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残照の革命  作者: Nuhs
第9章ー軍神の修行編ー
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月が還る場所

ーーー神崎月夜ーーー


 霊子の濃い山岳地帯にて、各々が“その先”を求め、修行に臨む討魔士たち。


 その一角。月明かりが差し込む静謐な谷で、神崎月夜は、静かに佇んでいた。


 彼女の前に立つのは、かつて「軍神」と称された老戦士、山本平八郎。


 「……お前の《吸収》という能力。帰蝶きちょうの力。すなわち“受け入れ”の極み」


 彼は重々しく言う。


 「だが、“受け入れたもの”をどうするか……それを定めねば、いずれその器は壊れる」


 月夜は俯きながら呟く。


 「……私には、わかりません。何のためにこの力を使うべきなのか。私は……イヴリンを隆正様を守れなかった。誰かの痛みを背負うだけでは……ただ、自分が壊れていく気がして」


 平八郎は一つ頷き、山の祠の奥を指した。


 「……ならば“心の底”まで潜れ。お前が何を背負い、何を見てきたのか、すべてと向き合え。

 その先で、かつてのお前の“原点”に、きっと出会うだろう」


 


 ──霊子深層領域・月心の回廊


 そこは、霊子によって具現化された精神世界。白銀の草原、揺れる水面の空。

 不思議な景色の中で、月夜は歩く。自分の過去を踏みしめるように。


 


 そのとき、柔らかな風が吹き、前方に──ひとりの男が現れた。


 凍てつくような霊子を纏いながらも、どこか温かい気配を持つその姿。


 


 「……父さん……?」


 


 男は、ゆっくりと振り返った。


 かつて《蒼鬼》と呼ばれた男──神崎響士郎。討魔省の“氷剣”の象徴。

 月夜の父であり、命を賭して仲間を守った男。


 「……よぉ、月夜。随分、大きくなったな」


 その声は幻であり、記憶であり、霊子の共鳴が生んだ“残響”だった。


 


 「……どうして……父さん……私……どうしたらいいの?」


 


 涙声で問う月夜に、響士郎はゆっくりと近づき、優しく頭を撫でた。


 「お前は、ずっと“代わりになろう”としてきたな」


 「……?」


 「仲間の代わりに傷つき、支えようとして、誰かの痛みを受け止めることが“正しさ”だと信じてた……でも、それだけじゃ救えないんだ」


 


 月夜は俯きながら、拳を握る。


 「……そう、思う。でも、じゃあ私は……どうしたらいいの?」


 


 響士郎は、月夜の背中に手を添えながら、月を仰いだ。


 「月夜、お前が“受け止めてきたもの”は全部、無駄じゃない。ただ……それを、“抱えたまま”にしとくな。

 吸収した痛みを、優しさに変えろ。怒りを、光に変えろ。

 お前には、その力がある」


 


 月夜は、はっと目を見開く。


 父が言うそれは、まさに《吸収》の“先”にあるもの。


 「……私は、痛みを受け止めるために戦うんじゃない……」


 「そうだ。お前は“癒す者”だ。戦うためじゃなく、“笑顔を取り戻す”ために立て。

 それが、神崎月夜の戦いだ」


 


 その言葉が、彼女の核に届いた瞬間。霊子が輝き、力が“変質”を始める。


 


 ──月夜の背に、蝶の光翼が生まれる。


 吸収された痛みは、浄化され、癒しの波動となって周囲を包み込んだ。


 


 新たな能力、それは──


 《還光かんこう


 あらゆる負の霊子を吸収し、光へと転じる浄化の力。

 敵の呪いを無効化し、味方の傷を癒し、さらに攻撃として転用することすら可能な“聖域”の力。


 


 響士郎は、満足そうに微笑む。


 「……もう大丈夫だな。月夜……あと、師匠から俺の剣は見たな?お前なら俺よりも鋭い氷剣を振るえる、必ずだ!」


 


 月夜が涙をこぼす。


 「……うん。ありがとう、父さん……ずっと、会いたかった」


 「….そこに居てやれなくてすまない….けど、いつでも俺はお前の中にある。……それは忘れないでくれ。」


 彼の姿は、やがて光となって空へ還っていった。


 


 月夜が目を覚ますと、焚火の前に立つ平八郎が、目を細めて言った。


 「……見つけたようだな。お前自身の“答え”を」


 月夜の手には霊子で形成された氷刀が握られていた


 「父さん、私この力と刃できっと仲間を救ってみせる。」


 そして月は、まるで彼女を祝福するように、満ちていた。


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