第79撃:武人の誇り、拳に宿る
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一真の仙気の流れが変わったことに、姫咲はすぐに気がついた。
先ほどまでの荒々しい奔流が嘘のように消え、穏やかで澄んだ流れへと変化している。粗削りさこそ残るが、それでも――今の一真は、これまでのどの一真とも違っていた。
(そうだ……俺はなにを焦って倒そうとしていたんだ。初めての実戦で緊張して……そのせいで自分を見失ってた。ははっ)
一真は心の中で笑った。それは自嘲ではない。
さっきまでの自分の滑稽さが、ほんの少し気恥ずかしくて、自然と笑みが漏れたのだ。
(なにを緊張していたんだ、俺は。姫咲さんが“勝てる相手”と言った。なら、俺は今まで教わった通りに戦えばいい。ただそれだけのことじゃないか)
神甲天衣を纏ったまま、一真は敵との距離を詰めていく。
無理な強化もせず、肉体に負担が来ない範囲で、今の自分に扱えるギリギリの操作を選ぶ。
敵が再び正拳突きを放った。素早く、重く――だが、一真は片手で軽く受け流す。
神甲天衣に守られた腕は直撃を避けた分、負担も小さい。
続けざまに敵が右手を薙ぎ払うが、一真は無理に受けず、軽やかに身を捻って避ける。
(……見える。さっきまでは焦りで目が曇ってたが、今は分かる)
無造作に見える攻撃の中に、確かな“技”の重みが潜んでいた。
最初の正拳突き――あれはただ拳を突き出しただけではない。長年の研鑽が宿る、磨き抜かれた一撃だった。
(コイツは……荒々しいが、間違いなく“武術”を修めた者の動きだ。空手……か)
敵は容赦なく攻撃を繰り返す。一真はそれを受け流し、かわし、防ぎながら冷静に観察を続けた。
その余裕を与えてくれたのは、姫咲に最も叩き込まれた技――神甲天衣。
仙気を無駄にせず、流麗に扱える唯一の“型”。身体を、そして命を守るための技。
(……やはりお前は)
一真は霧に覆われた敵へと声を投げかけた。
「おい。お前は、こんな戦いで満足なのか? 俺は正確には武人じゃない。偉そうなことは言えん。だが――お前は違うだろ? 悪神の瘴気なんぞに呑まれて……それで、いいのか?」
姫咲は驚愕に目を見開いた。
(なにを……一真!? 悪神の瘴気に呑まれた者に言葉をかけても意味は……!)
一真は構わず続ける。
「冷静になった今なら分かる。お前はもう人としては戻れないんだろう。だが――武人としての誇りまで、瘴気に潰されて終わりでいいのか?」
その瞬間。
「グ……ウオォォォォッ!…おぁぁぁっ…」
初めて敵が声を上げた。
驚愕したのは姫咲だった。
(嘘……!? ありえない……瘴気に呑まれた者は、二度と意識を取り戻すことはない。声を発するなんて……そんなはず……!)
敵は頭を抱えて苦しみ、叫んだ。次の瞬間、顔を覆っていた黒い霧が晴れ、そこには青白い青年の顔が露わになる。
一真はその青年を見て、にやりと笑った。
「よし。かかってこい。今の俺の全力で相手してやる」
その言葉に応えるように、青年の口元がわずかに笑った気がした。
(馬鹿な……瘴気に呑まれた者が……構えを取るなんて……!)
姫咲の常識を覆すように、青年は空手の基本構えを取った。無駄がなく、研ぎ澄まされた型。
一真も手のひらに仙気を集中させ、向き合う。
先に動いたのは敵。最速の直突き――愚直なまでに鍛えられた“最短最速の拳”。
それに対し、一真は全力の一撃を選ぶ。
「封神拳――破天掌ッ!!」
先ほどとは違い、しっかりと仙気を練り上げて放つ、今の一真が使える最大の技。
圧縮された仙気の塊が、敵の拳を打ち砕き、そのまま胴体へ叩き込まれる。
轟音と共に黒い霧がねじれ、吹き飛ばされた敵は地面に叩きつけられ、霧が霧散する。
そこに残ったのは――全身ボロボロの青年一人。
一真はゆっくりと歩み寄り、傍らにしゃがみ込んだ。
「……いい試合だった。瘴気なんかに邪魔されずに、あんたと戦ってみたかったよ」
青年はわずかに笑みを浮かべ――やがて塵となって消えていった。
一真の初戦は、勝利で幕を閉じたのだった。
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