深淵の序列
———-訓練生アリーナ
悠真の初勝利から二日後。
序列戦の熱は、訓練生たちの間で加速度的に高まっていた。
「次の試合、また日向じゃん! 二連勝中だぞ?」
「まぐれじゃないってことか……。けど、次の相手、確か――」
「うん。氷室蓮。あれは手ごわいぞ……」
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その頃、対戦表を確認していた悠真の元に、直人がやってくる。
「次の相手、氷室か。あいつ、序列じゃ今んとこ一桁。完全に上位だぞ」
「……知ってる。氷の異能使い。強力な冷気で範囲ごと凍らせるタイプだ」
玲央が隣でぼそりと呟いた。
「動きを封じられたら、近接の悠真には分が悪いかもな」
「でも、逆に言えば接近できれば勝機はあるってことだ」
悠真の声は静かだが、確かな自信が滲んでいた。
“序列”は、彼にとってただの数字ではない。
――己の力を測る、試金石でもあった。
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その夜、異界――禍憑ノ王庭・黒の間。
「氷室蓮が、日向悠真と次に当たるらしいな」
「仕込みは済んでいる。例の“痣”が、奴の中で静かに疼いている」
「哀れな男だ。家族を守るために、“自らの中の人間性”を差し出した」
「いいえ、彼は選んだのよ。“生きる”ことを。背負う者のために」
闇の幹部たちは、黒衣の中で静かに笑った。
「紫苑も、そろそろ動き始めるわね……王庭は、“中から崩す”」
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翌日、試合開始直前――第二訓練場。
氷室蓮と悠真が向かい合う。
「……俺は、お前を潰さなきゃいけないんだ。……….理由は聞くな。聞かないでくれ」
氷室の目には、かすかな“迷い”と“苦しみ”があった。
だがその奥には――黒く澱んだ霊子の“揺らぎ”が宿っていた。
(この気配……これは、あの時の半魔徒と同じ――)
悠真の背筋を冷たい感覚が撫でる。
「開始!」
号令と同時に、空間が凍てついた。
「《氷葬領域》!!」
地面を這うように冷気が這い、観客席にまで凍結の圧が届く。
悠真は《不屈》を高め、正面から突き進む。
氷室が放った氷槍を回避し、間合いを詰める。
しかし氷室は冷気の煙で姿を隠す。
「…気配を…..感じろ。」
その瞬間悠真の四方から氷の刃が閃く。
「….ここっ!」
体を捻りながら後方に高く跳躍すると、悠真は空中で赤い霊子を展開、踏み台の様に空を駆ける。
(――届く)
拳が氷室の胴に叩き込まれる――
「うぐっ…!」
「終われない、俺が…やらないと…..!」
凍てついた地面を更に氷結させる様に霊子を集めていく。
———-バキッバキッバキン
その冷気は氷室自身をも蝕むほどに高まっていく。
「くっ…….、まずい。」
赤い霊子を身の回りに展開する悠真だが、次第に冷気におされていく。
だがその瞬間、氷室の霊子が黒く変色し“黒い霧”に染まりかけた。
「う……あああああああああっっっ!!」
顔と腕に、黒くひび割れたような痣が浮かび上がる。
霊子の暴走、それも“外部由来の干渉”を思わせる異常な波動。
「霊子異常! 戦闘中止、緊急封鎖!!」
上級教官達がただちに結界術を発動し、氷室を押さえつける。
意識が遠のく中、氷室は小さく口を開いた。
「……すまない……日向……」
「……!?」
「俺……妹が……病……治療……。……与え……..“痣”を……」
「氷室……!」
「…..ほん….と…..うに……..ごめん……」
その言葉を最後に、氷室は完全に気を失った。
* * *
訓練後、控室に戻った悠真は呟いた。
「……ゆるせない……」
瀬奈が言う。
「妹さんがね…….特別な病らしいの。それで……利用されたのね」
玲央も腕を組みながら重く言った。
「卑怯で狡猾な手口」
悠真は静かに拳を握りしめた。
(なら俺は、……誰よりも強く――)
(“救い”を偽らせない。あいつらに、絶望を利用させない)
悠真の眼差しは、戦場よりも深い“人の闇”を見据えていた。




