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残照の革命  作者: Nuhs
第9章ー軍神の修行編ー
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氷焔の絆

霊子濃度の高い山間の霜降る夜。冷気が肌を刺す。


 「氷室蓮、真琴。お前らの能力は氷と闇。だが、過去に囚われ、魔徒因子に呑まれかけた経験があるそうだな?」

 山本平八郎の声は静かだが鋭く響いた。


 「かつて、その因子を本当に制御できた者を俺は見た事がない……」


 「一見制御している様に見えるが、それは“抑え込み”だ。力を押し込めているだけでは、いつか爆発するだろう……かつて……そうやって”飲み込まれた”者達を俺は幾度となく見送ってきた……..」


 「正直、俺にも正解はわからん。もっと力を“共鳴”させ、融合しろ。因子はお前らの敵ではない。──力の源だと思え」


 真琴は小さな体を震わせ、蓮の足元にぴったり寄り添いそして小さな肩が震えた。

 冷たい冷気が漂う中で、息が詰まるように胸が苦しくなる。


「おにいちゃん……わたし……こわいの……」


「もうひとりの…..わたしがいうの…..ぜんぶこわしちゃえばって」


 声はかすれて、涙がぽろぽろと零れ落ちる。

 蓮はやさしく背を撫でて応えた。

「大丈夫だ、真琴。俺達なら出来る」


 平八郎が杖を地面に突き立てると、周囲の霊子が激しく乱れ、二人の周りに氷の結界が広がった。


 「暴走した、お前たち自身の幻影を見せる。向き合い”理解”しろ」


 霧の中から、暴走した二人自身の姿が現れる。氷の刃を持ち、口元に薄い笑みを浮かべ、ゆらりと立っている。


 真琴は恐怖に駆られ、無意識に兄の足を掴んだ。


 「いっぱい……こわい……の、どうしたらいいの?……」

 蓮は妹の頭を軽く撫で、落ち着かせる。

 「俺も怖い。でも、逃げたら終わりだ」


 二人は背を合わせ、蓮の剣が氷の結晶をまとい輝く。

 「俺も自分と向き合う。真琴…..お前なら大丈夫だ」

 小さな真琴は震えながらも頷き、薄氷の壁を展開する。


 蓮の視界に映るのは、自分と同じ顔、同じ声――だが、瞳だけが漆黒に沈み、口角には獣のような笑みを貼り付けた「もう一人の蓮」。

 それは“暴走した闇蓮”――抑え込んできた負の衝動の具現。


 「……破壊、それがお前(俺)の本質だ。いい加減わかってるんだろ?」

 闇蓮が息を吐くと同時に、黒い残光が眼前に迫る。

 闇蓮の氷剣が石床を抉り、破片が弾丸のように飛び散る。


 衝撃に頬を裂かれながらも、蓮は低く構えた。

 (こいつの動きは俺と同じ……いや、“俺以上”だ)

 次の瞬間、闇蓮が背後に回り込み、蹴り上げる。

 蓮は咄嗟に腕で防ぐが、衝撃が骨に響き、膝が沈む。


 「ほら、そんなんじゃ大切な妹も仲間も“護る”事なんてできないぞ、俺」


 「全部壊してしまえばいいんだよ、護る者も無ければもっと自由に壊せるじゃないか」

 耳元で囁く声が、心の奥底をざらつかせる。

 蓮は歯を食いしばり、地面を踏み割った。

 青と黒の霊子が氷剣を包み、闇蓮を狙う。


ーーーガキンッ


 鍔迫り合う青と闇の刃。


蓮の剣が闇蓮の動きを捉えるが、相手は笑みを崩さずに剣戟を受け止め、逆に蓮の腕を掴んで地面に叩きつけた。

 石が砕け、砂煙が立ち上る。


 「痛ぇだろ? でも、それが“生きてる”ってことだ」

 闇蓮の言葉に、蓮の中で何かが揺れる。

 (こいつを倒すには……俺の弱さを、全部受け入れなきゃならねぇ)

