表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残照の革命  作者: Nuhs
第7章ー討魔の崩壊編ー
32/49

極点と盾

 

 影ノ丘。


 霊子の濁流が地脈を逆流し、あらゆる命の気配を拒絶するように空が濁る。


 氷室 蓮は悠真を背にかばい、静かに剣を構える。

彼の片翼から立ち昇るのは、氷と闇、二種の霊子が融合した《変異霊子》――その存在自体が異端。だが確かに“制御”された意志を持っていた。


 対する玖堂 冥は、なおも深く呼吸を整え、淡々と術式の準備を続けていた。

 彼の周囲には、複雑に編まれた呪符と、霊子構造式が六重の輪として展開されていく。


「まさか“魔徒因子”を制御する者が出るとはな。堂島剛志め……厄介な種を育ておったか」


「貴様にだけは言われたくない……!」


蓮が地を蹴る。


爆ぜるような冷気と共に、氷で形成された長剣が閃く。

その一撃は霊子を凍らせながら接近し、冥の防御結界を一撃で凍らせた。


だが――


「浅いな」


冥は即座に指を鳴らすと、地面の術式陣が“逆転”。


凍らせたはずの結界が内側から膨張し、氷剣を砕いた。

爆風が生じ、蓮が吹き飛ぶ。


「ぐっ……!」


体勢を崩しつつも、着地と同時に反撃。

今度は《闇の霊子》を主軸に、重力干渉を強引に突破する氷柱を多数展開。


「穿てッ!」


黒い雷光のような氷柱が冥の位置へ向かって乱舞するが――


「……過去の戦場で、“似たもの”は何度も見た」


玖堂冥の術式が一斉に展開。


「封鎖式・斜断空間クロスセクター


四方向から歪曲した呪式の壁が展開され、霊子の軌道を“切断”。

蓮の攻撃は全て“曲げられ”、別方向へ逸れていく。


「空間ごと、制圧……!? これはもう、術の域じゃない……ッ!」


「私は“能力者を屠る術式”のみを磨いてきた。お前のようなイレギュラーに通じぬと、誰が決めた?」


冥が一歩進むたびに、霊子の圧が蓮の体を押し潰してくる。


「それでも……!」


蓮は氷剣を再構成。

しかし今度は、冥の掌から放たれた符が直接、蓮の片翼に命中する。


「がっ……!!」


黒と青の霊子が火花を散らして暴走。

片膝をついた蓮の周囲に、冥の冷たい声が降る。


「翼をもぎ、心臓を抉る。……ただそれだけのことだ」


直後、冥の背後に巨大な術陣が浮かぶ。


「――墜罰陣、《冥牙双撃》」


牙のような術式が地面から隆起し、蓮を突き上げる。


(速い……! 反応できない……)


悠真が叫ぶ。「蓮ッ!!」


しかしその瞬間、黒き氷壁が起動。蓮は咄嗟に霊子を再構成し、牙の刺突を逸らす。

だが、肩口を深く裂かれ、血が舞った。


「がああああッ……くっそ……!」


立ち上がる蓮の目が、確かに“決意”の色を帯びる。


(……これが、対討魔士に特化した“本物”の戦い……。魔徒因子が無かったら、確実に殺されてる)


(だが……ここで負けたら、全部終わる)


もうこの場には、退く余地などなかった。


冥が再び術陣を重ねる。


「まだ立つか。……ならば、次で終わらせる。私も、万全ではない」


蓮の唇が、わずかに嗤った。


「こっちもそうだ……だから、堂島教官!使います!“最終手段”を」


冥の手が止まる。


「……!」


蓮の足元に、青と黒の霊子が渦を巻き、次第に“世界の音”が遠ざかっていく。


「……俺の全てを懸ける。“術者以外すべての構成”を止める世界」


「何……?」


「《氷魔式・終極氷界――コキュートス》」


世界が、止まった。


⸻そして


時間が、凍りついた。


凍結結界《終極氷界コキュートス》。


すべての霊子循環が静止し、あらゆる熱量が失われた空間。

生物としての活動限界を超えた、絶対の沈黙世界。


その只中で、ただ一人、氷室 蓮だけが“動けていた”。


「……フーッ、フー…..」


 口元から白い冷気を吐き出す、そして氷剣を握り直し、蓮はゆっくりと玖堂 冥へと歩みを進める。

まるで時間を支配したかのように、冥の展開していた術式がひとつ、またひとつと――氷の結晶として結界内に封じ込められていく。


(……術式、“封じられている”……だと……)


