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第69撃:選んだ道、託された想い

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読んでくださった方、本当に感謝です!

随分と長くなっていまいましたが、これで一旦、一真の過去の話は終わりにします。

姫咲との出会いの先や修行までやってしまうと…。

一真は一旦言葉を切り、焚き火の赤い揺らめきを静かに見つめた。しばし黙考した後、再び語り始める。


「……そうして俺は、叔母さんと別れることになった。あの時は……さすがにキツかったな。世界が、足元から崩れ落ちていくような錯覚に襲われたんだ」


その言葉に、紫音も柚葉も晶も、抑えきれず涙をこぼしていた。まるで当時の一真の胸の痛みが、自分の中へと流れ込んできたかのように。声を出そうと口を開いても、喉が塞がったように言葉が出てこない。


三人の様子を見た一真は、悲しみを隠すように、それでも優しい笑みを浮かべて続ける。


「そこからの数ヶ月は……また酷い生活に逆戻りだった。以前みたいに喧嘩や危険な真似はしなかったが、毎日欠かさず続けていた武術の鍛錬もしなくなった。……結局、家族が残してくれた遺産を食いつぶすだけの日々だった」


自嘲気味に、しかし静かに笑う一真。その言葉に、晶が嗚咽を漏らしながら声を絞り出す。


「一真さん……ごめんなさい……ボク……そんな……知らなくて……一真さんの辛い想いに……土足で……っ!」


それ以上は声にならず、涙に呑まれてしまう。紫音も柚葉も同じだった。必死に嗚咽を押し殺しながら、後悔の表情を浮かべている。無遠慮に一真の過去を聞いてしまったことが、胸を締め付けていたのだろう。


そんな三人に、一真は優しく笑いかけた。


「気にするなと言っただろう?大分昔の話だ。それに……これは俺がお前たちに聞いてほしかったんだ。悲しみは完全には消えん。だが、それでも今は前を向いて歩けてる。家族の想いは、ちゃんと俺のここにある」


そう言って、一真は右手で自らの胸を叩いた。その言葉に、三人はしゃくりあげながらも力強く頷く。


一真はその姿を見て小さく頷き、さらに言葉を紡いだ。


「そのあと……まあ、なんだ。家族が夢に出てきてな。こっぴどく叱られたよ。『いつまでも泣いているんじゃない! 自分に負けるなと言っただろう!』ってな」


そう言って懐かしそうに笑う。その表情には、苦しさと同時に、温もりが滲んでいた。


「それから俺は悩んだよ。自分がどう生きるか、どんな道を進むか。悩んで悩んで……悩み抜いた末に、姫咲さんに会いに行くことを決めた」


その言葉に、柚葉が涙を拭きながら問いかける。


「それで……姫咲さんとの出会いへと繋がるんですね。一真さん……その……怖くはなかったんですか? 綾女さんの言葉どおりなら、危険が待っているかもしれなかったのに」


一真は小さく笑い、枝で焚き火をつつきながら答える。


「そりゃあ、怖かったさ。手帳に記されていたのは、姫咲さんの外見的特徴と現在の居場所だけ。『強大な存在』とやらが何なのかも、仙女という言葉がどういう意味なのかも、一切分からなかった。……まあ今思えば、俺が会わない選択をした時に余計なものを背負わせないため、あえて詳しくは書かなかったんだろうな」


紫音が問いかける。


「一真さんは、何で姫咲さんに会う選択をしたんだ? 綾女さんが言ってた通り、別の道を歩むことも出来たのに」


一真は三人を順に見て、力強く答えた。


「強くなるため、だ」


その言葉には迷いがなかった。


「俺は、自分の弱さが憎かった。……言っても仕方がないことだとは分かっていた。だが、それでも――武装集団に襲われた時、俺がもっと強ければ……家族を死なせずに済んだ。そう思ったんだ」


紫音が悲しそうに眉を寄せる。


「でも……それは……」


一真は苦笑し、だがすぐに真っ直ぐな目で言い切った。


「分かっている。終わったことは変えられない。時間は戻せない。……だが、これから起こることに干渉することは出来る。想いだけじゃ届かないこともある。だからこそ――想いを貫くためには、力が必要なんだ。力と想い、その双方が揃って、初めて届くものもある」


言い終えると、照れ隠しのように笑みを浮かべる。


「まあ……姫咲さんに会って、結果として封神拳を習い始めるんだが……修行のあまりの辛さに、何度も心が折れかけたけどな」


にっかりと笑う一真。その姿に、晶が目を丸くして尋ねた。


「姫咲さんとの出会いって……どんな感じだったんですか? それに修行内容も……一真さんが音を上げそうになるなんて……ボク、想像できない……」


一真は少しの間、焚き火の炎を見つめ、それから悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「姫咲さんとの出会いか? それは……いや、今回はここまでにしておこう。随分と長話になっちまったしな。あくまでも、姫咲さんと会う“まで”って話だっただろ?」


「ええーっ! ここまで来てそりゃないよ一真さん! オレ、このままじゃ気になって寝れないぜ!」


紫音が大げさに嘆いて見せる。その姿に、場の重苦しさが少し和らぐ。彼女なりの気遣いだと、一真はすぐに察した。


「また今度話すとしよう。今日はもう寝ろ。食事の片付けは俺がしておく。明日からも色々あるんだ」


そう促され、三人はそろって返事をする。


「はーい」


木の根元の大きな空洞へと向かう紫音と柚葉。その途中、柚葉が何かを思い出したように声を上げた。


「あっ……お風呂……」


その言葉に紫音も「あ……」と表情を曇らせる。そう、二人はこの世界に来てから一度も風呂に入れていないのだ。年頃の少女にとっては相当な苦痛だろう。


それを察した一真が言う。


「ふむ、風呂か……それは明日考えよう。悪いが今は我慢して休んでくれ」


二人は渋々ながらも承諾し、巨木の根元へと歩いていった。


最後に残った晶がふと立ち止まり、振り返って声をかける。


「あの……一真さん……」

「ん? なんだ?」

「今日はその……大切な話を聞かせてくださって、ありがとうございます。……おやすみなさい!」


そう言うと、少し頬を赤らめながら駆けていく晶。その背中を見送る一真は、静かに呟いた。


「……お休み、三人とも」


焚き火の火が、柔らかくその言葉を包み込んだ。




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