第80撃:――選んだ道、交わる想い
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できることなら一人ひとりにお礼をしたいですが、この場での皆さんへ向けての感謝で許してください。
これで今回の過去話は終りとなり、次の話からはまた元の時間に戻る予定です。
長々とすみませんでした。
一真は塵と消えた青年に黙祷を捧げ、静かに立ち上がると姫咲のもとへ歩み寄った。
「……姫咲さん、終わったよ。……姫咲さん?」
呼びかけても返事はない。姫咲はあまりの衝撃に思考の海へ呑み込まれていた。
(今のは……何? 悪神の使徒が叫んで、笑った……? あんなもの、聞いたこともない。師からも、歴代の闘神童子の戦いの記録からも……一度だって……!)
一真が再び声をかける。
「姫咲さん? どうしたんだ、大丈夫か?」
その声に、ようやく姫咲の意識が浮上する。
「え……あ、ああ……大丈夫よ。一真。お疲れさま、見事な戦いだったわ」
反応が返ってきたことに安堵し、一真は照れくさそうに頬を掻いた。
「ああ、ありがとうな、姫咲さん。最初はみっともないところ見せちまったけどな」
そう笑ってみせる一真。しかし姫咲の内心は、それどころではなかった。
彼女の百年以上にわたる戦いの記憶にも、師から伝え聞いた歴史にも、あの現象は存在しなかった。瘴気に呑まれた青年が、最後に人としての感情を取り戻した――それはあり得ないことだった。
(……一真。この子はいったい何者なの……?)
姫咲の胸の奥で、一真の存在はますます大きくなる。
(普通の生活をして、普通の幸せを掴んでほしい……。でも、この子が闘神童子を継いでくれたら……私が寄り添い、支えられたら……この長い戦いも、何かが変わるかもしれない……)
思考に囚われていると、再び一真が声をかけてきた。
「おーい、姫咲さん? 本当に大丈夫か? さっきから様子が……」
姫咲はハッとして首を振る。
「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていただけ。……ふぅ。約束通り、今日の修行は免除にしてあげます。お腹すいたでしょう? 本当に食べていかなくてもいいの?」
一真はにっと笑う。
「ああ。姫咲さんの料理が食べたい。早く帰ろうぜ。今なら……来たときより速く帰れそうな気がするんだ」
その言葉に、姫咲の背筋がゾクリとした。
(綾女……。あなた、なんて子を私に託したの……? この子が私と同じ道を歩めば……だけど、この子の意思は……?)
迷いが胸を締めつける。それでも姫咲は思わず問いかけていた。
「……一真。本当に良いの?」
「ん? なにが?」
一真が不思議そうに首を傾げる。姫咲は逡巡の末、言葉を続けた。
「このまま封神拳を習い続ければ、あなたは引き返せなくなる……。私と同じところまで来てしまうわ。今ならまだ、普通の生活に戻れる。普通の幸せを――」
その言葉を遮るように、一真が口を開いた。
「……それで悩んでたのか?」
「え……」
「ここ半年ほど、ずっと何かに悩んでるように見えたが、そんなことで悩んでたのか」
その言葉に、姫咲は思わず声を荒げる。
「そんなことって……! あなたのこれからの人生なのよ! このまま封神拳を習い続けたら……このまま私と一緒にいたら……あなたは……」
一真は苦笑し、真っ直ぐに答える。
「そんなこと…さ。俺は俺の意思で姫咲さんのもとに来て、俺自身の意思で封神拳を習い始めた。叔母さんに道を示してもらったが、決めたのは俺だ」
姫咲は言葉を返せなかった。ただ、胸を締めつける衝動に耐えるだけ。
一真はさらに続けた。
「今までだって、何度も挫けそうになった。これからもきっと大変なことは山ほどあるんだろう。でも……俺は俺の意思でこの道を進むよ」
そして彼女の瞳をしっかりと見据える。
「叔母さんが言ってくれたんだ。俺のこの大きな手は、多くを救える手だって。強さが多くの人と俺を繋いでくれるって。叔母さんが…お袋が残してくれたその言葉、今思い出しても嬉しいんだよ。だから――俺は強くなる!」
その瞳には、確かな覚悟が宿っていた。
姫咲は胸を突かれたように言葉を失う。抱きしめたい、抱きしめてキスをしたい――そんな衝動を必死で抑え、代わりに微笑んで言った。
「なら……覚悟しなさい。明日からは本格的な修行に入ります。今までみたいに甘くないわよ?」
一真は顔をしかめ、わざとらしく大げさに叫ぶ。
「うへぇ……そいつはおっかないな。やっぱ辞めるか! ……なんてな」
二人は笑い合う。だが、姫咲の心の奥では別の声が囁いていた。
(ごめんなさい、綾女……。もう我慢できない。私は一真が好き……大好き……。私はこの子を、私と同じ道に引き込む……)
二人は仙気を括り、天駆空歩で空へと駆けていった。
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