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【街中/遭遇】

 ふたりの北蛮が、廃材置き場のひとつ隣の通りでまだ探し回っていた。

 ゲジ眉で無精髭の男と、眼付きの険しい総髪の女だ。女の方は木剣を片手にぶら下げている。

 北蛮のいでたちはすぐにわかる。男女ともに、体格と顔つきの物々しさが、兵士や狩人と比べても遜色ないか、勝るほどだ。なによりも、揃いの黒い上着を羽織っているのが特徴だ。男の方は襟元までボタンを閉じているが、女の方は開けっ広げだった。


 海賊たちの頭領は特に蛮力に優れていると言われており、この一帯で一番の賞金稼ぎを決闘で殺害したと伝え聞く。それによって海域の秩序は乱れたのだとも。

「子供だ」女が男の肩を小突き、指さした先には少女がいた。

「ん? ああ。だがありゃ娘っ子だ。髪の色も違う」

 赤毛の三つ編みを背に垂らし、色あせた黒のワンピースに、擦り切れたエプロンを着けている。顔まで覆うようにスカーフを巻き、手には布の包みがあった。港の方に向かって、背を丸めるように歩いていく。


「どっかの下働きだろ。珍しくもねえ。あんなのにまでちょっかいをかけておっては無用な騒ぎになる。副長にも咎められるわ」

「……いや、怪しい。小間使いならあなぜあんなに顔を隠す? あんなに怯える事なんてあるかね?」

「怯えるのはそりゃ当然だ」

「なに?」

「そこらへんの輩や、お前や俺みたいな顔したのがうろついてれば、な」

「うるさいね、とにかく調べるぞ」


 北蛮の女は、大きな声で呼び止めた。

「そこの女の子! ちょっと聞きたいことがある!」

 赤毛の少女は、ビクりと体を震わせ、振り向いた。

「なんでしょう?」と、怯えた上目がちな瞳で見返す。そして顔を覆っていたスカーフを顎の下まで下げた。

「ほう」と、その北蛮たちは一瞬見とれていた。

 それは麗しい少女であった。地味な衣服からはまったく予想もつかなかったほどに。

 視線を惹かれるような、くっきりとした瞳をしている。鼻筋が通り、桃色の唇が控えめにある。すこしやつれた白い頬、怯えを帯びたまなざしと相まって、薄幸の匂いただよう健気な美が備わっていた。


 北蛮の者たちは、名も知らぬ花を踏みにじりかけたような心持ちだった。髭面が、不器用な愛想笑いをして言う。

「いやな、すまんのだがな、娘さん。俺たちはちょいと人探しをしとってなあ。髪の黒い、男ん子はここら辺で見なかったか? この町では見かけない顔のはずなんだが」

「ごめんなさい。見ませんでしたわ」

 少女は困ったような顔をして、ささやくように答えた。


「持っているそれはなんだ?」

 女が訊く。こちらはまだ疑いを捨てていない。

「なにと言われましても、手荷物と届け物です。花の種と、薬草や生薬の類を少々……」

 少女が包みを解くと、布の袋に入った粒の細かい種、紙包みの薬草の粉や、瓶や革袋に入った薬液がいくつか姿を見せる。そのほかはごく普通の手回り品くらいだ。


 北蛮たちは説明をろくに聞いておらず、持ち物がどんなものかという注意よりも、ただただなにか光りを放つ物体がないかとばかりを見ていた。しまいには女がひったくって、身体で影を作って確認までした。だが、それらしいものはない。

「おい、やはりないぞ」

「ちっ……ハズレか」

 女は早々に踵を返す。髭面の男は慌てて包みを少女に返して、謝った。

「いやあ、邪魔をしてしまった。すんませんなァ」

 北蛮の者たちは連れ立って歩いて行った。依然として方々へ目を見張らせながら。


 赤毛の少女は、みぞおちを抑えながら、黙ってそれを見送った。そして再び、スカーフを口元に上げる。

(作戦成功……)

 赤毛の少女――もとい変装したシズハは、唇の端でわずかに笑う。


 草花からとった赤い染料で黒髪を暗い赤毛に見せ、白粉を顔に(めか)したのだ。胸元に衣服を詰めて、一見すると体形の細さもわからない。もともと秘宝を探す旅で、少女を装っての情報収集はたびたび行っていた。


 働く屋敷で植物に親しみ、隠密として教練を受けたことで変装技術をもち、召使として働いていたがゆえに女装に慣れ……と。三つの技術がひとつになって、即興変装百点満点といったところだ。

 北蛮は対面して改めて見ても、蛮なるふるまいだったが、シズハが想定していたよりは話が通じる相手であった。最悪の場合、問答無用でさらわれてカシラだか雇い主だかの元へ誘拐される危険性まで考えていたからだ。


 以降、追手にも町人にも怪しまれることなく、店屋や家々の並ぶエリアを通り、船着き場の見える距離にまで歩みを進めた。

 ここの港は銀海流の恩恵により、ここ数年でとくに発達した地だ。純粋に商取引を行う市場に加えて、船乗り向けの娯楽施設もある。波止場では桟橋が整備され、大きなクレーンまでもが新造されてそびえている。


 本来なら賑わいを見せる港だが、今ばかりはその気配がない。船着き場に停泊する、二隻の大型船が原因である。

 ひとつは北蛮の乗る、古い型式の大型船であり、船首に狼とも竜ともつかない像をあしらった蛮族然としたものだ。もうひとつが、どこかの新興国の所有する立派な帆船だ。


 王族に遣わされた兵こそが、エリオンを求めてシズハを狙う追手だ。北蛮は雇われでしかない。そして港町の船着き場は、船乗りや魚市場の人間よりも、追手の兵と、雇われたこのあたりのゴロツキが多いのではあるまいかというありさまだった。

 小舟に乗って銀海流の助けを得れば、子供でも隣の島に行くくらいのことはできる。標的が船を手に入れることを最大に警戒して布陣しているのだ。


 シズハは建物沿いに静かに歩みを進め、怯える町娘のお使いを装いつつ、波止場を見渡す。

(こうも船着き場を抑えられるとは……しまったな、敵の数を読み違えていた)

 彼は無意識のうちに、三つ編みの房を握っていた。考え込むときの癖だ。毛先をいじりかけて、慌てて手を離す。赤毛に見せている粉が落ちては困る。


 その時、固まっていた追手のひとりの声が聞こえた。

「おい、もうなんでもいい、子供らしいのが居たらなんでもさらってこい」

 王国の兵士に差し向けられたごろつきだ。やとわれでしかなく、本気で話が通じない、人さらい同然の者どもだ。この手の連中にまともな判断など期待できず、ちょっと目についたから、見えなくもないからとその程度の理由で町人を連れていくに違いなかった。


 まずい、とシズハは路地裏に身を隠す。だがそれが裏目に出た。迅速な動きがむしろ、周囲へ視線を巡らせていた連中の目に留まったのだ。

「おい、向こうの路地に小娘がいなかったか」

「なら女だろ。違う」

「バカ、言われたろ。なんでもいいからひっとらえて尋問すりゃいいんだよ。暇つぶしだ」

 数人の追手が固まってやってくる。悪いことに、ここは袋小路だった。路地裏に入ってこられたらもう逃げようはない――


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