変革の灯火
悠真が握り締める《千子村正》は、紅と蒼の霊子を秘めてかすかに脈打ち、その刀身が幽かな光を帯びている。
「おいおい…さっきまでビビってたガキが…なんだその色合い?」
隻眼の男が歪んだ笑みを浮かべ、指先で宙をなぞるように霊子をねだる。
だが、その声が耳に届くより速く——悠真の姿は跡形もなく消え去った。
──赤紫の残光が一閃し、鋭い斬撃が背後を襲う。
敵の背中が鋭く裂け、黒い血飛沫が夜空に弧を描いた。
「やるな…ガキ」
黒き刀身・骨喰藤四郎が唸りを上げ、第二の一撃を繰り出すが、悠真の中へ坂本龍馬の剣技が流れ込む。
「《弍ノ型―浮木》」
刹那、彼は刀を撫でるように受け止め、自らの体勢をくるりと回転させながら斬撃を跳ね返した。
黒い斬撃が自らに舞い戻る。男はガキリッと歯を鳴らし、刀を払って相殺。
──ドガンッ
一瞬の衝撃と共に、瞳が二色に揺らめく。左目が蒼、右目が紅に染まった。
「《不屈》は俺に立ち上がる勇気をくれた。《変革》は俺に可能性をくれた。そして今、俺自身が灯火になる道を選ぶ。」
歪むほどに混ざり合う紅と蒼――赤紫の光が悠真を包み込む。
「…迷わねぇ!」
敵が構え直すより前に、悠真は声を張り上げた。
「…おいおい、全然別もんじゃねぇかよ…!イイぜ、ちょっとだけ味見だァ♪」
その瞬間、男の身体から黒い霊子が破裂音を鳴らし噴き出す。骨喰藤四郎の刃が赤黒く脈動し始めた。
「《一ノ型・骨呑穿牙》……喰らえっ──!」
だが、その刹那。空間に歪みが走る。
「骸斬狼、《帰還》よ」
紫苑の声が遠く、しかし確かに届き、場の秩序が一変した。
男の斬撃が空中で止まり、黒い霊子は光に飲み込まれる。
「は? 今が一番熱いところだったんだぜ? つまんねぇな…」
骸斬狼は舌打ち混じりに笑い、名残惜しげに悠真を見た。
「ま、今日はこのへんで勘弁してやる。俺の名は”凶兆ノ座”骸斬狼だ、覚えとけよ。次に会うときは…遠慮なく潰すからな、日向悠真♪」
言い残し、裂け目に身を沈めると、闇に呑まれながら去っていった。
辺りに静寂が戻り、霊子の暴走も次第に収束する。
悠真は大きく肩で呼吸を繰り返し、刃を鞘に納めると、ほっと息をついた。
「なんとか…耐えたか」
「悠真!」
玲央が血をにじませつつ駆け寄り、彼の腕をそっと支える。
「アイツ、『凶兆の座』だって。じいちゃんと戦ったのは『空虚の座』…まだあんな連中がいるのか」
悠真は暗がりに消えた裂け目を見据え、小さく頷いた。
「俺たち…まだまだだな」
玲央は言葉を紡がず、ただ真剣な眼差しで応えた。