コキュートス内部において、霊子の流動は“術者以外すべて停止”。

冥の術式構造はひとつずつ、“氷結コード”として蓮の支配下に沈んでいく。


(今だけ……この空間だけなら、こいつを倒せる)


氷室蓮が、霊子を氷刃に集約する。


「これが、すべての答えだ……ッ!」


 ――刹那。


蓮の身体が、冥の懐に飛び込んだ。


振るわれた一太刀は、これまでの“斬撃”ではない。


 「凍結」そのものだ。


冥の胸元に、鋭利な氷の楔が突き刺さる。

霊子の中心核が、“氷の結晶”となって弾け飛んだ。


(が……ハッ……!)


玖堂冥の全身が、一瞬で霜に包まれ、徐々に動きを失っていく。


(貴様ごときが……この私を……!)


「もう終わらせよう……」


そして、蓮は背を向けた。


《コキュートス》が静かに消えゆく。

世界に再び、音と熱が戻る。


玖堂冥の膝が、崩れる。


――だが、その直後。


「……まだだ。まだ……終わらん」


冥が、自らの胸を突いた。


蓮の瞳が見開かれる。


「なっ……!? 何して……!」


「革命の火種を……ここで潰す。私は……秩序を壊すものを赦さぬ」


冥の身体に、複雑な術式の光が奔る。


それは、自己の霊子核を“術式爆弾”として暴走させる、自己崩壊式呪術。

あらゆる防御結界を無効化し、対象領域全てを完全消滅させる“煉獄の炎術”。


(やばい……間に合わないッ!!)


蓮が跳び戻り、悠真を庇うように立つ。


しかし。


その前に――小さな少女が、震えながら手を伸ばした。


「やめて……っ! やめてよ……!!」


氷室 真琴。


彼女の両手から放たれたのは、拙くも、確かな意思の霊子。


「――《ぜんりょく、ばりあーッ!!》」


直後。


全方位を覆う巨大な氷の結界が出現した。


青白く輝く霊子が悠真達を包み込み、玖堂冥の自爆術式から完全に空間ごと隔絶される。


 ドーム状の霊子が空間を凍結させ、その内側を外の世界から完全に乖離させている。


「な……!? 理外の術か……おのれーッ!!」


冥の身体に奔っていた術式光が、次第に収束していく。

そして小さな赤光に変わりその中心から、とてつもない質量の爆発が巻き起こる。


「うぅ……ぅぅぅ……ぜぇんりょくぅ……!」


真琴の肩が震える。限界を超えた霊子操作に、彼女の身体はもうボロボロだった。


 そして爆発は収束し辺りは何も無い虚無の空間に変わってしまった。


「……真琴……!」


蓮が駆け寄る。


 「だ…..だいじょうぶなの、真琴がんばったょ……」


 そう言うと、安心したのか蓮の腕の中でスヤスヤと眠ってしまった。


 そしてーーー玖堂冥は。


 その体が灰になりサラサラと足元から崩れ出す。


「お….の…..れ……この、私が……子供一人の……術に……」


蓮が、静かに剣を降ろす。


「もう、怨嗟の旅は……ここまでだ」


玖堂冥は、もはや何も言葉を返さなかった。

静かに目を閉じ、風と共に消え去った。


――戦いは、終わった。


蓮は真琴を抱きしめながら、空を仰ぐ。

青と黒の霊子が静かに消え、彼の片翼も、薄く霧散していった。


「……助かったな、悠真」


悠真が、よろめきながら立ち上がる。


「……ああ。蓮、真琴……お前らが、守ってくれた」


蓮は微笑む。


「今度は、俺が“守る側”になるって、決めてたんだ」


空には、静かに晴れ間が差していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