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第47撃:《王の別れ》

よもやこのエピソードがここまで長くなるとは…

退屈に感じさせてしまってたら、申し訳ありません。

紫音と柚葉は、バルト国王の案内で王城の奥へと進んでいた。

 石造りの回廊は、昼間であるにもかかわらず薄暗く、壁の燭台が静かに炎を揺らめかせている。歩みを進めるほど、空気が重くなるのを二人は感じていた。


 やがて、通路の突き当たりに行き当たる。左右も正面も、無骨な石の壁に囲まれ、先はない。

 紫音が首を傾げて問いかけた。

「えと……王様? 行き止まりになっちゃったけど……」


 国王は顔だけで振り返り、にこりと微笑んだ。

 しかしその表情は、どこか苦しげだった。額には細かな汗が滲み、呼吸はわずかに乱れている。

 王は再び正面へ向き直ると、壁の一部に手を伸ばし、何やら複雑な手順で操作を始めた。


 ――ガコン。

 重い石の駆動音とともに、壁の一部がゆっくりと横へずれ、闇の中へと続く階段が現れた。


 驚きに目を見開く紫音と柚葉へ、王は静かに告げる。

「紫音殿、柚葉殿……すまぬが、余が案内できるのはここまでだ。これはエルサリオン王族にのみ伝わる脱出路。この道は、ファレナ姫に化けるあの魔族の女も知らぬはず」


 振り返った国王の顔は、痛みを堪えるように歪んでいたが、その瞳には強い自責の色が宿っていた。

「重ねてになるが、本当に……すまなかった。勝手にそなたらを召喚し、危険に晒し……多くの友を失わせる結果になってしまった」


 深く頭を垂れる王に、柚葉は慌てて声を掛ける。

「陛下、頭を上げてください。悪いのは魔王軍の過激派……そしてファレナ殿下に化けている、あのセレフィーネという魔族です」


 紫音も頷き、少し笑って言った。

「そうだぜ、王様。王様たちだって被害者じゃないか」


 王は二人の言葉を反芻し、小さく息を吐いた。

「そうか……あの魔族はセレフィーネという名なのか……それすら、今の余には知ることもかなわなんだ。……情けない話だな」


 それでも、彼は二人を優しく見つめた。

「……そなた達は優しいのだな。その気遣いと言葉で……少し心が軽くなった。紫音殿、柚葉殿、感謝を」


 二人は少し照れくさそうに視線を逸らす。

 王はその姿に微笑を浮かべ、やがて遠くを見るように言葉を続けた。

「娘が……ファレナ姫が生きていたなら……そなた達とは、良き友となれただろう」


 その時、紫音が何かを思い出したように声を上げた。

「そうだ! ヴァルドランさんが言ってた! ――王様! 姫様は生きてる! 今の魔王、アリステリアって人が保護してるって!」


 王の瞳が大きく見開かれる。

「……なんと……それは……まことか……? 娘が……生きている……おお……なんということだ……」


 感情の波が胸を打つのか、王の瞳には涙が浮かんだ。しかし、ぐっと堪え、再び二人に向き直る。

「良くぞ……教えてくれた。重ね重ね、感謝を」


 そして表情を引き締めると、指し示した階段の先を告げる。

「この階段を降りた先は、迷路のようになっておる。万一、敵に発見された時のためだ」


 柚葉が不安げに眉を寄せる。

「迷路……ですか? ……どうしよう、迷わずに抜けられるかな……」


 王は頷き、言葉を続ける。

「案ずるな。余は案内できぬが、代わりの者に頼んである。余が若き頃からの友で、何度も国のために力を貸してくれた腕利きの冒険者だ。信用できる」


 柚葉は思わず感嘆の声をもらす。

「そこまで準備を……」

「余が余でいられる間に、できることはしておきたかったのだ」


 少しの沈黙のあと、王は低く言葉を足した。

「……そなたら、もし無事にここを抜けられたなら――最初の日に余が追放した、あの男を探すのだ」


 紫音と柚葉の脳裏に、あの日の光景が蘇る。クラスメイトの水無瀬晶と共に、最初に城から追い出された、あの名も知らぬ男の姿が。


 紫音が問う。

「なんで……あの人を?」


 王は少し目を細め、遠くを見た。

「あの者には……言葉にできぬ何かを感じる。何よりも、スキルの鑑定結果が“確認不能”“未検出”などと……これまでにない事態であった」


 その説明は、紫音と柚葉の胸にも引っかかっていた疑問を刺激する。

 あの男性には何かがある――直感でそう信じられた。


 柚葉は真剣な表情で答える。

「分かりました。あのおじさまのこと、探してみます。私達も……気になっていましたから」


 王は満足そうに頷く。

「うむ。あの二人は……きっと、この世界を救う何かを持っておる」


 ――二人?

 紫音が眉をひそめる。(二人って……あのおじさんと、晶のこと……?)

 隣の柚葉も同じ違和感を抱いたのか、わずかに視線を交わす。


 王はそんな二人を促すように言った。

「さあ、もう行きなさい。余も……いよいよ限界のようだ。階段を降りた先で、協力者が待っておる。二人とも……死ぬでないぞ」


「有難う、王様。王様も、絶対に無事で……」

「陛下、本当にありがとうございました。どうか……ご無事で」


 互いに頷き合った二人は、王に背を向けて階段を降りていく。


 その背中を見送りながら、王は静かに祈った。

「願わくば、異世界からの来訪者に……創世神アルサリウスと女神エルフェリーナの加護があらんことを……」


 階段を閉ざした瞬間――

「……ぐっ……む……う……」

 低く呻き、王の瞳から感情の色がすっと消えていった。


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