 蓮の目が決意を帯び、霊子がさらに輝きを増す。



 闇蓮はニヤリと笑うと距離を取る。


 「お前を呑み込み俺は解放される…..ヒヒヒ。」


睨み合う両者、次の踏み込みで決着がつきそうな空気を纏い合う。


ーーーーーその頃


小さな真琴の前に立つのは、同じく幼い少女――だがその瞳は泣き腫らしたように赤く、口元からは絶えずすすり泣きが漏れている“暴走闇真琴”。

 泣き声は、耳障りではなく胸を締め付けるほど切実。

 「……やだ……いや……わたしの、とらないでよ……」

 そう言いながら、闇真琴は鋭い氷爪を振りかぶる。


 「……っ!」

 真琴はたどたどしい足取りで後ろに跳び、必死に距離を取る。

 (わ、わたし……こわい……でも……これ、わたしだもん……)

 呼吸が浅くなるたび、幼い手が震える。

 だが震える指先は、ぎゅっと握られていく。


 「……やめてよ! そんなの……わたし、なりたくないの!」

 小さな叫びとともに、掌から光が弾ける。

 凍てつく霊子が衝撃波のように拡散し、闇真琴を押し返す。

 だが闇真琴は泣き声を上げたまま、迫ってくる――まるで母を求める迷子のように。


  光を必死に放ち続ける真琴の小さな身体が、徐々に限界に近づく。

 「はぁ……はぁ……」

 それでも後退しながら、泣きながら、彼女は声を絞り出す。

 「……わたしは……ぜったい……わたしを……まもる!」

 その瞬間、光が純白に変わり、闇真琴の泣き声を包み込み――二人の姿が淡く揺らぎ始めた。


  純白の光が、泣き続ける闇真琴の姿を包む。

 爪は力なく垂れ、赤く濡れた瞳が真琴を見上げる。

 「……こわい……ひとりは……やだ……」

 その声に、真琴の胸が締めつけられる。

 (わたし……この子を、けして捨てちゃだめだ……)


 真琴は震える足で一歩近づき、小さな腕を伸ばす。

 そして――闇真琴を抱きしめた。

 「……だいじょうぶ……いっしょだよ……」

 闇真琴の泣き声が次第に弱まり、光の粒となって真琴の胸に溶けていく。


 残されたのは、静かな稽古場と、息を詰めて涙を拭う真琴だけだった。

 「……もう、まけないから……」


 真琴は自身の中にある迷いや不安を受け止めると、静かに前を向き直す


 「お兄ちゃんも、みんなも…..マコトがみんなみんな守るんだから!」


 その姿は守られてばかりいた幼い少女ではなく、毅然とした眼差しを持つ戦士の顔であった。


 静寂を突き破り、蓮は跳び上がった。

 両腕に集めた霊子が青と黒の渦を巻き、刃に収束する。

 「――お前が俺を壊す前に、俺が“俺”を超える!」

 渾身の突撃。

 闇蓮は嗤いながら迎え撃ち、黒い霊子を剣に凝縮させる。


 氷刃と闇刃がぶつかり合い、爆発のような衝撃波が修行場を裂いた。

 青黒と漆黒の光が拮抗し、一瞬だけ、蓮の力が押し勝つ。

 闇蓮の足がわずかに後退し、口元の笑みが消える。


 「……チッ……面白ぇじゃねぇか、お前の覚悟しっかり見させてもらったぜ………..」

 その言葉が終わるより早く、闇蓮の姿は霧のように消える。

 息を切らせながら膝をつく蓮。

 (押し返した……ほんの一瞬だが……俺は、俺に負けなかった……)

 胸の奥で小さな確信が芽吹いた。


二人は各々が、己の“闇”を一瞬でも押し返した。

それは勝利ではない。確かに“進んだ”証だった。


 

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