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残照の革命  作者: Nuhs
第8章ー新生討魔省編ー
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傷つきし庇護者の選択

 ――セレナが去った後の山は、ひどく静かだった。


 涙の霧が消え、霊子の嵐が止んでも、空間に漂う“哀しみの余韻”はなおも消えない。

 凍てついた植物の葉が、ぱらぱらと砕けて地に落ちるたび、沈黙が深まっていく。


 蓮と真琴は急ぎ、子供たちの安否を確認していた。


 「異常なし……!呼吸もある、霊子波形も安定してる」


 「よかった……よかったぁ……!」


 真琴は泣きながら、小さな子供を抱きしめる。

 その子は恐怖で動けず、涙を流していたが、かすかに翔子の名を呼んだ。


 「……おねえちゃん……」


 翔子はというと、畑の外れで膝をつき腰を下ろしていた。


 その全身は、霊子の火傷と凍傷が混在し、傷口からは淡く光る霊子の蒸気が立ち昇っていた。

 呼吸は浅く、体は小刻みに震えていた。


 月夜が駆け寄り、すぐに手を添える。


 「翔子さん……!」


 「……へへ……ちょっと、張り切り過ぎたかな」


 翔子は煙草に火をつけ一息つくと、細く息を吐き出した。そして、血の滲む唇の端をわずかに持ち上げ、笑みを浮かべた。それは、痛みに耐え、それでも月夜を安心させようとするひどく気丈な笑みだった。


 「“オーバーブレイク”は、三分間限定の強化術よ。……代わりに、使用後は1時間は動けなくなるの」


 「1時間……!」


 「肉体への負荷が半端じゃないのよ……癒しの力を戦闘に使うってのは、便利だけど代償もデカい」


 月夜は口を噤んだまま、そっと翔子の背に自分の蝶を触れさせ、霊子の安定を促した。


 そして、一通りの処置を終えた後――

 月夜はそっと言葉を落とした。


 「……翔子さん。提案があります」


 「……なに?」


 「この“癒しの拠点”を、本庁へ移すことはできませんか?」


 翔子の目がわずかに細められた。


 「……討魔省の本庁、ってこと? あの冷えた箱の中に、あの子たちを?」


 「以前の討魔省は王庭側の襲撃を受けーー前長官、有栖院是清と共に崩壊しました。

 現在は堂島剛志長官と、月詠奏司副長官の元、真に人を護る組織へと再建している最中です。」

 

 「堂島!?あの鉄拳の堂島が今や長官かい?あの馬鹿が長官とは…..世も末だねー」



 「それに、この拠点はあまりにも無防備すぎます……。原初魔徒は、もう人知を越えている。

 次にもう一度来たら……それに耐えられる保証は、もうどこにもないんです」



 「………..まぁ…….そうだね………」



 翔子は無言で、子供たちのいる療養棟の方角を見つめた。


 虹の絵。拙い文字。笑っていたはずの瞳。


 (……この山で、やっと笑えるようになったのに)


 思考が揺れる。その時、遠くで小さな声が聞こえた。


 「あのねー!あたしね、みんなと一緒に畑やったの!」


 「翔子おねえちゃん、すごかったんだよ!ぐわーんて………」


 ――何も知らない子供たちの声。その笑顔。


 翔子は深く目を閉じた。


 「……わかった。ただし、条件がある」


 月夜が目を見開く。


 「条件?」


 「“あたしが一緒にいる”ってこと。それと、あの子たちが“隠れて生きるような、日の当たらない存在”にならないこと。

 生きてていい。人として胸を張って生きられる場所が、本庁にあるって証明してもらうよ」


 静かな、けれど強い決意が、翔子の声にはあった。


 月夜はゆっくりと頷いた。


 「……はい。誓います」


 風が吹いた。朝の光が差し込み、冷えた空気にほんの少しだけ、温もりが戻る。



 出発の朝。


 霧の晴れた山道に、荷車に乗った荷物と、子供たちの姿が揃っていた。

 真琴と蓮がそれぞれ付き添い、子供たちは見慣れない制服の大人たちに少しだけ緊張した面持ちを浮かべていた。


 「……でも、なんかちょっとワクワクするね」


 「うん……なんか“広い世界”に行ける気がする」


 そんな小さな声を聞きながら、翔子は何も言わずにその光景を眺めていたが、その口元は微かに笑っていた。


 月夜がそっと囁く。


 「必ず、証明します……あなたが作ったものを、守れる場所があるって」


 輸送機のエンジンが低く唸る。

 ゆっくりと、機体が浮かび上がるように起動し、山を下っていく列の上に微かな風を送った。



 その旅路の先――


 まだ見ぬ「新たな居場所」へ向けて。

 生きていていいという当たり前の希望を、当たり前に手に入れるための――小さな革命が、今始まった。


 誰かが言った。


 「悲しみは止まらない」と。


 ならば、それを“超えていく意志”も、きっと止まらない。


 ――戦いは終わっていない。

 だが、また一歩。“未来”へと進もうとする者たちの意志が、そこにはあった

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