新生ー討魔省
瓦礫となった討魔省本庁跡の横で、急遽設営された仮設作戦指令室。
そこは、高度な霊子遮断術式で外部から守られ、最先端の通信設備が整えられていた。
堂島剛志が堂々とした姿で指令室の中央に立つ。
彼は正式に第八代・討魔省長官として就任したばかりだ。
集まった中核メンバーは、月詠奏司、日向悠真、神崎月夜、高峯直人、音無瀬名、黒木玲央、氷室蓮、真琴ら数名の実力者たち。
緊張感と期待が交錯する中、堂島が口を開く。
「……さて、ようやく始まるぞ。俺たちの“正義”が」
場内に静かな緊張感が走る。
月詠は冷静にモニターを操作し、作戦名を示す映像を映し出した。
「最初の任務は、派手ではないが極めて重要だ。作戦名は《革命ノ月》。」
「“革命ノ月”とは、旧討魔省の隠された危険物資の調査・回収・処理を目的とした極秘作戦だ。
特に、すでに製造されたとされる霊子核兵器の破棄が第一のターゲットになる。」
「その中でも第一班は日向悠真と高峯直人、両名は九州に存在すると推定される旧霊子核研究所《雷鳴学舎》跡地への潜入を担当する。
霊子核兵器の保管と管理の実態を調査し、可能な限り安全に破棄することが任務だ。」
「第二班は神崎月夜と氷室兄妹、3名は北陸地方の地下に在る魔徒因子を受けた実験体の療養施設”癒しの拠点”への潜入を担当して貰う。
機密情報によれば魔徒因子を宿す元討魔士たちが潜伏している、その確保と保護を行う事が任務である。」
「そして第三班は黒木玲央と音無瀬奈、両名は飛騨地方の霊脈地に隠居されている山本平八郎様を招聘する事が任務だ。
かつて討魔省にて、主席軍事参謀総長を勤められた方だ。」
各々がその瞳に決意の火を灯していく。
「……母さんの時代の、負の遺産。俺が止める。」
堂島が力強く頷き、決意の空気が室内を満たす。
ーーーー第一班
阿蘇山脈の深い霧に包まれた旧雷鳴学舎跡。
苔むした石段を越え、廃墟の入口に辿り着いた日向悠真と直人は、ひそやかに息を潜めた。
「ここが……かつての霊子核研究所の隠し拠点か」
悠真は薄暗い入口を見据えながら呟く。
しかし、施設の扉は、生きているかのように微かな振動を放っていた。
それは、最先端の霊子干渉術式によって形成された結界の余波だった。
「気を抜くな……この先には自律稼働型の防衛システムが配置されているようだ。」
直人が耳を澄ませる。
ふと、彼らの霊子波長が感知されると同時に、施設内部の無数の霊子センサーが反応。
空気の振動、微細な電磁波の乱れが一斉にネットワークに流れ込む。
闇の中、機械音が響き渡る。
“起動確認。対象侵入者、識別。排除開始。”
数十体の小型機械式霊子兵器が姿を現した。
彼らは鋭い霊子刃を備え、壁や天井から次々と降下し、レーザー状の霊子ビームを放って攻撃を仕掛ける。
悠真は瞬時に状況を把握し、刀を抜く。
「直人、あの小型機械を破壊する! レーザーの照射パターンを読み取ってくれ!」
直人は術式を展開し、周囲の霊子波動を解析。
彼の指先が高速で走り、解析結果を悠真に伝える。
「レーザーは三角形を描くように連続照射してる。突破するなら….2秒後、右だっ!」
悠真は呼吸を整え、攻撃が途切れる瞬間に機械兵器を破壊していく。
その間に、直人は霊子を集中させて電子回路を乱し、防衛装置の一部を次々と無効化する。
「あと少しだ……!」
突然、床の一部がスライドして罠が発動。
悠真は咄嗟に身を翻し、無数の霊子刃の飛び出すトラップをかわす。
「くそっ……物理トラップまで仕掛けやがって!」
だが直人が《神算》を発動し数秒先の未来を直接悠真の脳内に伝達する、悠真はその指示に従い躱して行く。
「今だ、悠真!その赤い機体が司令機、それを破壊しろ!」
悠真は目を閉じ、刀を構える。
視えたっ、無数の機体から司令機を見つけると刀を振り抜く。
