決意と共に
討魔高校 第三会議室
重苦しい沈黙が、会議室を満たしていた。
月詠奏司と堂島剛志は目の前に並ぶ数名の教官たちと資料端末を前にしながら、静かに告げた。
「――教官・紫苑の失踪は確定だ。部屋には私物の一切が残っておらず、ログデータも部分的に改竄されていた」
教官の一人が、信じられないという表情を浮かべる。
「彼女が裏切るなんて……信じられません。あの紫苑が、まさか……」
「“あの紫苑”だったからこそ、だ」
堂島は静かに言い切る。
「……我々は、討魔高校の内側に“王庭”の目があったことを、ようやく認める時だ」
重く降りるその一言。
教官たちは顔を見合わせながら、それぞれの端末に表示された新たな指示を確認する。
「それから――先日の事件を踏まえ、氷室真琴に加え、氷室蓮も“観察対象”に指定された」
会議室にどよめきが走る。
「彼も……?」
「それについては私から……」
月詠はモニターに氷室蓮と妹の真琴のバイタルデータを表示させ語り出した。
「このデータから2人の魔徒因子は同種のもの、つまり何らかの魔徒因子を同じ人物から与えられ…….いや…..コレは”植え付けられた”と言った方が正しいでしょう。……それにより半魔徒化現象が起きていると考えられます――」
月詠奏司は視線を落としながら更に言う。
「紫苑が使用していた端末データの復旧中ですが、現在判明中の記録は、日向悠真のサンプルデータを外部に流出させていた痕跡がみられます。」
堂島はその報告を目蓋を閉じたまま腕組みの姿勢で聞いている。
「以上の事から推察される事象は3点、氷室兄妹は何者かに”魔徒因子”を植え付けられた。伊庭紫苑が”王庭”側のスパイである。彼らは日向悠真をなんらかの思惑で狙っている。……….以上です」
老齢の教官が呟く。
「日向悠真か…..我々が思っているよりも厄介な存在になるやもしれんな。」
その後、今後の対策について協議が行われていたが、堂島はその目蓋を開く事なくただ静かに、何かを考えていた。
ーーーーーー
その頃
ー討魔高校・中庭 掲示板前ーー
学生たちのざわめきがあふれていた。序列戦――三級訓練生による公式ランキングバトルの内容集計が終わり、順位が公開されたのだ。
「うわ、マジか……日向悠真、編入組のくせに上位10位入りだってよ……」
「いや、俺はあの収監施設での任務の噂聞いたぜ……あいつ、マジで化け物だって」
――【現在上位訓練生一覧】(抜粋)
1位:神楽坂 彩音
2位:日向 悠真
3位:藤堂 颯人
4位:黒木 玲央
6位:音無 瀬奈
8位:高峯 直人
「俺、玲央に負けたんか……」
直人が肩を落とすと、玲央が淡々と答えた。
「もっと基礎訓練を積んだ方がいいな、直人。」
「フィジカルでゴリ押しとか、ゴリラかよ!」
「誰がゴリラだ!」
悠真はそんな二人のやりとりを聞きながら、掲示板を見上げる。
(……これで、昇級試験を受けられる)
心の中には、喜びと、それ以上に燃える決意があった。
ーーーーー
《禍憑ノ王庭・隠れ里》
月光が静かに照らす、薄闇の庭園。その中心に立つ女――紫苑。
仮面は外され、そこにはかつての教官としての面影が残る柔らかな微笑が浮かんでいた。
「……零。あなたに会えてから、私の時間は止まったままなの」
紫苑の視線の先には、一人の男の姿――ヴァイド。
かつて、影山零と呼ばれたその男は、何も言わず空を見上げていた。
「あなたが王庭に落ちた日、私は決めたの。どんな世界であろうと、あなたと同じ場所で生きると」
「紫苑……」
ヴァイドが、彼女を見つめる。その目に感情はほとんど浮かばない。だが、微かに、過去の面影を宿していた。
「俺に忠誠など誓うな。ここは弱肉強食の地獄だ。失敗をすれば、次はお前が喰われるぞ」
「ふふ……たとえそうでも、零がいるなら、それでいい」
紫苑の声は穏やかで、どこか狂気じみた愛に満ちていた。
「そろそろ行こう、センセイとの………..面会の時間だ。」
そう言うと、ヴァイドは背を向けて歩き出す。
紫苑もその背を追うように、静かに歩き出した。
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その夜ー
討魔高校・医療区画 観察室
薄暗い室内。霊子フィールドに包まれたガラス越しに、眠る少女の姿があった。
氷室真琴。
そのそばに、氷室蓮は立っていた。その背後には堂島剛志が腕組みし、仁王立ちしている。
「……ごめんな、真琴」
言葉は届かない。それでも、蓮は目を伏せて拳を握る。
「守ってやれなくて…….。かえって俺と同じ危険な存在にしてしまって……..けど、もう誰も……仲間達を、今度は皆んなを守る為に戦うと誓うよ。」
その隣で、堂島が静かに呟く。
「貴様の異能……以前とは比べ物にならない程、急激に霊子量が増している。“半魔徒”になる寸前、それを使いこなす事ができれば、また彼らの隣に立つ事も可能かもしれんな。」
「だか、その為には貴様は他の10倍、百倍…..いや千倍努力せねばならん!」
「望め!強くなりたいと!さすれば俺がくれてやる!その力と方法を!その為に血反吐を吐く覚悟があるか!!!」
決意を込めた眼差しで自分の掌を見つめる蓮。
「はい!よろしくお願いします!」
蓮の言葉に、堂島は小さく頷いた。
(見てるか、紫苑……貴様の思い通りにはさせんぞ!)
堂島の瞳に、何か強い決意が宿った。
そしてその決意の先に、また新たな“革命”の火種が芽吹こうとしていた。




