第48撃:《地下への道とフードの案内人》
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紫音と柚葉は、石造りの階段を一歩一歩踏みしめながら降りていった。
背後で重厚な扉が閉じられる音が響き、わずかに遅れて内部の錠が降ろされる金属音がこだました。その瞬間、二人の周囲は一時的に闇へと沈む。
しかし、すぐに壁の石の継ぎ目や床の隙間から、淡く青白い光がにじみ出し、階段全体を照らし始めた。影は柔らかく揺れ、光は脈動するように明滅している。魔法の照明だろう、と紫音はすぐに察した。
「柚葉……王様、大丈夫だよな……」
紫音は、思わず声を潜めながらも隣に問いかけた。
柚葉は階段を降り続けながら、小さく息を吸って答える。
「……大丈夫だと、思う。嫌な言い方になっちゃうけど……セレフィーネがバルト陛下を生かしているのは、利用価値があるからだと思うの」
「利用価値?」
紫音の眉がわずかに寄る。
「うん……あくまでも私の想像。根拠も確証もないけどね」
柚葉は、前置きを挟んでから淡々と続けた。
「勇者召喚の術とか……その辺りじゃないかな」
紫音は一瞬きょとんとした顔をし、それから首をかしげる。
「勇者召喚? それが何の関係があるんだ?」
柚葉は視線を少し落とし、考えるように言葉を紡いだ。
「たぶん……魔族には勇者召喚ができないんだよ。そして、エルサリオンの王族だけがそれを行える。だからこそ、バルト陛下を殺さずに洗脳して、勇者召喚をさせているんじゃないかな」
紫音はすぐに反論する。
「でもさ、なんでそんな回りくどいことを? 穏健派にぶつける戦力なら、勇者じゃなくてもいいだろ。王様も言ってたじゃないか──昔、過激派が邪神を召喚したって。邪神を呼び出せるなら、わざわざ勇者なんかにこだわらなくても、もっと強い魔物を呼べばいいだけじゃないのか?」
柚葉の瞳がわずかに細められる。
「……戦力じゃないんじゃないかな。過激派が本当に欲しいのは」
「戦力じゃない……? じゃあ何だよ? だって実際、俺たちは捨て駒みたいに戦わされてるじゃないか」
「それは、ただの副産物。利用できる駒だから使ってるだけで、本命は別にあると思う」
柚葉の声は低く、しかし確信を帯びていた。
「紫音……思い出してみて。ヴァルドランさんの強さを。それほどの力を持つ彼が、『セレフィーネの強さは本物』って言ってたでしょ? それに、過激派のトップ、グラウザーンは歴代最強だとも」
紫音ははっとする。
「あ……そう言えば……そうだったな……」
柚葉はさらに言葉を重ねる。
「そんな怪物みたいな連中にとって、戦力目当てで勇者召喚をする必要なんてないのよ。──それに、エルサリオン兵が口にしていたでしょ? 『今回の勇者』『例の力の持ち主』『治癒の力』……って」
紫音の脳裏に、召喚初日の光景が蘇る。
「……ああ、あったな。詰め所でそんな話をしてた……。王様も言ってた。女神エルフェリーナが死んでから、治癒の力は失われたって……」
「だからきっと、過激派はその力を持つ存在を探してるのよ。私たちは……その『外れ枠』」
紫音の拳が音を立てて握られる。
「……ふざけんなよ。人の命をなんだと思ってやがる……!」
柚葉は小さく息を吐く。
「落ち着いて、紫音。これはあくまで私の推測……今のところはね」
紫音は唇を噛みながらも頷いた。
「……でも、的外れじゃない気がする。……もしかしてファレナ姫も……勇者召喚の力を使わせるために攫われた?……」
二人の胸に、怒り、不安、そして得体の知れない恐怖が同時に広がっていく。
やがて長い階段を降り切ると、目の前に一人の人物が立っていた。
フード付きのマントを深くかぶり、その影に顔は隠れている。体格は紫音と柚葉の中間ほど──細身だが、背筋はまっすぐに伸び、隙がない。
その人物は二人を見据えると、落ち着いた、しかし澄んだ声で言った。
「来たか。お前たちが──王が言っていた勇者たちだな」
その声は、高く美しい女性のものだった。




