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残照の革命  作者: Nuhs
第4章ー覚醒編ー
20/49

紅い誇りと蒼の決意


 討魔高校地下・昇級試験待機エリア。


 金属の床に靴音が響く。


 その場には、十数名の訓練生が静かに立っていた。


 皆、三級から二級へ昇級するための試験に臨む者たち。


 その中には、日向悠真、高峰直人、音無瀬奈、黒木玲央の姿もある。


 


 「いよいよか……」


 玲央が拳を握りしめる。


 「気を抜くなよ。上がれば、それだけ目も厳しくなる」


 直人の言葉に、瀬奈も頷いた。


 「昇級すれば……より“前線”に近づく。魔徒との本当の戦いはそこからよ」


 悠真は黙って前を見据える。


 その視線の先に――禍憑ノ王庭の姿を重ねていた。


 


 (紫苑、ヴァイド、そして……まだ見えない“敵”の本体……)


 悠真の目に、迷いはなかった。


 


 ――そして、試験が始まる。


 



 昇級試験の形式は、実戦形式による模擬戦。


 ペア形式で与えられる特殊任務をこなすことで、その能力と対応力を審査される。


 


 悠真と組んだのは玲央。


 一方、直人と瀬奈は同じくペアとなっていた。


 


 「制限区域・第二市街区画にて模擬的霊子災害を想定したミッション遂行。目標は“制御不能な霊子源”の鎮静および周辺住民の避難誘導」


 通信により任務内容が告げられ、各ペアはそれぞれのルートへと展開する。


 


 「行くぞ、玲央」


 「了解だ、悠真。”あれ”の制御はどうなった?」


 玲央が鋭く言う。


 


 「……まだ。でも、あと少しなんだ――」


 悠真の声が少しだけ揺れる。


 それを察した玲央は、一歩前に出て言う。


 


 「抑えられなくなったら、止めてやる。それが俺の役目だ」


 


 悠真は、小さく笑った。


 「頼むよ、相棒」



 現場に到着した悠真と玲央の前に現れたのは、試験用に設けられた模擬魔徒(人型)――


 ……のはずだった。


 


 だが、現場の空気は、異常だった。


 「……この霊子密度、演習用じゃない」


 


 玲央が険しい顔になる。


 悠真の視界に、一瞬、紫苑の仮面が浮かんだ気がした。


 


 (これは、誰かが……仕掛けてきてる!)


 


 霊子が暴走し、フィールド全体が赤黒く染まる。


 その刹那、空間が歪曲し、”裂け目”が現れる。


 「ここで、あってっかぁ?」


 裂け目の中から異質な声が聞こえる。


 水面の様にグニャりと裂け目から姿を現したのは、上裸に黒い着流し、長髪を後ろで一紡ぎにした、隻眼の偉丈夫だった。


 「ビンゴー♪、流石、俺様!」



 しかしその体表は明らかに人間のそれとは違い、異質な色味を帯び、腰には鞘のみがぶらりと垂れ下がっている。


 ケラケラと嗤いながら悠真を指差す。


 「お前みてぇにヒョロっちいガキが、今世の千子村正の使用者だと?まじウケるぜ♪」


 「前に会った奴は、もちっとマシだったんだがなー」


 悠真は全身の毛穴からブワッと汗が吹き出すのを感じる


 (…..コイツ、今まであったどの敵よりも危険だ!)


 男が片腕を前に突き出し虚空に何かを握る素振りを見せる。


 「…….来いよ、《骨喰藤四郎(ほねばみ•とうしろう)》!」


次の瞬間、黒い霊子が渦を巻いて手に纏わりつく。さながら小さな竜巻の様な、それは徐々にその姿を現す。


 

 黒よりも黒い漆黒の様な刀身、柄は付いておらず、妖しい輝きを放つ。



 「コイツは、ちょっと痛てーぜ?」


 男は刀を無造作に振り下ろすと、そこから黒い半月状の斬撃が飛翔する。


 「っ、悠真っ!」


 咄嗟に悠真の前に飛び出し、重装甲とシールドを同時に発動する玲央。


 だが、その斬撃は、軌道こそ少しズレたが。

 そこに障害物など何も存在しなかったかの様にシールドと装甲を容易く破壊した。


ーーーパリンッ


 「ぐはっ…….!」


 玲央の肩口から血が舞う。


 「玲央っ!」


 「あらら、まぁまぁ硬ぇなテメェ。なら、おかわりだ。それ♪」

 

 


 「くそっ、また来るのか……!」


 玲央が叫ぶが、もう止められなかった。悠真が玲央を庇い後方へ吹き飛ぶ。


 (ダメだ!このままじゃ、2人ともやられる….ならっ…….やるしかないのか……”アレ”を…….)

