ、きっとこんな姿、見られたくないと思う。」
ルナの言葉にシンは顔をあげて
「そんなにひどい状態なのか?!」
思わず言葉にしていた。
シンが気にしているのは、自分がマナにしたように、大勢に暴力を振るわれて、そのせでだと思っていた。だが、実際には日が経ちすぎて朽ちている姿だからだ。
「シン、最後にマナはシンのこと、怒ってた?」
「─────!」
ルナの言葉はシンの胸の奥に届いた。
〝そうだ、マナは最後まで俺に恨み事を言わなかった。それよりももう薬を持っていけないことを謝っていたくらいだ…。〟
シンの表情からルナは彼がちゃんとマナを理解していると思った。
「そうよ、シン。それが答えよ。マナは決してあなたを憎んだり恨んだりしていない。」
「わかったよ、ルナ。」
シンは短く返事をして、スゥーッと息を吸って
「マナ!あの時は信じてあげれらなくてごめんっ!お前の代わりにルナのこと、ちゃんと守っていくから、だから…。だから安心してゆっくり休めよ!」
そう言ってシンは泣いていた。
ルナは知っていた。シンがマナを好きだったこと。マナは気付いていなかったけど、ずっとシンを見て来たルナは気付いていた。
〝シン、辛いだろうな…。私だって辛いのに、好きな人だもん、きっと辛いはず…。〟
ルナはいつの間にか泣き叫ぶのが止まっていた。シンの登場により、泣き叫んでいる場合ではないと思ったのだろう。
スッと立ち上がり、付き添ってくれた男性に静かにお辞儀をした。
男性はそれに気付いてお辞儀を返した。
「マナの葬儀は…。」
「ご希望であれば明日にでも。」
「そうですね、私達二人だけが参列しますので、もう墓地で直接…。」
「それでしたらどこか希望の墓地はございますか?」
プランを聞いたが、どこも高くて埋葬が難しかった。
「もっと価格の低いところは…。」
「それでしたら一番いい場所をご用意いたしましょう。」
「………………?」
ルナは首を傾げた。お金がない、平民なのに、一番いい場所?
翌日、一旦管理部に行った。
案内されたのは街の少し外れにあたるが見晴らしのいい高台だった。そこからは遠くに海が見える。
「どうしてこちらを…?」
ルナは男性に尋ねた。
「ガラネット公爵、いえ、国王より、お二人に何かあって埋葬される時はここをと言われておりました。」
「え…おじさま…、いえ。陛下がですか?」
「はい、国王夫妻からです。元王族であるあなた方。まだ未成年であるにも関わらず、処刑の危機に晒してしまったお詫びだと申しておられました。」
「は!何だよ?!そのお詫びって!それなら最初から助けてやりゃマナはこんな事にならなかっただろうに!」
シンが怒りをそのまま言葉にした。
「そのお気持ちは充分わかりますが、あのとき、あの方法が最善だったのですよ。多くの国民は〝王族〟を敵にしいましたから。どんなに今の陛下たちが庇ったところで今の平和な世界にはならなかったでしょう。きっとまた反乱の分子を生んでいたはずです。あのことがあったからこそ、ルナ殿が今、普通に暮らせているんです。」
男性が諭すようにシンに言った。
〝ー確かに、あの日おばさまも同じことを言っていた。私も元王族だからわかる。〟
ルナは冷静に男性の話を聞いていた。
そんなルナの様子を見てシンも怒りを抑えた。
〝ルナがあんなに落ち着いていたら、俺が怒ってても仕方ないじゃないか!〟
「どうでもいいわ。それよりも早く始めてください。」
ルナは静かに言った。
男性が葬儀を始めた。ルナは俯いて黙って立っていた。
マナが眠っている棺は土の中へと埋まっていく。
ルナは目に力を入れてその様子をジッと見ていた。気を許すと涙が今にも溢れ出しそうだ。
葬儀も終え、男性はルナとシンの前でお辞儀をして去っていった。
ルナもシンも、ふたりとも黙ったままだ。
とても話をする気にはなれなかった。
ふわり…、
風がルナの頬を撫でて通りすぎた。
ふっとルナが顔を上げる。
目の前にマナが立っていた。
笑っているー
だけど頭の中に声が聞こえる…、
ねぇルナ………。
あなたが誰かと恋をして笑ってる姿が見えるわ……………。その時は私どうしているのかしら………。
ねぇルナ………。
私達はずっと一緒よ。辛い時も楽しい時も、ずっとずっと………。
ずっと一緒よ………。ねぇ…ルナ……………。
ルナの瞳から涙がこぼれおちた─────
マナ…マナ…!
