第92撃:不死の猟犬
今回は少々短めになります。
ダスクハウンドは、一真に押さえつけられた前足に痺れを切らし、怒りのまま大口を開いた。その牙が、一真の頭部を噛み砕かんと迫る。
「■■■ッ!!」
しかし一真は右腕一本で相手の前足を押さえつけたまま、左腕を素早く振り上げる。
「――封神拳・震岳拳!」
仙気を込めた拳がダスクハウンドの顎を突き上げる。
その瞬間、『ガキン!』という金属音が響いた。生物から発せられる音ではない。体毛の下に隠れていた硬質な甲殻が、顎を覆っていたのだ。それでも一真は、強引にダスクハウンドの口を閉じさせることに成功した。
「ッ……!」
一真は後方にいる晶たち三人とルナリスの気配を感知し、戦場の位置を測る。
(……このままでは巻き込む危険がある。少し離すか)
一真は獣に叩きつけるように言葉を放つ。
「少し向こうで相手をしてやる!」
次の瞬間、仙気を足に集中させる。
「――封神拳・裂空脚!」
破壊的な衝撃がダスクハウンドの胸を直撃し、轟音とともに巨体が後方へ吹き飛ぶ。一真は即座に追撃、吹き飛ぶ最中の相手へ並走する。
掌に圧縮した仙気の塊を生み出し、叩き込む。
「封神拳・破天掌!」
水平方向に飛んでいたダスクハウンドの身体が折れ曲がり、空へと弾き飛ばされた。胴体には巨大な凹みが刻まれている。
さらに追撃。一真は右手に仙気を集め、それを光弾へと変換した。
「封神拳・仙気流光!」
「―――ッ!!」
蒼い奔流が宙にいるダスクハウンドを呑み込み、鳴き声すらも掻き消した。
怒涛の連撃を目の当たりにした晶たち三人は、知らぬ間に震えを止めていた。ただ、現実として受け入れるまでに時間が必要だった。
「なんだ……あれ……オレ、夢でも見てるのか?」紫音が呆然と漏らす。
「夢じゃない……よ……。封神拳って……いったい……」柚葉の声も震えている。
晶もまた言葉を失っていた。(あれが一真さん……? 魔王軍の空軍と戦った時も凄かったけど、今はもっと――)
人間離れしている。その言葉だけは考えないようにした。
閃光が収束すると、ダスクハウンドが墜落する。
「ズドン!」大地を震わせる音。巨体は無惨な姿を晒していた。毛皮や皮膚は焼け焦げ、足は異常な方向へ折れ曲がり、胴体は深く陥没している。全身から血が滲み、骨折も明らかだった。
「嘘だろ……? あれだけやられて原型を留めてるのか……」紫音が驚愕を口にする。
並の魔物なら粉々になっていたはずだ。
一真は油断なく倒れた獣を見据える。
(……まだ息があるな。まさかこんな奴までいるとはな。今ここで倒しておくのは正解だった。もしルナリスが遭遇していたら、ひとたまりもなかっただろう)
一真がとどめを刺そうと近づいたその時、ダスクハウンドの肉体が不気味に蠢き始める。
ひしゃげた肉が盛り上がり、折れた骨が音を立てて繋がっていく。
「なに……!?」
一真は即座に距離を取る。
やがてダスクハウンドは、まるで何事もなかったかのように立ち上がった。
「うそ……さっきまで瀕死だったのに……!」柚葉の声が震える。
「■■■……!!」
復活した獣が再び一真を睨み、唸り声を上げる。
一真は深く息を吐いた。
「……ふぅー。これは、いよいよここで仕留めねばならんな。放置するには危険すぎる」
一真の威圧を受けても諦めること無く、こちらを狙っていた時点で危険であることは分かってはいた。しかしそれは一真の予想を上回る危険性だった。
並外れた回復力。このままでは未来に禍根を残す。
それでも一真は冷静に分析する。
(回復が早すぎる……普通じゃない。一撃で吹き飛ばすのが確実だが……それでは魔石まで砕けてしまう。今後を考えるなら魔石は残しておきたい)
思考を終え、一真は低く笑った。
「さて……犬の躾け改め、化物退治といくか」
その顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。
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