 

 悠真の足元にメラメラと赤き術式陣が広がる。

 轟、と地鳴りのような音と共に、六文銭の紋章が浮かび上がり――

 噴き上がる炎のような赤い霊子が、悠真の背を包み込むーー


 「いいぜイイぜ、コレだよこれ!早く来いよ!来いって♪」

 興奮し男の口元が歪む。


  徐々に悠真の体が、熱を帯び始める


 「…..うっ….!…..また無理…..なのか……..!?…くっ!」


 悠真の中で、《不屈》が暴走を始める。


 紅蓮の霊子が噴き上がり、彼の全身を覆う。


 余りにも大きな霊子の奔流に悠真の意識は、次第に飲み込まれていく。



 《千子村正・顕現》


 


 燃え盛る赤黒い刀身。血のような紅が迸り、剣の精霊の如き気配が顕現する。


 


 「悠真っ!! やめろ!!」


 


 玲央の叫びも届かない。


 


 その刹那――


 悠真の意識は、暗い深淵に呑まれていった。


⸻——-


 

 気づけば、悠真の足元には、波打つ水面が広がっていた。


 蒼く、どこまでも深く、底が見えない。


 


 ――風が吹く。潮の匂い。


 (……海? これは……どこだ?)


 


 視界が開けたその先に見えたのは、一艘の小舟。


 そして、その上に――男の影。


 


 白い着流しに蒼の羽織。片手には刀、もう一方には古びた銃。


 風を纏うように現れた男が、朗らかに、されど真っ直ぐに笑う。


 


 「やっと会えたのう。おまんが……今の“わし”の器っちゅうわけじゃ!」


 


 「……誰、なんだ……あんたは」


 


 「わしの名か? 坂本じゃ──坂本龍馬。

 けんど、名なんぞどうでもええ。今は、“志”の話をしようや」


 


 そう語る声は優しさを帯びつつ、胸を叩くような重みがある。


 


 「おまんの中には、二つの炎があるがじゃ。一つは“折れぬ刃”……烈火の如き真田幸村の“誇り”。

 もう一つは──“世界そのものを変える意志”。それが、わしの“変革”よ」


 


 龍馬は目を細めながら続ける。


 


 「ええか、日向悠真。

 この世は、もともと理不尽なもんじゃ。力がある奴が笑い、力のねぇ者が踏みにじられる。

 けんどのう、それを黙って見ちょってええがか?」


 


 「おまんが、ほんまに守りたいモンがあるなら――

 世界ごとぶっ壊してでも、手ぇ伸ばさにゃならん時が来るき!」


 「それが、今じゃき?」

 


 悠真の視界が歪む。赤と青の霊子が激しく交錯する。


 


 「俺は、変えたい……この世界を……!」


 


 その叫びに、龍馬はまっすぐ頷く。


 


 「よう言うた! そりゃあ“革命”の種じゃ!

 炎に呑まれちまう前に、おまんが“灯火”になっちゃれ!」


 


 霊子が爆ぜるように弾け、悠真の中で確かな“意思”が燃え上がる。


 


 「覚えちょけよ。

 “変革”は始まりじゃ、“革命”はその果て。

 自分の道を信じて、一歩でも、前へ踏み出せ――そしたら世界は、必ず動くがぜよ!」


 


 その声が遠ざかると同時に、心象世界がゆっくりと収束していった――




 紅い霊子が、静かに収束していく。


 「悠真っ!」



 男は残念そうに首を振る。

 「やれやれ、ここまでやって無理なら。殺したって良い?いいかな?イイよなぁ♪?」



 悠真は玲央を片手で制止すると、静かにうなずいた。



 その瞳は……迷いが晴れていた。


 


 「……ああ、大丈夫だ。見えたんだ。俺が、どう生きるべきか」


 


 そう言って、悠真は瞳を閉じる。


 


 その霊子は、かつての《不屈》とは違う。


 蒼と紅の霊子が、渦を巻くように共鳴し――新たな“光”を生み出していた。


 


 悠真が、微かに目を見開く。


 


 「こいっ!《千子村正(せんじ•むらまさ)》……」


 その手には冷たい波の様な蒼の刃紋と、揺らめく烈火の如き紅い刀身が眩い赤紫色の光を放っていた。


 



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