どんな想いであなたは………………!
泣いているルナのそばにマナは近付いてルナを抱きしめた─────
静かにマナが歌い出す………………
月灯りが静かに揺れる夜 白い翼は風に溶けてゆく
あなたが涙こぼすそのたびに 名前を呼ぶ声が空を渡る
眠れぬ夜に胸を閉ざしても 孤独の影に震えていても
見えない場所で祈っているよ ずっとあなたを守れるように
風が頬を優しく撫でるのは 私がそばにいるしるしだから
雨の音が心を癒すのは 届けられぬ想いの囁き
忘れないで いつだってそばにいるよ
白い羽はあなたのため 夜を越えて舞い降りる
見えなくても この想い消えはしない
この翼が帰る場所は ただ あなただけ
笑う日にも 怒る日にも 私はそっと寄り添っている
気づかれなくてかまわないから
あなたが幸せならそれでいい
遠い未来 時を越えたあと
もしもあなたが振り向くなら
月の向こうで待っているだろう
同じ光を抱いたままで
どこへだって飛べる翼なのに 向かいたい場所はひとつだけ
星より深く刻まれている あなたという帰る場所
忘れないで いつだってそばにいるよ
風になって 雨になって あなたを包み続ける
たとえ今は この声届かなくても
白い羽が導く先は そう…あなたのもと
忘れないで
私はずっとそばにいる
ルナは目を閉じてマナの歌を聴いていた。
そして歌が終わり、目を開けると
そこにはもう─────
マナはいなかった………………
マナ…。
うん、ずっと忘れない。
ずっとそばにいてくれてたのね。
シンは黙ったままのルナが心配でチラッと横を見た。
ルナは目を閉じたまま動かない。
〝んん?眠ってるのか?この状況で??〟
そっとルナの肩を揺らそうとしたとき、確かになにかの手応えがあった。
「─────?」
そしてピュゥッツと風がシンのそばを横切って
ルナが目を開けた。
二人は目が合い、びっくりした。
「黙ったまんまでいるからびっくりしたじゃないか。」
シンが焦って言うとルナは
「うん、マナが今いてくれたの。」
「─────え?」
そう言ってルナがにっこりと笑った。シンはさっきの手応えの正体がマナだったのかと思って少し驚いた。
「そう、か。お前ら双子だったもんな。」
「そうだよー。産まれる前から一緒だったんだもの。」
ルナは空を見上げた。
これからもずーっと一緒だね、マナ。
そう思って空を見つめた。
あれから5年─────
時々、ルナはマナの死を受け入れられないせいか、よくこの場所にくる。
シンもそれは理解した上でずっとルナのそばにいた。
〝確かにマナのことは好きだった。だけど、今は俺、守ってやりたいんだ。ルナのこと。マナが出来なかった代わりに…。〟
「ほら、家、帰るぞ!」
そう言ってルナの手を握った。
ねぇルナ…。
あなたが誰かと恋をして笑ってる姿が見えるわ………………。
あなたのそばにいられないのが悲しいけど、わたしはここからあなたを見守っているわ。
ねぇルナ………………。
幸せになってね。大好きよ、いつまでもずっと………………。
ねぇルナ………。
私達はずっと一緒よ。辛い時も楽しい時も、ずっとずっと………。
ずっと一緒よ………。ねぇ…ルナ……………。
─────完─────
ご覧くださりありがとうございました。前回書きました物語のルナversionとなりますので、今回も長くなりました。前回のお話のその後にあたります。ルナが少しでも前向きに立ち直って生きていけることを願うばかりです。




