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第49撃:《エルフとの邂逅》

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紫音と柚葉は、目の前に立つ人物へと近づいていった。互いに緊張した面持ちで、紫音が口を開く。


「…あの、オレは天城紫音…そして、こっちは」

「千歳柚葉です。貴方が…バルト陛下がおっしゃっていた方ですか?」


柚葉の問いに、女性はしばし沈黙し、やがて静かに答える。


「…そうだ。お前たちのことを王から託された」


そう言って女性はゆっくりとフードを外す。現れたのは、金色に輝く真っ直ぐな長髪、鋭く長い耳、そして紫の瞳を持つ端正な顔立ちの女性だった。その存在感は、ただそこに立つだけで圧倒的だった。


思わず紫音は息を呑み、ぽつりと呟く。

「・・・エルフだ・・・」


女性はその言葉に不機嫌そうに眉をひそめ、怒気を向ける。

「確かに私はエルフだが・・・何か問題でもあるのか?」


慌てた紫音は両手を振りながら答える。

「あ、いや!そういうんじゃないんだ!エルフを見るのは初めてで、驚いただけで…ごめんなさい!」


しゅんとした紫音を見て、女性はわずかに息を吐き、声を和らげる。

「…謝ることではない。異世界から来た者が我らを見て驚くのは当然だ。こちらこそ、気を張りすぎた」


その場の空気を和ませるように、柚葉が穏やかに言葉を挟む。

「よろしければ、貴女のお名前を教えていただけますか?」


女性は小さく頷き、真っ直ぐ二人を見据えて名乗った。

「私の名はオラクル。…よろしく頼む」


その声音にはわずかな微笑みが混じっていたが、すぐに表情を引き締め直す。

「さて、早速だがお前たちを出口まで案内する。準備はいいか?」


紫音と柚葉は顔を見合わせ、一つ頷いた。

「はい。お願いします、オラクルさん」


こうして三人は、地下の脱出用通路を進み始めた。


通路は迷路のように入り組み、方向感覚を奪ってくる。紫音と柚葉の二人だけでは到底迷わずには進めなかっただろう。しかしオラクルは迷う素振りもなく、正確に進路を選び取っていく。ときおり後ろを振り返り、二人の様子を確認しながら。


しばらく歩いたところで、オラクルが立ち止まった。二人が不思議そうに見守る中、彼女はマントの奥から小さなバッグを取り出す。そしてそこから水筒と黒パン、干し肉、乾燥果実を取り出して二人に差し出した。


「出口まではもう少しかかる。歩きながらで悪いが、食べながらついて来てくれ。これは城外で調達したものだ。安全は保証する」


紫音と柚葉は改めて、自分たちの渇きと空腹を思い出す。逸る気持ちを抑えながら水筒を口にすると、ただの水であるはずなのに極上の甘露のように感じられた。干し肉は少し塩辛いが、疲れた体には心地よい。黒パンは日本で食べていたパンのように柔らかくは無かったが、噛みしめるほどに小麦の香りが広がる。そして乾燥果実は日本では見たことのないものだったが、程よい甘酸っぱさが二人の飢えた身体に染み渡った。


日本にいた時は、特に意識をしていなかった『食べる』という行為。それがこれほどまでに有り難く、心身を満たしてくれるということに、二人は泣きそうになる。


「…オラクルさん…ありがと…オレ…泣きそうだ……」

紫音がうるんだ目で呟く。

「本当に助かりました。何も口にしていなかったので…ありがとうございます」

柚葉も深々と頭を下げた。


二人に背を向けてオラクルは小さく答える。

「別に……大したことではない」


その長い耳の先が、赤く染まっているのを二人は見逃さなかった。紫音と柚葉は顔を見合わせ、思わず微笑み合う。この世界に来て初めての、心からの笑みだった。


再び歩を進めながら、三人は少しずつ言葉を交わす。オラクルは冒険者でありながら、バルト王とは旧知の仲で、幾度となく国を陰から支えてきたという。しかもそれはオラクルだけでなく、彼女の曾祖母の代から続いていた。曾祖母はエルサリオン建国に立ち会い、さらには千年前の邪神ゼルグノスとの戦いにも参戦していたのだ。エルフの長寿を物語るその話に、二人は圧倒されるしかなかった。


やがて通路の先に光が差し込み、三人はようやく外に出る。そこは王国の防壁の外側、正門から遠く離れた背後の地。朝日が昇り、世界は新たな一日を告げていた。


「私が付き添えるのはここまでだ。本当は、勇者たちと合流するまで見届けたいのだが…すまない」


オラクルの言葉に、二人は慌てて首を振る。

「そんなことない!オラクルさんがいなかったら、絶対にここまで来られなかった。本当にありがとう!」

「私達にとって、命の恩人です。王様にも、ぜひお礼を伝えてください」


オラクルは静かに頷く。

「分かった。…これを持っていけ」


再びマントの奥からバッグを取り出すと、その中から一本の剣を引き抜いた。どう見てもバッグの大きさに収まるはずのない長さの剣だった。


「なっ…!?」

「どうしてそんな…」


二人の驚きをよそに、オラクルは小さく微笑む。

「これはマジックバッグだ。内部に空間拡張の魔法が施されている」


そう説明すると、その剣を紫音に手渡す。そして真剣な表情で告げた。

「お前たちの探し人は“帰らずの森”へ向かったらしい。防壁沿いを四分の一ほど歩き、そこから背を向けて真っ直ぐ進めば、やがて森が見えてくる」


「帰らずの森…」

紫音と柚葉は息を呑む。


「だが忘れるな。その森は危険だ。そこにいるモンスターは、見慣れたものでも常軌を逸している。スライムですら命を奪う存在だ。…ポーションは王から受け取っているな?いざという時は、迷わず使え」


最後にオラクルは、二人を見つめて言葉を贈る。

「お前たちに、アルサリウスとエルフェリーナの加護があらんことを。…行け」


紫音と柚葉は深く頭を下げ、名残惜しげに言葉を残して歩き出す。

「オラクルさん!本当にありがとう!」

「また必ずお会いしましょう!」


二人の姿が見えなくなるまで、オラクルはその背中を見送っていた。


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