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第53撃:「朝餉の温もり、胸に芽吹くもの」

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晶が目を覚ますと、無人小屋の外から一定のリズムを刻む音が聞こえてきた。

――シュ、シュ……風を切る音。

その合間に低く息を吐く声。


「……はっ!……ふっ……!」


耳慣れた声だ。一真だった。


晶は寝ぼけ眼をこすりながら、小屋の扉を開けて外へ出る。朝の空気はひんやりと澄んでいて、ほんのりと草の匂いが漂っている。


その中で一真は、汗を額に浮かべながら黙々と拳法の型を繰り返していた。動きは流麗でありながらも力強く、晶にはとても真似のできない次元のものだった。


「ふぁ~……。一真さん、おはようございます。また拳法の練習ですか?」


そう声を掛けると、一真はくるりと振り返り、爽やかな笑顔を浮かべて挨拶した。


「おお、おはよう、晶。起こしちゃったか? スマンな。ちょうど終わったところだ」


「いえ、謝らないでください。むしろ……数日ぶりですし、ちょっと見たかったかも」


晶は少し照れくさそうに言った。


「ははっ、そうだな。ここ数日いろいろあって練習できなかったからな。さてと、寝起き早々すまないが、なにか作ってくれるか? 腹がへっちゃってな」


「ふふっ……はい! ちゃちゃっと作っちゃいますね」


晶はクスリと笑って、マジックバッグから材料を取り出し始めた。


一真は近くの切り株を椅子代わりに腰掛け、姿勢よく待つ。だが期待に輝く目と落ち着きのなさは、まるで「待て」を命じられた大型犬のようで――晶は思わず吹き出しそうになる。


(ふふっ……一真さん、可愛い)


そう思ってしまったのは、口に出せない秘密。


やがて香ばしい匂いが漂い始める。晶が手際よく調理したのは、懐かしい和食だった。


ロックスネークの肉を使った肉じゃが。魚の干物。乾燥昆布から出汁をとった青菜風の野菜のお吸い物。そして卵焼き。米もあったので、鍋で炊き上げた。流石に味噌だけは手に入らず、味噌汁が作れなかったのが残念だったが、それでも胸を張れる出来だ。


「お待たせしました、一真さん。せっかく村で色々買えたので、できる限り和食に近づけてみました。……普通のお醤油はなかったので、魚醤になっちゃいますけど」


木の板を切り株の上に乗せて作った、即席のテーブルに並べられた料理を見て、一真の目が丸くなった。


「おお……ま、まさかこの世界で和食を食えるとは……晶……お前、本当にすごいな」


感嘆のため息。その言葉に晶の胸はほんのり熱を帯び、頬に朱が差す。


二人は向かい合って手を合わせた。


「いただきます」


「はい、いただきます」


箸は売ってなかったので、フォークで口に運ぶ。一真が肉じゃがを口に含んだ瞬間、目を見開き、すぐさま夢中でかきこみ始めた。


「うまいっ! 最高だ! 晶、お前いい嫁さんになるな!」


その言葉に、晶はピクリと肩を震わせた。――嫁。


すぐに一真が「あっ」と口を押さえ、気まずそうに言う。


「っと、失言だったな。すまん。……お前、クラスで色々あったんだよな」


そう、申し訳無そうにする一真を見て晶は


「い、いえ……大丈夫です。気にしないでください。本当に」


小さな声で返すと、心臓が早鐘を打ち始める。


(な、なに……? ボク、どうしちゃったんだろう……胸が、ドキドキする)


晶の内心など知らぬ様子で、一真はホッとして笑いながら


「なら良かったけど……食べないのか? 早くしないと全部食べちゃうぞ」


「い、いえ! 食べます!」


慌てて食べ始める晶。その様子に一真は楽しそうに笑みを浮かべた。


結局、二人で――いや、ほとんど一真が――料理を平らげてしまった。


「ごちそうさま。美味しかったよ、ありがとうな、晶」


「お粗末様でした」


食後、二人で後片付けを済ませ、焚き火を丁寧に消す。小屋をあとにした頃には、すっかり朝日が辺りを照らし出していた。


「よし、そろそろ行くか、晶」


「はい! 一真さん」


歩き出す二人。


「予定通りなら、今日の昼には帰らずの森の大木の下に帰れそうだな」


「そうですね。帰ったら肉や魔石を集めて……それから情報収集ですよね?」


「ああ。まずは脱走した女の子の勇者二人と会いたいところだな。それに、オラクルってエルフの冒険者にも接触しておきたい」


晶は少し眉を寄せる。


「……誰なんだろう……脱走した女の子って……無事だといいけど」


一真はそんな晶の頭を大きな手で優しく撫でた。


「きっと大丈夫さ。さあ、帰らずの森に急ごう」


「……はい!」


二人は森へと歩を進める。

その先で、紫音と柚葉が必死にモンスターと渡り合っているとは――まだ知る由もなかった。


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