表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残照の革命  作者: Nuhs
第9章ー軍神の修行編ー
45/49

進む者、退けぬ者

 荒野に近い岩地帯。風は強く、霊子は重く澱み、そこに立つだけでも心が軋む場所だった。


 その中央に、黒木玲央はいた。


 武器もなく、仲間もいない。

 ただ彼一人が、巨大な岩の前に立っていた。


 「ここは、“守護”の素質を持つ者しか踏み込めん地だ」


 背後から、山本平八郎の声が響く。


 「お前の能力──《不退転》は、名の通り《退かぬ意志》の具現だ。絶体絶命の状況でこそ力を発揮し、傷つくほどに強くなる。

 だが……それは、裏を返せば“倒れるまで突き進む”という呪いでもある」


 玲央は黙って拳を握った。


 平八郎は一歩前へ出た。


 「このままでは、いずれお前は“自分を殺す意志”に飲まれる。敵を倒すのではなく、“自分を壊すことでしか進めない者”になる」


 玲央の額から、汗が落ちた。


 だが、その言葉は、胸の奥に深く突き刺さっていた。


 ──“お前は、どう生きたい?”


 


 (……それが、わからない)


 


 平八郎は、巨大な岩を指差した。


 「この“霊子の巨壁”は、己の信念に曇りがあれば決して壊れん。力ではない。“意志”で進め。

 ……さあ、己の《信念》を語れ、黒木玲央。その上で進め」


 玲央は、壁の前に立ち、拳を握る。


 (信念……)


 その言葉が、過去の記憶を呼び覚ました。


 


 ──黒木家の三男として生まれた。

 ──長兄・長門は魔徒掃討任務で殉職。

 ──次兄・隼人も、仲間を庇い討ち死に。

 ──父も同じように、名誉の死を遂げた。


 


 「“黒木の男は、己の命を使って誰かを救う。それが誇りだ”」


 小さい頃から、幾度となくそう教えられてきた。


 家には、三人分の位牌と勲章が並んでいる。

 母は、泣きながらも誇らしげに彼らを語った。


 玲央も、自然とそう思うようになっていた。


 


 ──いつか自分も、兄たちのように。

 ──仲間を庇って死ぬ。それが“立派な討魔士”の証だと。


 


 (……でも)


 拳に、力がこもる。


 (それが“正しい”なんて、誰が決めた?)


 


 思い出す。任務で逃げ遅れた仲間。

 迷った末に助けに行けなかった自分。


 「逃げるな! 兄さんたちは逃げなかった!」

 「死ぬのが怖いのか? 恥を知れ、玲央!」


 ──耳にこびりついた親族の声。


 (あれは、“呪い”だったんだ)


 (誰かを護るために死ぬことしか、誇りに思えなかった)


 (俺は……俺自身を、生かす理由を、ずっと持ってなかった)


 


 「けど」


 拳をゆっくりと掲げた。


 「だからこそ、俺は“もう逃げない”と決めた。……恐怖も、後悔も、呪いも、全部背負って進む。

 兄たちのように死ぬことじゃない。俺は、俺自身として、生きる意味を探す」


 全身の霊子が、爆ぜるように膨れ上がる。


 《不退転》の能力が、真の姿を現す。


 「俺は……俺は、誰かの背中を見て進むような生き方は、もうやめる。

 “死ぬこと”じゃない、“生き抜くこと”を誇りにする。そう決めた……!」


 不退転は《不壊進道ふえしんどう》へと至る


「死んでも退かない」ではなく、

「生き抜いてでも前に進み続ける」へ。


 かつての《不退転》は、「後退しない」ことが主軸だった。

しかし進化後の《不壊進道》は、「あらゆる絶望と苦痛に晒されても、砕けずに生きて進む」こと。


 “死に美徳を見出していた男”が、

 “生きることに意味を見出した”その覚悟が霊子と結晶化した。



 次の瞬間――


 黒木玲央の全身から、《岩色焔》のごとき霊子が溢れ出した。


 岩壁が、震えた。


 いや、“震えさせた”のだ。意志によって。


 「進め、進め……! 俺は、“退かない”だけじゃない、“前に進む”って決めたんだ!」


 爆発的な一歩。その拳が、巨大な壁を撃ち抜く。


 鈍く響く音のあと、反り立つ巨壁が真っ二つに割れた。


 立ち上る霧の中で、玲央の肩は大きく上下していた。


 それでも、彼の目は前を見据えていた。


 山本平八郎が、彼の背に小さく言う。


 「……“ 不壊進道”とは、過去に縛られることではない。“過去を踏み越えた者”にこそ、宿る力だ」


 霧の向こうに、かつての兄たちの幻影が見えた気がした。

 だが、もう彼はそこへ還ろうとは思わない。


 玲央はそれに、静かに背を向ける。


 (兄さん、父さん。……俺は、生きていく)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