照明が揺らぎバチバチと機械達が停止してゆく、その隙に二人はさらに奥へと踏み込む。
無数の機械兵器が完全に機能を停止し、ついに二人は施設の最深部へと続く通路の扉に辿り着いた。
「これを越えれば……この“研究所”の心臓部だ」
悠真は静かに息を吐く。
その時、停止した機械兵器が再稼働を始める。
ーーシステム、リブートーースタンバイーーー
焦る二人。最後の扉の前で大型機械兵器が2機、門番のように立ち塞がる。
戦車の様な形に大型のガトリング式霊子砲らしきものが二丁ずつ搭載され、コチラに標準を合わせている。
その時、扉の奥から声が聞こえてきた。
「……帰れ。ここには、“何も無い”」
ひんやりとした声が闇に響いた。
扉の上方にある大型モニターの画面に現れたのは、乱れた白衣に長い黒髪を結んだ女性。
鋭く切れ長の目が二人を捉える。
「ようこそ、討魔省のクソ野郎共。ずいぶん派手な挨拶だったわね」
白瀬綾――かつて日向英香の後輩であり、元霊子核研究者だった。
だが今はこの施設の“番人”を自称し、兵器の保管を誓っている。
「私は英香先輩から託された、この“兵器の墓場”を守る。誰であろうと許さない、コレを押せば貴方達も終わりよ。」
そう言い放ち、端末を掲げる綾の指は、いつでも施設を吹き飛ばす自爆装置に触れていた。
悠真は両手を上げ敵意のない事を示し、言葉を詰まらせながらも言う。
「俺は……日向英香の息子です。母の遺志を継ぎに来ました。」
綾は一瞬瞳を揺らしながらも、冷笑を浮かべた。
「遺志?あの人が残したのは、永遠の地獄よ」
「君の母親は、傲慢な天才だった。当時私も世界を変えるのは“私たち”だけ。そう信じて疑わなかった……あの頃はね」
綾の瞳に映る回想。
かつて英香は無慈悲で冷徹な“選ばれし者”の理想を掲げる研究者だった。
「“選ばれた者”だけが導かなければ、人類は滅びるのよ」
就任初期に研究室でそう語る英香の言葉は、鼻持ちならない名家のお嬢様らしく重く響いた。
しかし、彼女に変化が訪れる。
「日向敏矢」との出会いが、英香の内側に温かさを灯したのだ。
綾は遠い目をし、心の中で呟く。
「くだらないと思ってた。“恋”なんて。……でも、楽しそうだった。人間らしかった。……羨ましかった」
英香は綾にこう言い残した。
「綾。今までゴメン、私が間違ってたわ。
こんな事言うの図々しいかも知れないけど、もし私が途中で消えたら、この兵器を、誰にも渡さないで。
お願い……」
英香は霊子核兵器の最終封印を綾に託し、改革派に身を投じたのだった。
それから、綾は孤独に兵器の封印を守っていた。
「全部、意味なんてなかった。あの人は消えて、残された私は“監視者”として生き続けた。
そう……コレはまるで呪いよ……私は何の為に、ココに存在しているの?彼女はもう…..何処にも……..居ないのに………」
悠真は目を逸らさず、静かに語った。
「俺は日向英香の遺志として、貴女を重荷から解放する為にここに来ました。母さんが掛けた呪いから。
きっと….母さんもそれを望んでいると思います…..
そして!今度は、俺たちが背負う。その重荷を、あなたと共に」
綾は沈黙し、自爆装置のスイッチを静かに降ろす。
機械の停止音と共に重い扉が開き、中から白衣の白瀬綾が歩み出てくる。その手には小さな端末が握られている。
「……あなた、あの人に似てるわね。その真っ直ぐな瞳、私も少し先輩の気持ちわかったかも。」
「はぁ….すでに完成された霊子核兵器が一基封印されているわ。保管庫は別の場所よ。コレをどう使うかは……あなた次第」
悠真は綾から《霊子核封印コードと保管座標の端末》を受け取る。
「もし本気なら、その灯を絶やさないで」
悠真と直人が端末を手にした瞬間、遥か上空を偵察型魔徒が飛翔し、通信が届く。
「目標、白瀬綾生存確認。霊子核座標奪取作戦へ移行」




