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残照の革命  作者: Nuhs
第1章ー護木村編ー
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不屈の継承

 「….はぁ……..」


 月夜は悠真の話をひと通り聞くとため息をついた。


 「まずあなたが斬った異形のモノ、それは魔徒よ。」

 


- 月夜は静かに歴史を語る


 「あれは……遥か昔から存在する、人の“負の感情”が形になったものよ。憎しみ、怨念、嫉妬……そういった感情の堆積が、ある閾値を超えたとき、生まれるの」


 「時の権力者たちは、それをどうにか抑え込もうとして、特別な能力を持つ者たちを召集したわ。陰陽師や呪術師……呼び方は時代によって変わったけど」


 「現代日本では、その流れを汲む組織が“討魔省”。魔徒の討滅と、それに伴う情報制御を担当しているの」


 「そして――」


 月夜の声が、わずかに沈んだ。


 「その異形の中でも、知性と異能を持ち、人の域をはるかに超えた存在。私たちは、それを《超越体》と呼んでいるわ」


 「通常の魔徒とは異なり、戦術、思考、言語……時には自然の摂理に干渉する者すらいる。隆正様が対峙したのは、まさにそのクラス」


 悠真は息を呑み呟く


「……じいちゃんは、そんなヤツと……」


 さきほど聞かされた“超越対”という存在。

 それと自らの祖父が、互角に渡り合い、命を賭して封印しようとしていたという事実。


 信じられない。しかし――その光景を、自分は確かにこの目で見た。


 


 「んっ? だけど……」


 


 ふと、記憶の奥で何かが引っかかった。


 あの戦いの最中――

 封印される直前、確かに聞こえた声があった。


 


 『……詰めが甘い所は昔と変わらんな、”零”』


 『流石です、”センセイ”…….人の身で、まだそれだけの力を……』


 


 「……あの時、確かに……じいちゃん、あの魔徒と……“零”って奴と……まるで、昔からの知り合いみたいに話してた」


 


 そう口にした瞬間、月夜の瞳が鋭く揺れた。


 「今、なんて?」


 『……詰めが甘い所は昔と変わらんな、”零”って』

 

 「違うわ、その後。」


 『流石です、”センセイ”人の身で……』


悠真の声を遮り月夜は声をあげる。


 「それよっ!」


 


 月夜は静かに目を伏せ、何かを思案するように黙った。

 そして、しばらくしてから口を開いた。



 「それが本当なら……隆正様と、あの“超越体”は…..」


  月夜は腕を組み、目を伏せたまましばらく黙り込む。


 その横顔には、焦りとも警戒ともつかない色が浮かんでいた。


 苛立ち声を荒げる悠真


「なぁ、何なんだよっ!」


 月夜の鋭い目が悠真の視線を受け止める


 「……昔ね、隆正様は討魔省管轄の育成機関に席を置いていたのよ……」


 

 「きっと、そこに行けば何かわかるかも。」


 沈黙が落ちる。


 「打つ手はあるわね。」


ポンと手を叩き、月夜はそう呟くと何やら探し始める。


 「えーっと、お爺様との繋がりを証明できる物ってあるかしら?」


 部屋の中を見渡しながら、月夜はなにやら物色し始める。


 「繋がりを証明できるものって?」

 

 悠真は尋ねながら彼女の視線を追う


 「さっき話してた、討魔省管轄の育成機関なんだけどーっ…….」


 「討魔省の育成機関では、関係者の親族に“推薦入学枠”があるの。あなたみたいな立場の人にね」


「ただ、最近は経歴を偽る人間もいて……書類の確認が厳しくなったの。だから本来なら、ご本人が直接出向くのが一番確実なんだけど」


「今の状況じゃ無理よね。だから……隆正様との“正式な繋がり”を示す何かが必要なの」



 悠真は、月夜と共に家の中を探していた


月夜は迷いのない足取りで、居間から奥の部屋――かつて隆正の私室だった部屋へと向かった。


 


 その部屋は質素そのものだった。

 木の匂いとわずかな線香の香りが漂う中、几帳面に整えられた布団と、古い木机、そして壁に掛けられた山の地図。

 どこにも、戦いの痕跡はない。まるで普通の老人の部屋だ。


 


 「何も……」


 悠真が呟いたその時――


 


 「……ここ、引き出しの奥に空洞があるわ」


 月夜が机の裏側に手を伸ばし、指で軽く板を押す。

 カチリ。小さな音と共に、底板がずれ、中から小さな桐箱が現れた。


 


 「これ……」


 恐る恐る箱を開けた月夜の目に、奇妙な形の金属が飛び込んできた。


 

