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第98撃:決別の刻、戦禍を告げる報せ

拙作をお読みくださり、誠にありがとうございます!

リアクションも嬉しいです!

アリステリアは静かに瞳を閉じ、胸の奥に沈む迷いをすべて吐き出すように息をついた。

そしてゆっくりと目を開くと、その瞳にはもはや揺らぎのない覚悟と、最後の願いが宿っていた。


「伯父上……」

その声は澄んでいた。悲しみを抱きながらも、確かな決意の響きを持っていた。


「私は、魔王の座にも、魔王の力にも執着はありません。

 伯父上が愚かな考えを捨て、力と地位を“調和”のためにお使いくださるというのなら、

 私は喜んで、そのすべてをお譲りするつもりでした。


 ですが……やはり叔父上は、考えを変えてはくださらないのですね。


 ならば——私は、伯父上の言葉に首を縦には振れません。

 魔王の力も、地位も……グラウザーン殿下、あなたには渡せません」


その言葉は美しくも、確かな拒絶の刃だった。

広間の空気が、一瞬で凍りつく。


グラウザーンの表情が、忌々しげに歪む。


「……アリス。いや、アリステリアよ。

 やはり貴様も、これまでの魔王どもと同じ“凡夫”だったか。


 貴様が魔王を継いで一年。

 俺は根気強く待ち、何度も説得してきた。

 すべては、貴様が“可愛い姪”であるがゆえにな。


 ……無駄だった。この一年はな」


重苦しい沈黙の中、アリステリアは小さく目を伏せた。

彼女の心には、まだほんの僅かに“希望”が残っていた。

その一縷の光に縋るように、彼女は最後の言葉を放つ。


「伯父上……。邪神ゼルグノスは、誰であろうと制御できません。

 たとえ伯父上であっても。


 あれは、滅びそのもの。

 この世界に蘇れば、全てを喰らい尽くすでしょう。

 ……お願いです。どうか、その道をお捨てください」


しかしその必死の願いは、あまりにも虚しく。


「ハッハッハッハッ……またその話か!」


グラウザーンは高らかに笑い、玉座にもたれかかった。


「そんなものは、親父の代から聞き飽きておるわ!

 俺を千年前の古き魔王どもと同じと思うな。

 邪神ごとき——俺が“使いこなしてみせる”」


その言葉に、アリステリアの瞳が静かに曇る。


(……やはり、分かってはもらえないのですね)


彼女の心に過るのは、千年前の魔王ダンダリオンが遺した“記憶”の重み。

それは恐怖であり、絶望そのものだった。

以降の魔王たちはその記憶を魂に刻み、共存を選んできた。


だが——グラウザーンは違う。

彼が知るのは、ただの“知識”に過ぎない。

痛みも恐怖も、血の重みも知らない。


知識で語る者と、記憶として体験した者。

その隔たりは、あまりにも深く、冷たかった。


(……魔王の力を譲渡して、あの記憶を見せてやれば……)

そんな考えが、一瞬よぎる。


だが、すぐにかき消す。

もしそれでも彼が変わらなければ、その瞬間、世界は終わる。

一か八かに賭けるには——あまりに危険すぎた。


アリステリアは小さくため息をつき、踵を返す。

冷たい床を踏みしめながら、背を向ける。


「……残念です、グラウザーン殿下」


その言葉を残し、彼女は謁見の間の扉へと歩み出す。


グラウザーンの声が、背後から追いかけてきた。


「忘れるなよ、アリステリア。

 魔王の力は必ず俺が手に入れる。

 女神の魂も、必ず見つけ出す。


 この世界を統べるのは——このグラウザーンだ!」


アリステリアは振り返らなかった。

ただ、静かに歩を進める。


扉に手をかけたその瞬間、

再びグラウザーンの声が響いた。


「……ああ、そうそう。帰るなら急いだほうが良さそうだぞ、アリスよ」


その声音には、冷たく歪んだ愉悦が滲んでいた。


「何やら……“新たに召喚された勇者たち”が、

 貴様らの根城に攻め込んだという情報が入ってきてな。

 ——たった今、だ」


アリステリアは息を呑み、勢いよく振り返る。

玉座に座るグラウザーンの顔は、楽しげに歪みきっていた。


「伯父上……っ!!」


歯噛みし、彼女は扉を乱暴に押し開けた。

そのまま城を駆け抜け、美しく長い赤髪を風になびかせながら飛び立つ。


(くっ……! 伯父上……伯父上!!…このタイミングでそこまで……!)


胸の中に、焦燥と恐怖が渦巻く。

父や、自分と志を共にしてくれた穏健派の仲間たち。

彼らの顔が次々に脳裏を過ぎる。


「みんな……無事でいてっ!」


その叫びは、空へと溶けていった。

だが——その祈りが届くことはなかった。


儚く、あまりにも無力に。

アリステリアの願いは、冷たい風にかき消されていった。


——そして、悲劇の幕が、静かに上がる。


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