第95撃:饗宴と蠢く影
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一真は晶からマジックバッグを受け取ると、採取した魔石や甲殻、爪や牙を収め、再び晶へと返した。
「よし、飯にしよう。それが終わったら、エルサリオンへ向かう。皆で手早く準備してしまおう」
一真の言葉を合図に、四人は食事の支度に取りかかった。
メインはブレードブルのステーキにキャロットグラッセを添えたもの。さらに、ルナリーフという夜だけ淡い光を放つ花を咲かせる葉野菜と、酸味のあるスパークベリーを合わせた爽やかなサラダ。
深い森にしか生えない大ぶりのフェングラード茸を煮込んだ、濃厚で旨味の強いポタージュスープ。
そして締めのデザートは、透き通った果肉とシャリッとした食感を持つクリスタルフルーツに、ミントに似た爽やかなハーブを加えて甘いシロップで煮込んだコンポート――。
どれも晶と一真が味見をして、美味いと判断して奮発して買い揃えた、この世界ならではの素材を使った贅沢な料理だった。
湖畔では、ルナリスが浄化した水を飲んでいた。彼にも食べさせようとしたが、ルナリスは首を横に振る。どうやら水だけで十分らしい。
やがて料理が並び、四人は一斉に手を伸ばす。
「ん~~っ! やっぱりこの肉うめぇ! 日本で食べたらいくらするんだろうな?」
紫音が豪快にステーキを頬張る。
「このサラダ……とっても美味しいです。青臭さが全然なくて、スパークベリーの酸味がちょうどいいアクセントになってます」
柚葉は爽やかなサラダを感心したように口に運ぶ。
「このポタージュもすごい……。濃厚なのに全然重くなくて、後を引く美味しさです」
晶は夢中でスープを啜りながら呟いた。
三人がそれぞれ料理を楽しむ一方で、一真の食べっぷりは圧巻だった。
分厚い肉を噛み締め、スープを流し込み、サラダで口をさっぱりさせ、パンを齧る。そしてまた肉――。その繰り返しを淀みなく続け、次々と平らげていく。
「これは美味いな! 高かっただけある。この世界の食材で上手く作れるか不安だったが……心配することはなかったな」
そう言って再び肉へとナイフを入れる一真。その姿はもはや“食べる戦闘”だった。
やがて、デザートのコンポートに辿り着く。
クリスタルフルーツの甘酸っぱさに、爽やかなハーブの清涼感。程よい甘さのシロップが全体をまとめ、食後にぴったりの一皿だった。
食事を終えると、四人は紅茶で一息ついた。
「ふぅ……腹一杯になったな」
一真が腹をさすりながら満足そうに言う。
「……一真さん、食ったな。肉だけでも十人前はあったんじゃ……」
紫音が呆れたように呟く。
「ううん……十五人前はあったと思う……」
柚葉が静かに指摘する。
晶だけは、以前にも一真の大食いを見ていたので、驚きは薄かった。
後片付けを終えると、四人は出立の準備を整えた。
「よし。じゃあエルサリオンへ行くか。今からなら日暮れ頃に着くだろう」
一真が言うと、柚葉が頷き、補足する。
「そうですね。道はもう分かってますから、徒歩でも問題ありません」
「一真さんに天駆空歩で連れて行ってもらうわけにもいかないしな。目立ちすぎる」
紫音も同意した。
晶はルナリスを湖へと連れて行く。
「ルナリス、湖で待っててね。ちゃんと帰ってくるから」
ルナリスは寂しげに小さく鳴いたが、一つ頷くと静かに湖へと潜っていった。
その背を見送り、一真は仲間たちへ振り返る。
「じゃあ出発しよう。……上手く“オラクル”と出会えることを願ってな」
三人は頷き、一行は森を後にした。
――時は少し遡り、場所はエルサリオン王城、王女の私室。
一真と晶が、紫音と柚葉に合流する前。
そこには王女ファレナ・エルサリオンに化けたセレフィーネの姿があった。
「ガズラからの連絡が無い……。それだけじゃない、偵察使い魔の反応すら消えた……」
苛立ちを隠さず、セレフィーネは声を荒げる。
「くそっ……! ガズラめ、ここまで使えぬとは! 貴重な偵察使い魔まで失うなど……!」
胸の奥に渦巻く違和感。
(……今回の勇者召喚、どこかがおかしい。今までは順調だったのに……)
バルト国王が二人の勇者を逃がしたあの日から、全てが狂い始めた気がする。
「……こうなるなら、あんな不穏分子など、その場で私が片をつけておけばよかった。立ち会わなかったのは失敗だった……。……グラウザーン様……」
セレフィーネの胸を掴む不安は、晴れることなく深く根を下ろしていった。
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