初めての学舎
校舎はぐるりと塀に囲まれており、遠目に見た要塞の様な容体を間近でも感じられた。
塀に沿って歩くと大きな門がありその門の横に半円形の建物、中には警備を担当しているのか屈強そうな職員達の姿が見えた。
門の前には二人の制服姿の警備員が立っており、腰には術符と拳銃、そして細身の刀が備わっていた。どこか軍事施設のような緊張感が漂っている。
悠真が足を踏み出そうとした瞬間、その一人が声をあげる。
「立ち止まれ。入構者の認証を行う」
無機質な声に、悠真は一瞬たじろいだが、すぐに月夜が一歩前に出る。
「神崎月夜。討魔省本庁より直轄命を受けている。こちらの少年の推薦入学手続きについては、既に局長印を通してあるわ」
彼女の言葉に警備員が一礼し、端末に何かを入力する。
数秒後、淡い音とともに門のロックが解除された。
「確認しました。ようこそ、討魔高校へ」
静かに門が開かれ、二人は中へと足を踏み入れる。
討魔高校・入学受付案内所
白く無機質なカウンターと、その背後に浮かぶ術式制御端末が並ぶその空間は、行政施設のような静けさを漂わせていた。悠真は緊張気味に立ち尽くしていたが、月夜は慣れた様子で受付職員に書類を渡していた。
そのとき――
「……ふぅん、噂の新人ってのは、彼かしら?」
艶やかで少し挑発的な声が、廊下の奥から響いた。
悠真が振り返ると、そこに立っていたのは――
漆黒の制服をゆるく羽織り、紫がかった長い髪を後ろで束ね、衣服から少し溢れる褐色の肌に豊満な胸、鋭さと色気を併せ持つ瞳が、どこか野生の獣のように光っていた。
「紫苑……!」
月夜が思わず声を上げた。――伊庭紫苑は、片眉を上げてにやりと笑う。
「ちょっと資料の受け取りに来たら、面白そうな顔を見かけたのよ」
「随分と久しぶりじゃない、月夜。何年ぶり? ……五年? 六年?」
「五年と三ヶ月。討魔高校の卒業式以来ね」
月夜は懐かしさと警戒の入り混じった声で答えた。
紫苑はゆっくりと近づき、悠真に視線を向ける。
「……ふぅん。コレが“問題の新入り”ってわけ?」
「悠真くん。彼女は伊庭紫苑。私と同じく、この学校の卒業生。現・戦術指導教官よ。腕は立つけど、少し……癖があるの」
「“少し”ねえ?」
紫苑は月夜の言葉に肩をすくめて笑ったあと、悠真の目の前に立つ。
「アタシは伊庭紫苑。まあ、あんたがこれからお世話になるかもしれない教官ってとこ。今は偉人継承者の訓練部門を任されてる」
「……よろしく、お願いします」
ぎこちなく頭を下げる悠真に、紫苑は一瞬だけ目を細めた。
(こいつが……隆正様の…..?)
「で? その子、もう“継承”済みってこと?」
紫苑の問いに、月夜はわずかにためらいながら頷いた。
「そう。継承者――しかも、ちょっと特殊な」
「……ほぉう」
紫苑が低く口笛を吹く。
「まぁいいわ、そのうち嫌でも会うことになるでしょ ワタシ、楽しみは最後まで取っとく方なの。」
妖艶で蛇の様な紫苑の視線が悠真の全身に絡みつく
月夜が眉をひそめた。
「紫苑、変なちょっかい出すつもりなら、やめておいて」
「はいハーイ。相変わらず冗談が通じないわね。」
手のひらをヒラヒラと煽りながら紫苑は小馬鹿にした表情で微笑む
その言葉に、月夜の表情がわずかに緩んだ。
「……まったく。相変わらずね、あなた」
「お互い様。……でも、あの頃とは違う。私たちも、“時代”も」
ふと、二人の間に数秒の沈黙が流れた。
それはかつて同じ釜の飯を食った者同士が共有する、言葉にならない“記憶”の断片。
「――まぁいいわ。その子、入学手続き終わったら私のとこに連れてきなさい。基礎訓練の適性見ておかないと、後が大変よ」
紫苑はそう言い残し、踵を返して去っていく。
その背に、悠真は不思議な気配を感じていた。
軽く、飄々としながらも、どこか凛とした“強者”の空気。
「……あの人も、“継承者”?」
ぽつりと漏らすと、月夜は頷いた。
「ええ。昔は同じ班でよく任務をこなしたわ……変わってないわね……紫苑…….だからこそ信頼できるんだけど。」
悠真は再び、ぐっとリュックの紐を握りしめた。
――この場所には、自分の知らない“世界”がいくつもある。
だが今、その中心に、自分の一歩が刻まれようとしていた




