第88撃:焚き火の温もり、交わした衣
いつも読んでくださり、有り難う御座います!
少し話のテンポが悪くなってしまってますね。
反省です。
晶は畳んでいた服を拾い上げ、袖を通した。かすかに濡れた身体に布が張り付く感覚に少しだけ眉をひそめながらも、湖面に映る自分の顔を覗き込む。
「……うん、大丈夫。ちゃんと普通にしないと」
小さく呟いて自らに言い聞かせると、ルナリスを連れて焚き火の元へと歩き出した。
「お待たせしました。水浴び、終わりました」
焚き火の前で待っていた一真が立ち上がり、両手に持っていたコップの片方を晶に差し出す。
「よし、先ずはこれを飲んで、焚き火に当たって温まるんだ」
晶はコップを受け取り、火のそばに腰を下ろす。焚き火の熱が濡れた肌をじんわりと温め、手にした紅茶の湯気が鼻先をくすぐった。ひと口含むと、柔らかな甘みと清涼感が舌に広がる。どこかカモミールに似た風味で、飲み込むと胸の奥までじんわりと安らぎが広がった。
「……ホッとする味ですね」
自然と笑みがこぼれ、張り詰めていた心が少し解けていく。
晶の様子を確かめた一真は頷くと、三人に向かって提案を口にした。
「さて、三人とも……一つ提案がある」
紫音と柚葉、そして晶が顔を上げる。
「紫音、柚葉。俺と晶が今着ている服を、お前たちが着ないか?」
唐突な提案に、紫音が驚いたように声を上げる。
「え? 一真さんと晶の服を?」
「ああ。今のお前たちの制服はかなり汚れているし、ところどころ傷んでもいる。そのまま着続けるのはさすがに不便だ。そこで俺たちはバッグにしまってある元の服に着替える。その代わり、この世界で見つけた服をお前たちに渡そうと思ってな。少なくとも、地球の制服よりは目立たないはずだ」
そう言って一真は苦笑を浮かべる。
「……まあ、俺みたいなおっさんが着てた服は嫌かもしれんが」
その言葉に柚葉が首を横に振った。
「嫌だなんて思いません。ただ……そうなると、私が晶くんの服を着て、紫音が一真さんの服を?」
「ああ。サイズ的にはそうなるな。俺の着てる服は俺にはかなり小さめだが、柚葉には大きすぎるし、晶の服は紫音には小さすぎる」
紫音も腕を組んで少し考え込む。
「オレも嫌じゃないよ。でも大丈夫か? 一真さんと晶は地球の服を着ることになるんだろ? 目立つんじゃないか?」
一真は無言で自分のボンサックを開き、元々着ていた私物を取り出した。
黒のタクティカルカーゴパンツ、グレーの半袖コンバットシャツ、そしてこげ茶のレザートレンチコート――どれも実用性を重視した堅牢な装いだった。
「全く目立たないというわけにはいかんだろうが、それでも制服よりはマシだろう。問題は晶の制服だが……それもお前たちの汚れた制服よりは目立たない」
柚葉は晶に視線を向ける。
「晶くんは……それで大丈夫?」
「うん。柚葉が嫌じゃなければ、ボクは大丈夫だよ」
晶は笑顔を見せる。その言葉に柚葉も安心したように頷いた。
紫音も少し頬を赤くしながら口を開く。
「オレも……それでいい」
こうして合意が得られると、一真は場をまとめた。
「よし。じゃあ俺たちが先に草むらで着替えてくる。その後に紫音と柚葉だ」
四人は順番に草陰で着替える。
二人に譲られた服は、多少サイズの誤差はあるものの、袖を捲るなどをすれば、どうにか動きを阻害されないですむ程度だった。
「ふぅ……よかった! せっかく水浴びしたのに、ドロドロの制服のままは気が滅入るしな」
紫音は新しい服に身を包み、肩を回しながら嬉しそうに笑う。
柚葉もほっとした表情で言葉を添えた。
「本当に助かりました。二人とも、ありがとうございます」
それを見て一真は満足げに頷き、口を開いた。
「よし、問題はなさそうだな。あくまで一時しのぎだが……いずれは全員分の服を調達する必要がある。それと寝袋もだ。今は二つしかない。昨夜は誰かが気を使わないように、敢えて誰も使わなかったが、長くは続けられん」
三人が焚き火の前に並んで座ったのを確認すると、一真は腰を上げる。
「さて。そろそろ俺も水浴びしてこよう。三人はここで待っていてくれ。警戒は続けているから心配はいらん」
そう告げると、一真は湖へと向かい、衣服を脱いで静かに水に入った。
湖面が揺れ、冷たい水が肌を包む。彼は息を整えながら思索を巡らせる。
(これで紫音と柚葉も一息つけただろう。だが……問題はここからだ。考えねばならんことが山積みだ)
一真は湖の水で身体を清めながらも思考を続ける。
(二人とも極限状態だったためか、あやふやな部分もあったが、多くの情報を持ってきてくれた。感謝しなければならないな)
指先で顎を撫でながら、一真の目は真剣に細められる。
(俺の仮説も案外バカにしたもんじゃないな。やはり俺と晶は王から逃されたか。それにセレフィーネという魔族の洗脳能力…推測通り、スキルを持っている者に強く影響をあたえるか。要注意だな)
さらに思考は過去へ遡る。
「……紫音と柚葉、それにロイ爺さんの言葉…キーとなるのは千年前。邪神ゼルグノスとの戦いと、女神エルフェリーナの消滅。どうやらここから、この世界…聖魔人界エルフェリアの運命が大きく変わったようだ」
日はすでに頭上へと登り、木々の隙間から差し込む陽光が、思考する一真を微かに照らしていた。
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