第45撃:《伝承》
少し説明パートが長いですね…。
申し訳ありません。
バルト国王は、一つ大きく息を吐くと「少し話は逸れるが」
そう言って
「……そなた達は、戦場にて魔王軍の穏健派と戦わされたのだろう?
……過激派の奴らめ、酷いことをする……」
その言葉を耳にした瞬間、紫音と柚葉の胸に鋭い痛みが走った。表情が固くなる。
王もまた、二人の変化を見て眉を寄せる。
「言い伝えによれば、今から千年前にも、魔王軍は穏健派と過激派に分かれていたらしい……今のようにな」
その一言に、二人は重い気持ちを押し殺せず、視線を落とす。千年前にも、昨日の悪夢のような戦いが繰り返されていたのか――そう思うと、胸が締め付けられた。
王は続ける。
「そなた達、地球からの来訪者からすれば意外に思うものらしいが、魔族と言っても、生来、穏やかな性質の者が多い。
だが……時折現れるのだ。強大な力を持って生まれ、その力に溺れる者が。もっとも、それは魔族に限った話ではないだろうが」
その言葉に、柚葉が小さく息を吸い、悲しみを込めて返した。
「そう……ですね……。人間だって、誰かを不必要に傷つけたり、貶めたりする人は……います」
紫音も、同じく沈痛な表情で頷いた。
二人の脳裏に浮かんだのは、一人の男子生徒――水無瀬晶の姿だった。
男子とは思えぬほど整った顔立ちと、儚げな雰囲気。クラスの中では、その美しさが時にからかいの的になった。直接手を出す者はいなかったが、言葉や態度で距離を取り、時に冷たくあしらう。
晶は笑って受け流すこともあったが、その瞳の奥に沈んだ影を、紫音も柚葉も何度も見てしまった。
二人は何度も庇い、やめるように訴えた。だが、クラスメイトの態度は変わらない。悪意というよりは、異質なものを排除しようとする無意識の圧力。それが一番厄介で、そして残酷だった。
「……決して悪い子たちじゃないのに」
そう思うからこそ、紫音と柚葉は、あの扱いが悔しく、悲しかった。
バルト国王は、そんな二人の胸の奥に沈んだ感情を見抜いたように、柔らかく言った。
「……そなた達も、人の嫌な面に触れてしまった経験があるのだな。
だが、人も魔族も、悪い者ばかりではない。それは、そなたらも分かっているのだろう?」
二人は、互いに目を見交わし、力強く頷く。
その様子に、王は嬉しそうに目を細め、一度深く頷いた。
「――さて、話を戻そう。少し長い説明になる。」
バルト国王はそう言うと、ゆっくりと語り始めた。
「千年前の魔王軍の穏健派と過激派の争い。それは今と同じく、魔王派が穏健派だったらしい。当時の魔王は強く、聡明でな……戦局は穏健派に傾いていた。しかし――」
王はそこで言葉を区切り、低く息をつく。
紫音が問いかける。
「しかし……?」
「劣勢に焦った過激派は、禁断の手段に手を染めた。それが――異世界から邪神を召喚するというものだった」
柚葉が身を乗り出す。
「先ほどおっしゃっていた、邪神ゼルグノス……ですか?」
王は静かに頷く。
「そうだ。邪神ゼルグノス……この世界とも、そなたらの世界《地球》とも異なる世界に棲む、世界喰らいの邪神。過激派はその召喚を試み、そして――成功してしまった。実在すら疑われていたおとぎ話が、現実となってしまったのだ」
二人は息を呑む。
「おとぎ話……だったんですか?」紫音が問う。
「うむ。当時はそう信じられていたと聞く。エルフェリアに伝わる、異世界を渡り歩き、すべてを喰らい尽くす怪物の話――あくまでも恐ろしい昔話でしかなかったのだ。しかし、追い詰められた過激派は、そのおとぎ話に縋った。そして……それは真実だった」
柚葉はさらに問う。
「それで……どうなったんですか? 先ほどは勇者を召喚したと……」
王は目を伏せ、重く答える。
「余もエルサリオンに伝わる伝承と、とある人物から聞いた話としてしか知らぬが……召喚された邪神は、まず自らを呼び出した過激派を喰らい尽くしたという。そして、エルフェリアに生きる者たちと邪神ゼルグノスとの、世界を懸けた戦いが始まった。先頭に立ったのは、創世神アルサリウスと、生命の女神エルフェリーナ、そして当時の魔王、ダンダリオンだったそうだ」
二人は無言で続きを待つ。
「戦いは熾烈を極め、皆が疲弊していった。このままでは負け、すべてを喰らい尽くされる――そう悟った二柱の神は、最後の一手として地球から助っ人を召喚した。それが……初めての勇者召喚だった。そして、その勇者こそが、余たちエルサリオン王族の始祖となったのだ」
あまりにも大きすぎる話に、紫音と柚葉は、ただ立ち尽くすしかなかった。
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皆様になんと言ってお礼をすればよいか・・・。
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