第83撃:空駆けの先に
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晶、紫音、柚葉の三人は、一真に導かれて、深い森の奥に隠れるように存在する河跡湖へと進んでいた。
先頭を歩く一真は、淡い蒼光を帯びた仙気の刃で、鬱蒼と茂る草木を迷いなく切り払っていく。その歩みから生じる圧は森全体を支配し、道中、モンスターに襲われることは一度もなかった。
後ろを歩く紫音が、感心したように声を漏らす。
「一真さん、そんな事もできるのか。……それ、昨日あの牛のモンスターを解体する時に使ってた技と同じだよな?」
一真は歩みを止めずに答える。
「ああ、仙斬閃って技の応用だ。仙気の制御次第で、大きさや切れ味を細かく調整できる。便利な技だぞ」
その返答に柚葉が興味深そうに声を上げる。
「魔王軍の空軍を倒した時に使っていたって……晶くんが言っていた技ですか?」
晶は少し興奮を抑えきれない様子で、小さな声を返した。
「うん。一真さんがその技で、大きな敵を武器ごと真っ二つにして……。ちょっぴり怖かったけど、すごくカッコよかった」
その声音には、確かな信頼と憧れが込められていた。
紫音が口を尖らせるように続ける。
「あーあ、オレも見てみたかったな。一真さんが空を飛んだって話だろ?信じられないよ」
柚葉が訂正する。
「紫音、飛んだんじゃなくて……歩いて、そして駆けたの。飛ぶのとは違うよ」
「いずれにしても、空に行ったんだろ?凄いじゃん。……オレも体験してみたいな、空を駆けるってやつ」
紫音の無邪気な言葉に晶が慌てて反応する。
「さすがにそれは……」
そう口にしかけた時、一真が軽く言葉を差し挟んだ。
「お前たちを抱えてでも出来んことはない。ただ、いきなりだと少々怖いかもしれんがな」
三人は思わず息をのむ。
紫音が呆けたように問い返す。
「……は?できるの?オレ達を抱えて?」
柚葉も驚きを隠せず目を見開く。
「三人も……ですか?」
立ち止まった一真は、振り返りながら静かに答える。
「ああ。三人くらいなら問題はない。試してみるか?」
紫音が即座に手を挙げた。
「やる!試してみたい!一真さん、お願いします!」
柚葉も遠慮がちに言葉を添える。
「あの……ご迷惑じゃないですか? 三人も一度に……」
「心配するな。大丈夫だ」
一真が笑顔で返すと、視線を晶へ向ける。晶は一瞬躊躇いながらも、小さく頷いた。
「あの……ボクも、お願いできますか?」
「よし。じゃあ、お前たち、俺にしっかり掴まれ。速度は落とすが……振り落とされるなよ」
三人は戸惑いながらも一真にしがみつく。紫音は背におぶさるように、柚葉と晶は前から抱きつき、一真の腕でしっかりと支えられた。
「紫音、大変かもしれんが……ここからならすぐに着く。しっかり捕まってろ」
「はいっ!」
紫音は力強く返事をし、両腕に一層力を込める。
一真が仙気を練り始めると、三人は温かい膜に包まれるような感覚を覚えた。
「よし、行くぞ」
次の瞬間、一真は蒼い仙気を足場に変え、空へと駆け上がる。
「わっ、わわわっ!?」
「うわっ!? ほ、本当に浮いた!?」
「きゃっ!?登ってる!?」
覚悟を決めたはずの三人の口から悲鳴が次々に上がる。
森の木々を一気に越え、河跡湖の方角へと駆ける。
「さて、少し速度を出すぞ」
その言葉と同時に、頬を切る風の鋭さに三人は揃って叫んだ。
「「「きゃあーーーー!!」」」
ほんの一分足らず――。
やがて一真は仙気の足場を伝い、河跡湖の岸辺に静かに降り立った。
三人を下ろすと、その場にへたり込んでしまう。
「信じられねぇ……オレ、本当に空を……」紫音が呟き、
「まさか、生身で空を移動する日が来るなんて……」柚葉が続け、
晶は息を整えながら、ぽつりと吐き出す。
「一真さんには、いつも驚かされます……もう何度も慣れたと思ったのに」
その顔には恐怖と同時に、興奮と喜びが宿っていた。紫音も柚葉も同じだ。
「ははっ、少し怖い思いをさせちまったか?すまなかったな」
一真は苦笑しながら頬を掻き、湖へと歩み寄る。
(よし、ちゃんといるな)
湖底に潜む気配を捉えた一真は、仙気に気配を乗せて送り込む。反応を受けた主は、水を揺らして浮上を始めた。
呼吸を整えた三人も湖畔へ寄ってくる。紫音が感嘆の声を上げた。
「うわぁ……すげぇ、広くて……綺麗だ」
柚葉は目を輝かせ、期待を込める。
「水も澄んでる……ここなら水浴び、できるんじゃないかな?」
紫音は顔を明るくし、勢いよく頷く。
「そうだ!水浴び!ここならできるって!」
晶が一真に問いかける。
「そのために、ここへ連れてきてくれたんですか?柚葉が言っていた昨日遅くまでって……ここを探していたから?」
一真は肩を竦めて答える。
「まあ、本来の目的はそうだな」
「他にも何かあるんですか?」
晶の問いに、一真は笑みを含んで言葉を濁す。
「まあ……ちょっとな」
そこへ紫音が口を挟む。
「一真さん、さっきから何やってんだ?」
「お前たちに紹介したいやつがいてな。……ほら、上がってきたぞ」
一真の指差す先、湖面が揺らめき、愛らしい姿が現れる。
「キュ?」
それはまるでデフォルメされた恐竜のような、不思議に可愛らしい生き物だった。
その姿を見た三人は、ただ口を開けたまま固まるしかなかった。
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