第86撃:湖畔に揺れる焚き火と紅茶のぬくもり
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ルナリスによる水の浄化を目の当たりにし、二人はしばし言葉を失っていた。
濁っていた水が端から端へと澄み渡り、鏡のように透明になっていく光景は、まるで神話の一幕のようだった。
「ルナリスちゃん…本当に凄い……やっぱり水の妖精さんか何かなのかな?」
柚葉がぽつりと呟く。その隣で、紫音が突然バシャリと湖に飛び込んだ。
「し、紫音!?」
慌てて声をあげる柚葉をよそに、紫音は顔を水面に出し、両手で水を拭いながら笑った。
「っぷはー! オレ達がいくら考えたって分かんねーよ! それより今は水浴びだ! せっかくルナリスが綺麗にしてくれたんだ、使わなきゃもったいねぇ!」
吹っ切れたような紫音の姿に、柚葉もつられて湖の水をすくい、顔を洗う。
「んっ……そうだね。一真さんや紫音の言う通り、今は考えても仕方ないかぁ」
「おう! せっかくだ、羽根を伸ばそうぜ!」
二人は子供のように笑い合い、思い切り水を浴びた。
しばらくして、紫音がふと真面目な声で切り出す。
「なぁ、柚葉」
「ん? どうしたの、紫音?」
紫音は少し照れくさそうに顔を逸らす。
「一真さんってさ……なんかズルいよな。うまく言えねぇけど、大人の余裕たっぷりって感じでさ」
「……だね。あれはちょっと、ズルいよねぇ」
二人は互いに頷き合い、同じ感情を抱いていることに気づく。紫音は顔を赤らめ、慌てて両手を振った。
「あー! ヤメヤメ! オレらしくねー! こんなのオレっぽくない!」
その姿に柚葉は吹き出しそうになりながらも、そっと胸の奥でつぶやく。
(……紫音も、そうなんだ。出会ってまだほんの少しなのに…一真さんって…ほんとにズルいなぁ)
――やがて、二人は冷えきった湖から上がった。
「うぅ~寒っ! ちょっと長く入りすぎたな」
「そ、そうだね。冷えすぎちゃったかも」
ぶるぶる震えながら、紫音が気づいたように声を上げる。
「……あれ? そう言えばタオルねぇぞ!? このままじゃ風邪ひいちまう!」
「そ、それはマズいよね……紫音、少し寒いけど我慢してね?」
柚葉は詠唱に入り、風魔法を抑えた出力で放った。
強い風に吹かれ、紫音は身を縮めて悲鳴を上げる。
「うぃぃ~~! さ、さみーっ!」
「ご、ごめんね! 炎魔法と組み合わせて温風にしようと思ったんだけど……そこまで細かい制御は無理だった……」
肩を落とす柚葉に、紫音は歯をガチガチ鳴らしながらも笑ってみせた。
「いや、助かるよ。ありがとな、柚葉」
柚葉は微笑み、自分にも同じ魔法をかけて身体を乾かす。二人とも小刻みに震えながらも、ようやく水気を払った。
視線を下ろせば、そこにあるのは脱ぎ捨てた学校の制服。
「ふぅ……せっかく身体を洗えたのに、またこの汚れた制服を着るのかぁ」
「うん……やっぱり綺麗な服が恋しいね」
不満をこぼしながらも、二人は渋々制服に袖を通す。
森の方へ歩み寄り、紫音が大声で呼んだ。
「おーい、一真さーん! 晶―! 終わったぞー!」
少し遅れて、草木をかき分ける音と共に、一真と晶が姿を現す。
「おお、もういいのか? もっとのんびりしてても良かったんだぞ?」
一真の言葉に柚葉は苦笑しながら首を振った。
「ちょっと寒くて……これ以上は風邪を引いてしまいそうです」
その答えに晶がにこりと笑みを浮かべる。
「そう思って、一真さんと一緒にこれを集めてたんだ」
そう言ってマジックバッグを開き、枯れ木や枝を取り出す。
一真も穏やかに微笑み、声をかけた。
「とりあえず焚き火で温まれ。――晶、あれも」
呼びかけに晶が頷き、水筒やコップ、鍋、茶葉を次々と取り出す。
「紅茶も飲んでおけ。身体の中からも温めないとな。薬があるかどうか分からん世界だ、病気には気をつけよう」
その気遣いに、二人はぱっと笑顔を見せ「ありがとう」と礼を言い、焚き火の準備に取りかかった。
一真はその様子を確認すると、隣の晶へと視線を移す。
「よし、次は晶の番だ。周囲は俺が警戒してるから安心して行って来い」
「……はい! で、でも……の、覗かないでくださいね?」
顔を真っ赤にして呟く晶に、一真は即座にツッコむ。
「覗くか! いいから早く行ってこい。頃合いを見て、お前の分の紅茶も用意しておくからな」
「む~…一真さんの……ばかっ!」
ぷくっと頬を膨らませながら、晶は湖へと駆けていった。
そのやり取りを横で見ていた紫音と柚葉は、同時にため息をつき――
「ほんと……ズルい」
と、声を揃えて呟くのだった。
一真は、聞こえないふりをしていた。
いかがでしょうか?少しまったりしたシーンが続いてしまっているので、退屈に感じてはいませんでしょうか?
もし退屈に感じてしまっている方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。




