第90撃:森の中に潜む気配
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寂しそうに一真たちを見つめ、か細い鳴き声を上げるルナリス。
その姿を見た晶が思わず声を上げた。
「あ……ルナリス……」
その声に反応するかのように、ルナリスは晶の胸へと飛び込む。
「キュウ……キュウ……」
悲しげな鳴き声に、晶はそっと撫でながら一真に問う。
「一真さん……この子はどうするんですか?」
不安げな視線を受け、一真は少し間を置いてから答えた。
「……流石にルナリスを連れて行くわけにはいかん。湖で待っていてもらうしかないだろう」
その言葉に、紫音が気落ちした様子で呟く。
「ルナリスって……親とかいないのか?」
「ああ。昨日聞いたが、親はいないらしい」
一真の答えに、晶は自分の家族を失った記憶を重ねる。胸の奥に沈む寂しさが疼き、思わず問いかける。
「そっか……ルナリスも、ボクや一真さんと同じなんだ……。一真さん……どうしても連れて行けませんか?」
晶の懇願に対し、一真は諭すように言い聞かせた。
「連れて行ったとしても、危険に晒すだけだ。今までルナリスが無事だったのは、この帰らずの森に強い水生モンスターがいないからだろう。湖で待っている方が安全だ」
(……昨日の不気味な霧のような奴さえ、他にいなければ、だが)
心の中でそう付け足したが、口には出さなかった。
一真の言葉に晶は肩を落とす。だが、その時――柚葉がふと気づいて声を上げた。
「湖で“待っている方が”ってことは……またこの森に戻って来るつもりなんですね?」
その言葉に、紫音と晶もハッとする。
「あ、確かに……“待ってる”って言い方だと、そうなるよな」
確認するように一真の顔を見つめる晶。
一真は微笑みを浮かべ、はっきりと答えた。
「ああ、そのつもりだ。いずれは別の場所へ移ることになるだろうが、今回は違う。今回の目的は二つだ。まずオラクルに会って情報を得ること。そして可能なら城下町で魔石の換金と買い足しだ。寝袋をあと二つ、いや予備も合わせて三つ。服も欲しいところだな」
一真の言葉を理解したルナリスは、晶に頬を擦り寄せ、全身で喜びを表現する。
「キュ! キュ! キュゥー!」
「あはっ、くすぐったいよ、ルナリス!」
晶も笑顔で撫で返す。
その様子を見て、柚葉が小さな声で呟いた。
「晶くん……いいなぁ」
一真は思う。
(皆に懐いてはいるが……やはり晶にだけ特別だな。何か理由があるんだろうが……なんだ?)
思考の海に沈みそうになった一真を、紫音の声が引き戻す。
「夜にエルサリオンへ行くんだろ? 今は昼だし、出発すると日暮れ前に着いちまう。どうするんだ?」
一真は顎に手をやり、少し考えて答える。
「……とりあえず昼飯はここで食おう。それと、モンスターを一体くらいは倒して魔石を補充しておきたい。今の手持ちは昨日の“ウシしゃん”の魔石と、森に返ってくる途中で倒したモンスターの魔石が数個。あとはウシしゃんの角と毛皮か。これらがどれほどの値がつくのか、知識のない俺達には全くの未知数だ。ツヨツヨ…じゃなくて、グランスライムやロックスネークの魔石なら、ある程度は予想が立てられるんだがな」
晶は肩を落としてぼそりと呟く。
「あの牛みたいなモンスターの名前、“ウシしゃん”で決定なんですね……」
(……一真さん凄くカッコいいんだけどなぁ…)と紫音。
(ネーミングセンスだけは…ちょっと…かな)と柚葉。
二人の心に同じ思いがよぎる。
そんな空気を気にもせず、一真は続ける。
「そんな訳で、あと一体モンスターを倒して、魔石や素材を集めておく」
だが紫音が疑問を投げかけた。
「それはいいけどさ……モンスター全然見かけないぞ?っていうか、何で全然モンスターが襲ってこないんだ?」
「言っただろ、警戒してるって。僅かな仙気を周囲に流して、近寄ろうとするモンスターに威圧をかけてたんだ。今のところ、それを無視して近づこうとする奴はいなかったみたいだな」
一真がニヤリと笑うと、柚葉が驚いた声を上げる。
「警戒って…そういう意味だったんですね。全然モンスターが現れないから、おかしいとは思ってました」
晶も声を上げた。
「じゃあ一真さん、ずっと力を使ってたんですか? お腹すいたんじゃ……?」
一真は照れたように笑い、答える。
「まぁ、ちょっとな。だからモンスターを狩って素材を回収したら飯だ。食い終わってから森を出れば、エルサリオンに着く頃にはちょうど夜になる」
三人は「わかりました」と頷く。
一真は表情を引き締めて告げた。
「さて…湖の周辺のモンスターに、一体ずっとこちらを伺っていたモンスターがいる。おそらく警戒を解けば、すぐに現れるだろう。三人はルナリスを守って下がっているんだ。そいつは俺が相手をする」
紫音が反発する。
「待ってくれよ一真さん! オレと柚葉だって戦える!」
だが一真は首を横に振った。
「ダメだ。今のお前たちには危険すぎる。そのモンスターから伝わってくる気配は、昨日の牛よりも強い」
紫音は言葉を失い、拳を握る。
「……気持ちはわかるが、今回は我慢だ。じゃあ、威圧を止めるぞ」
そう言って一真が仙気に乗せた威圧を止めた瞬間――重苦しい空気が三人にのしかかる。
まるで猛獣に狙われているかのような……いや、それ以上の圧。
三人の胸に、鋭い不安が突き刺さった。
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