表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残照の革命  作者: Nuhs
第5章ー影ノ丘の追憶編ー
23/49

戦場の記憶

 討魔高校の寮区、その一室。

 外は夜の帳に包まれ、虫の音がかすかに響いていた。だが、その静けさとは裏腹に、部屋の中には任務を前にした緊張感が漂っている。


 「……これが、明日の任務概要か」


 ベッドに腰掛けた直人が端末を見つめる。

 その横では玲央が腕を組み、瀬奈が無言で霊子感応器具の調整をしていた。

 


 “特異領域・影ノ丘 調査任務”――

 二級訓練生に昇級したばかりの4名に与えられた初任務。

 それを引率するのは、神崎月夜。一級討魔士であり、今なお最前線に立つ討魔の使い手だ。


 「封印区域だった場所だよな、そこ……。んーと、資料によるとだな…….」


 直人が端末から顔を上げる。


 「過去に大きな魔徒との大戦があったみたいだな。地盤の霊子濃度が高く、定期的に”地形変動・霊子濃霧の発生がある”だってさー。」


 「でも、それだけじゃ済まなそうよ」


 瀬奈が冷静な声で言う。彼女の端末には、崩れた封印陣と魔徒兵器の残骸が映っていた。


 「何かが……そこで“意図的に”何かを目覚めさせようとしてる」


 「紫苑が……関わってるかもしれない」


 月夜がぽつりと呟くように言った。

 その表情は固く、それでいてどこか切なげだった。


 「もし居たら、まずはぶん殴る。例え真実がどうであれ、話はそれからよ。」



 装備品のチェックをしながら、悠真は言う

 

 「会えるといいですね、紫苑さんに」


 月夜は、みんなの前で立ち上がり見渡す様に声をかける。


 「貴方たちなら大丈夫、いつも通りにやれば良いわ。全員で行って、全員で帰ってくる。それだけの話よ」


 4人の訓練生と、1人の引率者。

 それぞれが“過去”に触れ、向き合うための任務が始まろうとしていた――。



 岐阜県・飛騨地方の山中、かつて影野村と呼ばれた地。

 そこは魔徒大戦中に壊滅し、その後封印区域として政府の記録からも消された“特異地帯”。

 その場所――影ノ丘に、5人の影が踏み入っていた。


 「……ここが、影ノ丘……」


 悠真が呟く。


 朽ちた鳥居、枯れた林、廃村の痕跡。そして灰色に染まった空間には、霊子が霧となって漂っていた。


 「GPSも霊子計も狂ってる……完全に“濃霊地帯”ね」


 瀬奈が端末を睨みつける。


 「空気が重い……生きてる感じがしない」


 玲央が言う。


 「でも、何かが……いる」


 直人は巻物を抜いて警戒の姿勢を取る。


 「封印指定区画E-17……討魔省も正式記録を残してない場所よ。何が出てきても驚かないで」


 神崎月夜の警告に、皆が頷いた。


 《千子村正》がわずかに脈動する。

 悠真の手の中で、刀が警告のように震えた。


 やがて、一行は廃村の中心に到達する。

 朽ちた祠。倒壊した建物。そして地面から突き出た封印刻印の欠片。


 「ここ……埋まってるな。霊子の密度が異常だ」


 瀬奈の感知に、玲央が土を掘り返すと、焼け焦げた封印板が現れる。


 「封印陣が……破られてる」


 「外から、誰かの手で」


 月夜が言い終えたそのとき――


 ――ギギィ……


 空間が軋む音。

 土砂に埋もれていた石段が、霊子の風に晒されながら姿を現す。


 悠真の《千子村正》が強く脈動した。


 「……ここに、“何か”がある」


 誰もが無言で、その暗い階段の先を見つめていた。



 石段の先は、地下へと続く封印施設の跡だった。


 壁面に残された討魔省の標章、崩れた研究設備。

 全てが、かつてこの地が“何らかの実験場”であったことを物語っている。


 「瀬奈、霊子索敵。玲央と直人は警戒。悠真は、千子村正の反応に集中して」


 神崎月夜の指示に、全員が即座に動いた。


 広間にたどり着いたとき、中央に残るのは破壊された封印炉と霊子結晶核。


 「記録が……消された?いや、“何か”がここに、強く残ってる」


 月夜の言葉とともに――


 《千子村正》が紅く震えだす。


 そして悠真の手から浮かび上がり、霊子を放出し始める。

 空間が歪み、広間の空気が白く塗り替えられていく――


 


 ◇ ◇ ◇


 


 悠真は、血のような空の下に立っていた。


 足元には血濡れた土。空は重苦しい曇天。

 

 数多の魔徒達が群れをなし襲い掛かる。

 


 そして討魔士たちが倒れ、それが魔徒化し、悲鳴が響き渡る阿鼻叫喚の戦場――過去の影ノ丘だった。


 そして、その中心で剣を振るう精悍な顔の男、日向隆正の姿。


 「退けっ……! 近づくな、それはもう“人”じゃない!」


 隆正は赤黒い霊子を纏った《千子村正》の刃を振り下ろし、理性を失った味方を斬り伏せていく。


 その苦悶の表情。その手の震え。


 「この施設はもうもたん、1番、2番隊。ワシに続け。」


 「敵の増援が来る前に、仲間を回収し撤退する!」


 「よいなっ!」


ーー隊員達「はっ!」


 しかしその中の1人が声を上げる


 「隆正様っ!お二人が見つかりました!」


 「お孫様もご一緒です!」


 ――その奥から、2人の人影が現れた。


 女性は長い黒髪に紅の霊子装衣。

 男性は焦げ茶の髪、双刀使いの蒼の霊子装備。


 悠真は、知らぬはずの彼らの姿を見て、直感した。


 「……父さん、母さん……!」


 

 その手には幼子が抱かれていた。


 しかし――2人の身体に浮かぶ異変。

 黒い斑紋が、首元から胸元へ、そして眼球までを覆っていた。

 明らかに“魔徒化”の兆候。

 それは、今まさに理性が崩れ始めている証拠だった。


 「……隆正様……!」


 女性が、叫ぶ。かすれた声で。


 「早く……私たちを……!」


 「父さん!……今の俺たちは……もう、人じゃない……!もう、自我が、保てないッ……!」


 男性も叫ぶ。叫びながら、刀を自らの首に突き立てようとする。


 「だが、悠真には……未来を……残してやってくれ……ッ!!」


 


 隆正の歯が軋む音が聞こえた。


 「やめろ……やめてくれ……! わしに……ッ、そんなこと言うなぁッ!!」


 彼は震えながら、千子村正を構えた。

 魔徒化し始め、異質な物に変容し始めた2人は、呻きながら隆正に歩み寄る。


 「悠真を……お願い……父さん……!」


 その瞬間――


 「うおおおおおぉぉぉ!」


 隆正の咆哮とともに、刃が振り下ろされた。


 赤黒い閃光が閃く。

 そして、全ては崩れ去るように霧散した――


 隆正は叫び声を上げ続けた、それは悲しい獣の雄叫び。魂の慟哭の様であった。


 次の瞬間、空間は砕け、すべてが消えていく。


 


 ◇ ◇ ◇


 


 「……ッ!」


 現実に戻った悠真は、汗と震えの中で息を吐いた。


 「じいちゃんが……父さんと母さんを……でも、そうするしかなかった」


 その声は、悲しみと理解と覚悟を帯びていた。


 「……ちゃんと会って聞かないと。……父さんと母さんがどんな人だったか…….その遺志を俺は、受け継がないといけないんだっ!」


 千子村正が、彼の言葉に静かに脈動した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