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第50撃:《帰らずの森の影》

紫音と柚葉は、オラクルに見送られて城を後にした。防壁沿いに歩き、やがてその巨大な石壁を背にして進み始める。

目指すは、誰も生きて帰れぬと噂される危険地帯――帰らずの森。


歩きながら、紫音がぽつりと口を開いた。

「王様とオラクルさんには、いろいろ世話になっちゃったな。最後に剣まで用意してくれて……魔法を使える柚葉と違って、オレは剣がないと戦えないしさ。エルサリオンで借りてた剣は返しちゃってたし、正直どうしようかと思ってたんだ」


柚葉は少し笑みを浮かべて頷いた。

「そうだね。本当にいっぱい助けてもらっちゃった……。紫音、頑張ろうね。私たちは、生きてあのおじさまと晶くんに会わないと」


その言葉に紫音は力強く返す。

「ああ、そうだな……。でもさ、ちょっと不思議なんだ」


「不思議って、何が?」


柚葉が首を傾げると、紫音は眉間に皺を寄せつつも、どこか安心したような声で続けた。

「これからオレたちが向かう帰らずの森って、すっげー危ない場所なんだろ? なのにさ……あのおじさんのこと、全然心配にならないんだ。名前も知らないし、話したこともないから情が薄いのかと思ったけど……違うんだ。どうも、あのおじさんがピンチになる姿が思い浮かばない」


紫音のその感覚は、柚葉の胸の内とも重なっていた。

「……私も。あのおじさまが危険に陥ってるところなんて、どうしても想像できないの。むしろ晶くんのことも、ちゃんと守ってくれてる気がする。何でだろうね……本当は何も知らないはずなのに」


二人は顔を見合わせ、小さく笑みを交わす。

確信にも似た安心感。それは不思議な力に支えられているようでもあった。


だが現実は厳しい。バルト国王が信頼を寄せるほどの冒険者・オラクルが警告するほどの危険地帯に、彼女らは足を踏み入れようとしている。危険なのはむしろ自分たちの方だ。


その後は不安を紛らわせるように、二人は他愛のない話を交わしながら道を進んだ。

道中、何度かモンスターに襲われたが、どれもさほど強くはなかった。最初は身構えた二人も、三度目以降は互いに息を合わせ、連携して安全に撃退できるようになっていた。


――ただし、決して油断はしない。

二人は知らぬことだったが、倒したモンスターから魔石を摘出せずにそのまま放置してしまったのは、後に響く不注意である。


その頃、エルサリオンの城下町にいたオラクルは、ふと思い出したように呟いた。

「……あ……あいつらに魔石の説明、するの忘れてた……。スマン」

その声は風に溶け、誰に届くこともなかった。


――オラクルの後悔を知らぬまま、紫音と柚葉は歩を進める。


どれほど進んだだろう。日は傾き、空は朱に染まり始めていた。空腹が二人を苛み、足取りも重くなる。

「柚葉……腹減ったな……水も、もう残ってないし」

紫音がぼやくと、柚葉も疲れた笑顔で返した。

「そうだね……帰らずの森に、食べられるものやきれいな水源があればいいんだけど」


それでも足を止めない二人。その姿は奇しくも、初日の一真と晶の旅立ちを彷彿とさせるものだった。


やがて、視界の先に影が見えた。

「柚葉! あれ……あれが帰らずの森じゃないか!?」

紫音の声に柚葉も目を輝かせて応じる。

「うん! 他にそれらしいものはないし、きっとあれだよ!」


遠目に見ても、その森は異様な圧を放っていた。陽は沈みかけ、刻一刻と闇が迫る。食料も水も尽き、夜になる前に安全を確保しなければならない。


やっと辿り着いた森の入口で、二人は一瞬だけ立ち止まった。濃い木々の影が、まるで侵入者を拒むように揺れている。


「柚葉……入ろう」

「うん……紫音……」


互いの声を確かめ合い、二人は帰らずの森へと脚を踏み出した。


その一歩が、彼女らを新たな出会いに導く一歩となる。


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― 新着の感想 ―
転生者召喚の裏側が徐々に見えてきている…!! ますます面白くなってきました。 まさかそんな事情で一真さんと晶くんが追い出されていたとは!! そしてここから、スキル持ちのクラスメイトとメインのお二人のス…
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