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第77撃:廃寺に潜む瘴気

またブックマークをしていただきました!

リアクションもたくさん!

本当に本当に有り難う御座います!

皆様に感謝を!

皆さん大好きです!

一真は廃寺を見上げながら、隣に立つ姫咲へ問いかけた。

「姫咲さん。この寺に……その、悪神の瘴気に呑まれた下っ端ってのがいるのか? 俺には、なにも感じないんだが」


 その問いに、姫咲は寺の奥を射抜くように見据えたまま答える。

「ええ、間違いなくいるわ。あなたは普通の生物の気配を探ろうとしているから分からないのよ。悪神由来の瘴気を感じ取るには、少し慣れが必要なの」

 そして心の奥で静かに付け加える。

(もっとも……中には気配を完璧に隠すのが得意な眷属もいる。そういう相手だと、私でも苦労するけれど)


 姫咲は一真に視線を送ると、ためらいなく歩き出す。

「一真、敵は内陣にいるわ。意識を戦闘に切り替えなさい」


 一真は深く息を吸い、戦うための心を整える。呼吸を変え、仙気を練り上げ、全身に行き渡らせながら姫咲の背を追った。


 廃寺の内陣へと足を踏み入れると、朽ちかけた巨大な仏像の前に人影が立っていた。本尊に向き合っているため顔は見えないが、背丈は一真より小さい。姫咲と同じくらいの背だろう。


 姫咲は入口で立ち止まり、声音を硬くして告げる。

「一真。私はここで見ているだけ。あなた一人であいつと戦いなさい。万が一、命が危険に晒されても……私は手を出さない」

 冷徹な言葉。だが胸の奥では、苦く呟く。

(……いいえ。あなたの命が本当に危うくなったら、私はきっと我慢できずに飛び込んでしまうのでしょうね)


 一真は仙気の密度をさらに高め、敵へと歩みを進める。そんな背に、姫咲が忠告を投げた。

「一つだけ。仙気の扱いには細心の注意を払いなさい。今のあなたの身体だと、反動で自分自身を壊しかねないわ」

「……分かってる。忘れちゃいないさ」

 一真は振り返らずに短く応じ、腰を落として構えを取った。


 その瞬間、仏像の前に立つ人影が振り返る。現れたのは二十代ほどの青年。亡者のように肌が青白いことを除けば、人間と見紛う姿だった。


 一真は鋭い視線で相手を観察する。

(体つきは……格闘技経験者だな。だがそれ以外に異常は見られない。けど、姫咲さんが眷属だって言う以上、間違いないんだろう。さて……どう仕掛けるべきか)


 思考の渦中、男がゆっくりと歩み寄ってきた。一真は迎撃の構えを取る。


(くるか……!)


 敵は唐突に両手を頭上に掲げた。次の瞬間、内陣全体が重苦しい瘴気に覆われる。男の身体から黒い濃霧が噴き出し、その全身を呑み込んでいった。


「っ……!」

 変貌のあまりの速さに、一真の反応が遅れる。咄嗟に避けるが、振り下ろされた腕が床を叩き砕き、その風圧だけで頬が裂け、血が滴った。


(皮膚ごと持っていかれた……俺の身体は封神拳で強化されているはずなのに、風圧だけで……!?)


 男の姿はもはや人ではない。黒い霧が人型を形作り、意識を持つ怪異となっていた。

(なんだこれは……!? こんな嫌な気配に俺は今まで気が付かなかったのか……!)


 一真は必死に心拍を操作して冷静を保とうとするが、まだ未熟な彼には上手くいかない。

(全身を喰われていくような感覚……これが悪神の気配ってやつか! ……くそ、早く片付けないと!)


 漆黒の霧はゆっくりと歩を進めてくる。敵は気を鎮めている姫咲を見逃し、仙気を放つ一真を敵と断じたようだった。


 一真は逆に踏み込み、拳を打ち込む。

「封神拳――震岳拳!」

 

 それは封神拳の基本技の一つ。裂空脚と対を成す、仙気により純粋に威力を強化した一撃。


 仙気を乗せた拳が一直線に敵へと炸裂する。しかし両腕で受け止められた。

(ガードだと!? 意識があるのか、コイツ!)


 次の瞬間、一真の腕が弾かれ、敵の正拳突きが迫る。鋭く、重い。

 一真は咄嗟に腕で受け止めるが、衝撃で全身が痺れた。


 そこから打撃の応酬が始まった。

 打つ、弾かれる。弾き返す、再び打つ――。

 数呼吸の間に、幾度も拳と拳が交錯した。直撃こそ避けているが、一真の腕には鈍痛が積み重なっていく。


「封神拳――裂空脚!」

 足に仙気を込め、衝撃を放つ。一撃は敵を揺らしたが、防御姿勢に入られて耐え切られる。吹き飛ばすことすら出来ない。


 一真が体勢を立て直すより早く、敵は懐に潜り込んできた。両腕を回し、背中を絞め上げる。サバ折り――。


「ぐあああああっ!」

 折れるかのような激痛に、呼吸が乱れる。

(やばい……このままじゃ!)


 一真は必死に仙気を練り、両の手のひらに圧縮する。

「――封神拳・破天掌!!」


 零距離で敵の両脇に叩き込まれた仙気の塊が、敵の身体を撃ち抜いた。衝撃に敵の身体がくの字に折れ、腕の力が緩む。

 一真はその隙にバックステップで距離を取った。


「はぁ……はぁ……っ! 危なかった……。こんな奴が……下っ端の、さらに下っ端だってのか……!」


 冷や汗が額を伝い、胸の奥を強張らせる。

 一真は荒い呼吸を整えながらも、己が立ち向かう存在の恐ろしさに戦慄していた。


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