 それは、六文銭を模した刀の鍔だった。

 死出の旅路に必要な六枚の銭――それを意匠に刻んだ鍔は、“不屈の戦士”の象徴である。


 「これはっ…..隆正様の!……」


 掌に収まるその鍔は、使い込まれてはいるが、どこか荘厳な気配を纏っていた。


月夜はその鍔をそっと悠真の手のひらに預けた。


 その鍔に触れた瞬間、悠真の身体に、何か熱のようなものが走った。


 


 「っ……な、ん……だ……?」


 ぐらりと視界が揺れる。

 

 頭の奥で、誰かの声が響いた。

残響のように、どこか懐かしくも力強い、戦陣を駆ける男の声――。


――よいか、若き者よ。

たとえ万に囲まれようとも、心折るな。

誇りを胸に、義を背に、武を尽くせ。


――膝など、断じて地につけるな。

最後の一矢を放つその時まで、戦場に立ち続けよ。

それが、我が“真田”の矜持ぞ。

 


 血が滾るような感覚。

 脈打つ鼓動が、肉体を越えて何かを呼び覚ましていく。


 


 「悠真くん! 大丈夫!?」


 月夜が肩を支えると、悠真はハッと息を呑んだ。


 


 「これ……なんだ……!? 体の奥から、力が……」


 彼の瞳が、わずかに紅く光った。

 傷ついた手の皮膚や体が、みるみるうちに再生していく。


 


「……まさか。継承……!?」

月夜が目を見開く。

この目の前の少年に、“あの方”の力が――そんなこと、あってはならないのに。


 


 「でも、そんなはずはない……!」


 彼女は鍔を見つめながら呟いた。


 「その鍔は、隆正様が持っていたもの……。

  つまり、あなたの祖父が“継承者”として扱っていた遺物の一部のはず……」


 


 「じゃあ、今のこの力って……じいちゃんの……?」


 悠真が呟く。


 


 「でも、理屈が合わないわ。

 本来この“力”は、ひとつの時代に、たったひとりしか継承されない。

 前の継承者が死んだときにしか、新たな継承は起きないの……」


 


 静かに言葉を区切った月夜が、真剣な目で悠真を見つめた。


 


 「けど……隆正様は、“まだ生きている”。その証拠に、私の持つ護符は今も焼失していない」


 「……なのに、俺に継承された」


 


 沈黙が落ちた。


 それは混乱と不安の空白――

 しかしその中には、確かに、ひとつの“異常”が浮かび上がっていた。


 悠真は再び鍔を見つめた。


 六文銭――不屈の象徴。


 “どれほど打ち砕かれようと、再び立ち上がる者”の力。


 


 それが今、自分の中で確かに脈打っている。


 


 「じいちゃん……俺は、何を……託されたんだ……?」


  「これは……前例のない事態よ。継承が重なって起きるなんて……」


 月夜の声には、驚きだけではなく、わずかな戦慄が混じっていた。


 「もしこれが本当に“二重継承”なら……あなたの中には、隆正様と同じく”不屈”の力が存在している可能性があるわ」


 「……不屈?」


 悠真が顔を上げた。


 「ええ。先日、あなたが目の当たりにした“隆正様の力”……異形を滅するまでその歩みを止めない。

 燃え盛る焔のような闘志、そしてその姿….まさに“不屈”……真田幸村を象徴する力よ」


 「……不屈……」


 悠真が、その言葉を反芻するように呟いた。


 真田幸村――戦陣を駆け抜けた、“不屈の赤備え”だ。その力が、なぜ自分に……?


 「けど……どうして俺が……」


 「わからないわ。今の時点では、何一つ」


 月夜は静かに、だがきっぱりと断じた。


 「でも、確かなのは――あなたは今、普通の人間じゃない。

 それどころか、“史上初の存在”かもしれない」


 


 悠真はしばらく沈黙したあと、ゆっくりと拳を握りしめた。


 「……だったら、なおさらだ。じいちゃんが何を背負ってたのか……ちゃんと知りたい」


 「そして……どこかでまだ生きてるなら、俺が、必ず……」


 


 その眼差しには、迷いがなかった。


 月夜はそれを見て、小さく微笑む。


 「その覚悟、忘れないで。きっと、これから先……その意志が試されることになるわ」


 その問いに、部屋の静寂が返事をすることはなかった。


 だが、確かなことが2つだけあった。


 悠真の掌に固く握られた六文銭の鍔と、彼の中に湧き上がる”不屈”の闘志。


 そしてその矛盾と謎こそが、この世界の深淵と、祖父の行方に繋がっていることを――

 彼はまだ知らなかった。


 

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