表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残照の革命  作者: Nuhs
第4章ー覚醒編ー
22/49

暁への抗い


 夜明け前の訓練場。冷気の残る空気の中、日向悠真は静かに刀を構えていた。


 《千子村正》――紅と蒼、二色の霊子が刃に脈打ち、彼の手の内で生き物のように呼吸している。その波動は不気味なほど静かで、だが確かに力強い。


 悠真は、静かに一太刀を振るった。


 「……やっと、少しだけ応えてくれるようになった気がする」


 彼はそう呟いて、剣を見下ろす。昨夜の激戦の余韻はまだ肉体に残っていた。だが、精神は不思議なほど澄み渡っている。


 「――無茶すんなよ」


 声がして振り返ると、玲央が歩み寄ってきた。手にはタオル。


 「最近まで霊子暴走寸前だったんだぞ? よく制御できたな……」


 「俺には二つの…..いや、2人の遺志があったんだ。その内一つは、対話できた….後はもう一つなんだ……」


 悠真は疲れた笑みを浮かべた。玲央はそれを見て、わざと大きな溜息をつく。


 「まったく……全部1人で抱えるんじゃないぞ。俺、直人、瀬奈、皆んないる。」


 「……ありがとな、玲央」


 玲央はしばらく沈黙し、それから軽く肩をすくめた。


 「俺たちは……仲間だ。」



 そしてぽつりと呟く。


 「……《千子村正》、なんか変わったな。」


 悠真は刀を鞘に収め、まっすぐ前を見た。


 「ああ。俺の中で、何かが……変わった」


 


 * * *


 


 禍憑ノ王庭――空虚ノ間。漆黒の椅子に腰かけるのは、かつて討魔省の人間として魔を払っていた存在、しかし今や世界を覆す破壊者、ヴァイド。


 彼の傍らに跪くのは、緋色の衣を纏った女、紫苑。その瞳には冷たい忠誠が宿っている。


 「――骸斬狼は撤退。標的の異能反応に特異な変質が。特に、《千子村正》の波動が以前と異なるわね」


 「いい。それで充分だ」


 ヴァイドの声は感情の起伏を欠いたまま、低く響いた。


 「器は成長している。やがて“革命”の核となるだろう。今はその変化を見守る時だ」


 紫苑の口元がわずかに動いた。


 「あの少年が、零の理想を壊す力になると?」


 「だからこそ、必要なのだ。壊し、創るために。あの少年の存在こそが、“破壊の証明”となる」


 紫苑は一瞬、感情の読めぬまなざしをヴァイドに向けた。そして深く頭を垂れる。


 「……ならば、私はただ従うわ。零の意志のままに」


 それは忠誠であり、あるいは……ねじれた“愛”であった。


 


 * * *


 


 夕刻。討魔高校の訓練待機所の扉が、勢いよく開かれた。


 「悠真、大丈夫!?」


 飛び込んできたのは、任務から戻ったばかりの神崎月夜だった。制服には砂埃と霊子の痕が残り、その顔には疲労と焦燥が色濃く浮かんでいる。


 訓練終わり、長椅子に腰掛けていた悠真は、驚いたように目を見開いた。


 「月夜さん……? もう帰ってきたんですか?」


 「急いで戻ってきたのよ。だって、悠真くんが霊子暴走しかけたって聞いて……それに、紫苑のことも……」


 息を荒げながら、月夜は隣に腰を下ろす。

 そして端末を取り出し、悠真の前に画面を突き出した。


 そこには、自動転送された討魔省の内部連絡が表示されていた。


 『討魔高校教官・紫苑、裏切りの疑いにより討魔省から除籍。現在、逃走中』


 その一文を見て、悠真は俯いた。


 「俺が……もっと早く言えばよかったんです。初めて会ったときから、どこか違和感がありました。けど……それでも信じたくなくて」


 月夜は目を伏せ、かすれた声で問う。


 「……どういうことか、教えてもらえる?」


 悠真は少し間を置いてから、これまでの出来事――紫苑の言動の変化、骸斬狼との戦い、そして彼女が指揮していたという確信に至った経緯を、言葉を選びながら丁寧に話していく。


 話を聞き終えた月夜の指先が震えていた。

 手から滑り落ちそうになった端末を、悠真が慌てて拾う。


 「月夜さん……?」


 「……紫苑……あいつ、ほんとに裏切ったっていうの……?」


 震える声の中に、怒りと悲しみが入り混じる。


 「……いいわ。次に会ったらぶん殴ってでも連れ戻す。……絶対に、あのままにはさせない」


 その目に宿ったのは、消えない情と、裏切られた者だけが抱く複雑な決意だった。


 紫苑は月夜にとって、死線を共にした仲間であり、討魔高校の同期として支え合ってきた大切な存在だった。その絆が断たれるという現実は、容易に受け入れられるものではない。


 「任務の帰り道、連絡がつかなくて……嫌な予感はあった。でも、まさか――」


 月夜の声は震え、その言葉は途切れた。


 悠真はしばし黙ったのち、俯きながら静かに言った。


 「……昨日までいたはずの、大切な人が急にいなくなる気持ち。俺も……少しだけ、分かります」


 彼の胸に浮かぶのは、今も行方知れずの祖父――日向隆正の姿。


 「それでも俺は、信じてます。じいちゃんはどこかで生きていて、また会えるって。だから……紫苑教官にも、何か理由があるんだと思いたい。そうじゃなきゃ……悲しすぎるから」


 その言葉に、月夜は肩から少しだけ力を抜いた。


 「……ほんと、成長したのね。悠真くん」


 声はまだ少し震えていたが、その表情には微かな微笑みが浮かんでいた。


 涙までは流れなかった。けれど、深く息を吐いた彼女は、やがて静かに立ち上がる。


 傷つきながらも、立ち止まらない。

 それが、神崎月夜という存在の強さだった。


 


 * * *


 


 地下深く、隔絶された監獄。空気は重く、闇のような静寂が支配する空間。

 その中心に、日向隆正が拘束されていた。


 白髪は乱れ、皮膚には黒い痣のような魔徒因子が浮かび上がっている。

 彼の瞳は虚空を見つめ、もはや正気の光を宿していなかった。


 「……生きていることが、不思議なくらいだ」


 ヴァイドが静かに入室し、隆正の前に立つ。

 かつて尊敬し、畏れたその男の現在を、淡々と見下ろした。


 「だが貴方は、“終わり”の象徴として価値がある。あの少年に、貴方の崩壊を見せることで、“偽りの希望”を断ち切る」


 隆正は反応しない。だが、わずかに震える指先が、かろうじて彼の抵抗を示していた。


 「もうすぐだ、日向悠真は過去へ辿り着く。自らが何者かを、知ることになる」


 そう告げて、ヴァイドは扉の外へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