表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/244

第59撃:過去の記憶の扉

今回は少し短めです。

これから一真の過去の話となります。

退屈に感じてしまう方がいましたら、申し訳ありません。

少しの沈黙の後、柚葉が口を開いた。

「では次は……姫咲さんとの出会いを教えてもらえますか?」


その言葉に重ねるように、紫音が勢いよく続ける。

「っていうよりさ、一真さんの昔が気になる!姫咲さんに出会うまでの。 ねぇ、教えてよ」


無邪気とも真剣ともつかぬ調子で迫られると、一真は困ったように笑みを浮かべ、三人の顔を順に見渡した。

柚葉も晶も、声には出さないものの、その表情は「知りたい」と雄弁に語っている。


「まいったな……俺の過去なんて聞いても、面白いもんじゃないぞ?」


苦笑混じりにそう答えると、晶が慌てたように口を挟んだ。

「あ、話したくないことなら無理にとは……」


遠慮がちに視線を伏せる晶。その姿に一真は首を横に振る。

「いや、話したくないってわけじゃない。ただ……聞いて楽しいもんでもないからな」

少し考えてから、ふっと息を吐く。

「そうだな。改めて自己紹介代わりに、少し昔のことを話しておこうか。ただし、気分のいい話じゃない。嫌だと思ったら遠慮なくそう言ってくれ」


三人は顔を見合わせ、そろって静かに頷いた。


「じゃあ……食事を続けながら、気楽に聞いてくれ」


その言葉を合図に、三人は再び手を動かす。

ブレードブルの肉は、表面が香ばしく焼き上がり、じゅわりと溢れる肉汁に塩と胡椒の香りが絡んだ。

脂の甘みと赤身の旨味が調和した上質な味わい。

噛むたびに、肉そのものの力強い味が口いっぱいに広がっていく。


その様子を確認し、一真は一つ頷いた。


「さて、どこから話すか……」

少し迷う素振りを見せてから、低い声で語り始める。


「俺の家族は、両親と父方の祖父母、合わせて五人だった。家庭自体は、特に変わったところのない、ごく普通の家族だったと思う。……まあ、強いて言うなら、家族全員が何らかの武術を嗜んでいた、ってくらいかな」


「へぇ……」と晶が目を丸くする。

「ご家族の構成は、ボクと同じだったんですね」


続いて紫音が、肉を頬張りながら口を開いた。

「いや、それ十分珍しいと思うぞ。オレの家も剣道道場やってたけど、剣道やってたのは父さんとオレだけだったし」


一真は肩を竦めて苦笑する。

「そうかもしれんな。で、俺も親父に形意拳を習っていたわけだ。とはいえ、当時は軽く嗜む程度でな」


「じゃあ、昔っから今みたいに強かったわけじゃないんだなー」

紫音が感想めいた声を漏らす。


「それはそうさ。むしろ、格闘技にはあまり興味はなかった方だ」


「今の一真さんからは想像できませんね」

柚葉が少し首を傾げるようにして言う。


すると、晶が真剣な表情で尋ねた。

「じゃあ……一真さんが武術に興味を持ったのは、いつ頃なんですか?」


その問いに、一真は一瞬だけ目を細め、焚き火を見つめた。

「興味、って言っていいのかは分からないが……本格的に学び始めたのは、叔母の影響だな」


「叔母さん?」

紫音が首をかしげる。

「へぇ、叔母さんも武術やってたんだ。どうしてお父さんじゃなくて、叔母さんから?」


一真は少し気まずそうに笑い、そしてゆっくりと言葉を落とした。


「……“習えなくなった”というのが、正確な表現かな。俺が今のお前たちより少し若い頃に――家族とは、死に別れたんだ」


「……え?」


三人の声が重なった。

空気が一瞬にして張りつめ、焚き火が爆ぜる乾いた音だけが、夜の森に響いた。


ブックマーク、評価、リアクション有難うございます!嬉しいです!

引き続きお願いできますれば、ワタクシ嬉しく思います。

皆様のお力をお貸しください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