胎動する意思
薄闇の中、無数の赤い術式灯が灯された巨大な空間。
その中央に、禍々しく染まった“玉座”が鎮座していた。
その周囲、影のように佇む数人の存在。
「――失敗ではない。『目的』は果たされたのだからな」
黒衣を纏った仮面の男が、玉座の前で膝をつく。その背後にゆらめくのは黒い霊子、先日、討魔高校の訓練生たちと相対したあの存在だ
その両脇には数人が、挟み込む様に列をなし直立している。
「討魔省の反応速度も予想通りです。だが、“あの少年”は想定より早く覚醒を果たしている模様」
玉座の主は応じず、ただ眼を細めた。
「……お披露目には少々早い。だが、あれは“血”だ。日向隆正の……いずれ“革命”へ至る存在。いずれ我らが歩んだ『断罪の道』へと辿り着くやもしれぬ」
その言葉に、小さく笑う気配があった。
「それはまだ先の話。だが、いずれあの力が“我らの側”に立つ日が来るなら……愉快なことだわ」
そう言って立ち上がったのは、漆黒の戦装束に身を包んだ女性。
白銀の髪に、紅の痣が肩口から見える。
「……“紫苑”、貴様……」
別の幹部が警戒心をあらわにするが、紫苑は微笑んだまま歩を進めた。
「忠誠心はあるわよ。今はね。……でも、彼の“力”が芽吹いた時、その選択肢がどうなるかは……誰にも分からないわ」
「楽しみね…..この先が…..」
――ここは、禍憑ノ王庭。
世界の裏側で蠢く、変革と破滅を司る存在たちの名だ。
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一方、討魔高校・訓練生待機区画。
報告書の提出を終え、部屋へ戻った悠真たちは、束の間の休息に体を預けていた。
「……なぁ、さっきのあれ……やっぱ、魔徒じゃなかったよな?」
直人がポツリと呟いた。
「しかも人間としての知性を持ってた……」
瀬奈が頷く。彼女の感知能力《千鳥の瞳》は確かに“霊子の揺らぎ”を捉えていたが、あれは通常の魔徒とは違っていた。
「……あれは、半分“人間”の波長だった」
「でも、それって……半分は魔徒ってことか?」
玲央の言葉に、瀬奈は答えず、ただ小さく唇を噛んだ。
そして、悠真は思い出す。あの仮面の男が最後に言い残した一言。
――“我らの変革を、止められると思うなよ”
(……変革)
その言葉が、心の奥でくすぶり続けている。
直人は訝しげな顔をしながら。
「なぁ、瀬奈。あの場所、何かさぁ説明難しいんだけど…….妙な感じしなかった?」
「あったわ。空間自体が“裂け目”のように……あれ、きっとただの偶発的な異常じゃない。“何か”が、あそこで開きかけてた。」
全員が沈黙する中、悠真だけがその言葉に既視感を覚え呟く。
「……開く…..か…….」
今、自分たちは何か大きな流れの中に巻き込まれつつある――その予感が、拭えなかった。
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討魔高校・作戦司令室
「……半魔徒、そして“変革”というワードか」
月詠奏司が報告書を睨みながら、つぶやく。
堂島剛志が腕を組みながら隣に立つ。
「やはり、奴ら“禍憑ノ王庭”の動きか。だとすれば、近いうちに――」
「はい。いずれ確実に“正面衝突”が起きます。……その時までに、できるだけの戦力を蓄えないと。」
その言葉に、堂島が唸るように答えた。
「だが、紫苑のやつも何を考えてやがる……悠真達に実戦経験を積ませろだなんて……。奴の目、何かを隠している……」
月詠は黙ったまま、ただ静かに画面を見つめていた。
そこに映るのは、揺らめく霊子波形のログと、一つの名――
《日向 悠真/監視等級1》




