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残照の革命  作者: Nuhs
第8章ー新生討魔省編ー
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再誕の礎

  東京都内―――護国神社内最奥の厳重に警備された大扉を開けると、高度な拡張術式によって広大な空間が広がっていた。

 

 古来より日本の霊脈の中心地として存在しているその空間に討魔省本庁があった。


 その中心に聳えていた“中央塔”は、いまや跡形もない。

 ただただ、無数の瓦礫が散乱し、霊子の焼けた残滓が立ち込めていた。


 臨時設営された仮設の指令テントでは、復旧と救助の指揮が続いていた。

 その中で、日向悠真は黙して破壊された本庁跡を見つめている。


「……崩れちまったな、全部」


 背後から、堂島剛志の太い声が響く。


 鉄拳の堂島として知られ、かつては戦闘部門の先鋭だった彼も、今は教官という立場に身を引いている。


 そして電子端末を指で滑らせながら、更に口を開いた。


「壊れたモノは直せる。でも、“歪んだ組織”は一度壊さなきゃ直らない……その証明になったってわけだ」


 堂島の視線の先には、討魔省の長官だった男――有栖院是清の名前があった。

 “絶対権力者、討魔省の王”と呼ばれたその男は、今やこの本部と共に消えた。


 討魔省の保守派勢力は、その頂点を失って一時的に沈黙している。

 だが、それは“終わり”ではなく。ただの“空白”に過ぎない。


 崩れた瓦礫の中から、中央制御室の残骸を見つけた悠真たちは、その中から秘匿情報――ファイル#02と明記された小型端末を見つける。悠真が無言でその端末を見つめる。そこには──

 《準粛清対象――危険因子―――機密ログ:改革派・潜在支援者名簿》の文字。


 「……ここに、“堂島剛志”と“月詠奏司”の名がある。父さんと……響士郎さんの、同志?」


 月夜が呟いた。


 「なら……まずは、月詠さんに会いに行こう。あの人の方が……話は早いと思うから」



 月詠奏司の研究所は、元討魔省直属の特殊開発部門──その跡地に再編されたものである。


 悠真と月夜がそこを訪れると、月詠は仮眠ベッドでごろりと横になっていた。


 「……来るの、早いね。せめて昼寝終わってから来てほしかったよ」


 「すみません。でも……急ぎなんです」


 月夜の言葉に、月詠は片目だけ開いて、興味なさそうに応じた。


 「急いでるのはそっちだ。僕には、別に関係ない……」


 「違う。あなたは……関係ある。父と、改革派と……そして未来にも」


 月夜は一歩、月詠ににじり寄り

 自分達、改革派の為に力を貸して欲しいと告げる。


「……父と、どういう関係だったんですか??」


 月詠の目が、ピクリと動いた。

 そして──視界が、過去へと染まる。


 ──かつて、若き日の堂島剛志と月詠奏司。

 二人は当時、興味本位で“保守派の粛清部隊”を調査していた。


 しかしそれは触れてはならない禁断の蓋であった。


 程なく、その非道な所業を目の当たりにし、目撃者として追われた二人を取り囲む黒装束の討魔士たち。


 絶体絶命──その時、風を斬って一閃が舞う。


 「“興味本位”で首を突っ込むのは構わん。だか、“命”は大切にしろよ」


 現れたのは、神崎響士郎だった。


 背を向けて、敵陣に立つその姿が、月詠の網膜に焼き付いていた。


 「君らの“気持ち”は、わかる。

 でも今は、その気持ちを……“生きて”次の世代に伝えてくれ」


 彼は笑って、二人を抱えて逃げ切った。


 その瞬間から、月詠の心にはひとつの確信があった。


 ──この男が守ろうとしているものが、世界の未来だ。


 「……あんな非合理的な人物がいたから、今の僕は生きている」


 現実に戻り、月詠はため息混じりに言った。


 「………過去にね………大きな借りがある。」


 「君たちがしようとしている事は理解できる、いたって合理的さ………でも僕は、政治家じゃないし、理想家でもない。だから、死ぬほど面倒くさいんだ。」


 「……それでも、この灯は消せないんです。」


 月夜が一歩、さらに踏み込んで目を見つめる。


 「……私は、あなたに支えてほしい。父が守りたかった者を……そして信じたように。

 今度は……私たちを信じて、共に進んでほしい」


 その瞳に、あの男と同じ“まっすぐな意志”が宿っていた。


 月詠はしばらく黙った後、頭をくしゃくしゃと掻いた。


 「……はぁ……もう、仕方ないね。借りを作っておいて、返さないのは….非合理的だよ。」


 「あの、馬鹿にも手伝わせないと。」



 月詠の次の仕事は、誰よりも“政治的”だった。


 彼はすぐさま残存する改革派の名簿を整理し、各勢力の潜在支持者にピンポイントで接触した。


 さらに討魔省臨時議会に《新体制再建案》の草案を提出、わずか一週間で根回しを完了した。


「なぁ月詠……ほんとに、俺がやるのか?」


 堂島は頭を抱えていた。


「俺みてぇな叩き上げが、長官? 冗談じゃねぇよ……俺は戦ってきただけだぞ」


「戦ってきた“だけ”って言うけど、それが何より大事なんだよ。

 君みたいな前線に居た奴が立候補することが、“説得力”になり、票に繋がる。」


 月詠はしたたかに笑う。


「それに、僕が副長官としてフォローするし。

 ロビーも、情報操作も、会議誘導も全部任せろ、って言ってもそんな事ーーーお前に出来ないと思うけど.....まぁ、君は黙って“理想”でも語っていれば良い」


「昔からだが……お前、やっぱり性格悪いな。」


「ありがとう、褒め言葉として受け取っておくよ。」


 かくして、臨時総会が開かれた。


 堂島剛志、改革派議員および中立派の絶対支持により――第八代・討魔省長官に就任。


 副長官には月詠奏司が任命され、実質の指揮系統を握る構図が整う。


 就任式の壇上で、堂島は力強く言った。


「過去幾つかの思想の違いより対立していた皆に告ぐ!これより先、“討魔省”は、再び《人を護る者》として歩み出す!考え方や思いなど相違する部分も多くあると思う、しかし!!

