軍神の眼
山間の霊子濃度が高い特異領域――かつて“鬼の修練場”と呼ばれた戦場跡。
今そこには、討魔省の精鋭たちが一堂に会していた。
悠真、月夜、玲央、蓮、真琴、直人、瀬奈――すべてが現討魔省の若き精鋭たち。
だが、彼らの前に立つ男の視線は冷たかった。
山本平八郎。
かつて「軍神」と呼ばれた老戦士が、義手を組みながら全員を見渡す。
「……お前ら、今までよく戦ってきた。だが」
その目が、一人ひとりを射抜くように鋭くなる。
「──このままでは、間違いなく“全員死ぬ”」
空気が凍った。
平八郎の声は、穏やかだが冷酷だった。そこに希望や慰めの色は一切なかった。
「勘違いするな。俺は“期待”してるわけじゃない。ただ……“警告”している」
義手の拳が、無造作に岩を砕く。まるで玩具のように。
「原初の魔徒。奴らは“災厄”そのものだ。戦いではない。“死の前触れ”だ。
その一撃は概念を穿ち、その一息は感情を殺す。下手に踏み込めば、塵すら残らん。……お前たちは、まだ“その領域”にすら立っていない」
彼は、一歩、歩み寄る。
「この俺が、過去にどれほどの“才能ある若者”を見送ったと思っている」
声が低く、重く響いた。
「誰もが、自分の能力を誇っていた。“この力なら通じる”と信じて疑わなかった。だがな──」
足元を見やる。
「“能力”だけでは勝てん。“力の本質”を知らぬ者に、生存はない」
悠真たちは言葉を失っていた。平八郎の言葉は、ただの脅しではなかった。
それは、無数の“若き死”を見送ってきた者だけが持つ、“確信”だった。
「だが……俺はもう一度だけ、手を貸すことにした。理由は話した通りだ。あいつが、俺の弟子が……お前たちに未来を託したからだ」
平八郎は、全員の前で杖を地面につくと、静かに告げた。
「これより、お前たちに《霊子深化訓練》を施す。“能力”ではない。“その先”にある“真の在り方”を見せてやる」
彼の目が、月夜に向いた。
「まずはお前からだ、神崎月夜」
そう呼ばれた月夜は、ゆっくりと立ち上がった。
「お前の《帰蝶》は、“受け入れ”の力だ。だが、受け入れるだけでは“壊れる”。
このままでは、誰かを庇って、何も残さず死ぬ」
月夜の表情が引き締まる。
平八郎は続けた。
「“力”に選ばれただけでは、生き延びられん。“力の使い方”を、お前の心に刻み込め」
そして、瞳を閉じながら、独りごとのように呟いた。
「……この眼に焼きついている。希望を抱き、理想を語り、そして無惨に散っていった“英傑たち”の姿が。
死者の数だけ、俺は知っている。“何が足りなかったか”を……」
彼の言葉はまっすぐだった。
「だが逆に言えば……生き延びた者は、みな己を変えた。“自らの在り方”を、力に昇華した」
平八郎の瞳が、静かに揺れた。
「さあ行け。今から先は、“誰かに教わる”場ではない。自分自身の深層と対話する地獄だ。
……お前たちが、本当に“生きて帰りたい”と思うならば、だがな」
その声に、誰も返事はしなかった。
ただ、全員が無言で──しかし確かに、“前を向いた”