仲間や虐げられる人々を救い護ることこそ俺たちの存在意義だ、俺はそう思う!

そして.....その一点において俺に協力してほしい!!俺も未熟だが力を貸してくれ!共に未来に誇れる討魔省にしよう!!!」


 その声に、多くの若き討魔士たちが歓声と拍手が巻き起こる。

 月詠は隣で、冷静な笑みを浮かべながら囁く。


「意外とやるじゃないか。今度こそ、“自らの正義”を貫くがいいさ、堂島長官」


 就任式典の後


 厳かな雰囲気の漂う執務室。

 以前の討魔省の威圧的な空気とは違い、どこか静謐で整然とした空気が漂っている。


 堂島剛志と月詠奏司、そのふたりに呼び出された悠真と月夜は、重たい空気の中で対面していた。


「……呼び出してすまない。だが……どうしても、お前たちに見せておかないといけないモンがある」


 堂島が語気を強めずに言った。

 だがその言葉の裏には、明確な“覚悟”が滲んでいた。


 月詠が端末を操作し、室内に霊子映像が展開される。


 次の瞬間、複数の記録が空間に浮かび上がった。

 黒い記録。血塗られた計画。歴史の闇に葬られていた“現実”。


「これは……?」


 月夜が息を呑む。

 悠真は言葉を失った。


 映像に映るのは、過去の討魔省内の“極秘研究部門”。

 その中心に記された文字――


 《人類再進化計画》


「……これは、かつての討魔省保守派……いや、“過激派”どもの最終目的だ」


 堂島が言った。


「魔徒因子を人間に適合させる研究、これはお前らも知ってたな。だが……それだけじゃねぇ。

 因子に適応した人間同士を“繁殖”させ、新たなる人類――“神人類”を創る。

 覚醒者以外の旧時代の人間は無力で、穢れていて、変革の足枷でしかない。だから間引く。徹底的にな」


 月詠が表情を変えずに続ける。


「そしてその“淘汰”の方法として用意されていたのが――霊子核兵器。

 玖堂冥が自爆に用いたのは、あくまでプロトタイプ。

 本計画では、それよりも遥かに大規模な霊子核で、この国そのものを一度“更地”にする予定だった」


「……っ!」


 悠真の拳がわななく。

 あまりにも非道すぎるその内容に、怒りより先に“理解不能”が勝る。


「……こんな……こんなこと……!」


 月夜の声が震える。


「この計画の根幹にいたのが――旧姓、有栖院 英香。お前の母親だ、悠真」


 その名に、悠真の意識が跳ね上がる。

 まさか、自分の母がそんな計画に……


「有栖院家は討魔省内でも由緒正しい名家だ……先の長官ー是清は、お前の母の父に当たる人物」


 

 「そんな彼女も“当たり前のように選民思想による研究”を続けていた。」


 「しかし、彼女は出逢ってしまった。君の父に、その太陽のような温かな性格に、次第に君の母の心は変わっていったんだ。」


 「彼女は家を出奔し、君の父と結婚、そして生まれたのが悠真、お前だ。」


 「日向家も名家であった為、周囲は反対しなかったが。ただ1人是清だけはその結婚を頑なに認めなかった。」


 「そして彼女の考えは密かに変わった…..そして最後まで計画を”敢えて”遂行しなかった”。」


 「いや、させなかった。」



 堂島が続けた。

 映像が切り替わる。若き日の日向英香が、研究データを一つずつ削除していく姿が映る。


「……彼女は日向敏矢と出会い、正義を、真の“愛”の意味を知った。

 それがきっかけで、自らの手でこの計画の破棄を決意したんだ。

 その直後、彼女と敏矢は《改革派》に参加する」


「……そう。改革派は単なる反体制勢力じゃない。

 “人間の尊厳”を守るために、今の討魔省の歪んだ在り方を変えようとした者たちだ」


 月詠の声に、珍しく熱がこもっていた。


「正しき力と秩序は、力による選別じゃなく、“選ばぬ覚悟”の上に築かれるべきだと。

 英香さんも、響士郎さんや、敏矢さん……皆、そう信じて立ち上がった。

 だが……討魔省の上層部はそれを“異端”と切り捨てた」


「そして影ノ丘で……」


 悠真が呟く。


「……ああ。罠にはめられ、全滅した。

 生き残ったのは、記録上では……影山零だけだ」


 その名を聞き、月夜が目を伏せた。


 室内には、しばしの静寂が流れる。


 そして――堂島が立ち上がる。


「……だが、今は違う。俺たちが変える。響士郎様の遺志も、お前達の意思もある。

 なら、今度こそ“討魔省を本来在るべき討魔省に戻す”時だ」


 悠真は、強く頷いた。


「――俺はやる。正義を……信じ続ける。母さんと、父さんの背中がそう言ってたから」

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