第34撃:王女の仮面
今回の話は短めです。
申し訳ありません。
エルサリオン王城――
勇者召喚が行われた、その夜のこと。
豪奢な調度品に囲まれた国王の私室で、王女ファレナ・エルサリオンが、父王バルト・エルサリオンを厳しい眼差しで見据えていた。
「……お父様、なぜあの二人を勝手に追放したのです?」
声音は柔らかいが、その瞳には冷たい光が宿っている。
「私は……そんな指示を出した覚えはありませんが?」
玉座から離れた私室にあっても、バルト国王は威厳を保とうとしたが、その声は僅かに揺れていた。
「……ファレナよ……スキルも持たぬ者など、この国に置く理由はあるまい。国の備蓄とて無限ではないのだ」
その言葉を聞いた瞬間、王女の表情は氷のように冷えた。
「それを決めるのはお父様ではありません」
一歩踏み込み、刺すような視線を向ける。
「あなたはただ、私に従っていればいいのです」
その瞬間――
バルト国王の瞳から、光がすっと抜け落ちた。
虚ろな表情で、感情の色を一切感じさせない声が漏れる。
「……はい……申し訳……ありません……」
その様子を見て、王女は小さく舌打ちした。
「……ちっ。余計な真似を」
冷たく吐き捨てると、背を向けたまま低く呟く。
「あのような不穏分子、本来なら即刻処分すべきだった……。だが仕方ない。ガズラに探らせるとしよう。危険と見れば処分、使えると判断すれば取り込めばいい。……その程度なら、ガズラでもできるだろう」
王女――いや、その姿を借りた“何者か”は、操られた国王を一瞥し、鼻を鳴らす。
「腐っても初代勇者の末裔か……完全に支配はできんか」
その声音には、苛立ちと嘲りが入り混じっていた。
やがて、興味を失ったかのように視線を外すと、独り言のように言葉を紡ぐ。
「この世界に存在しないのなら、異世界にあるはず……。女神エルフェリーナの魂が。
――かつて一度だけ、その魂を宿した者が召喚されたという言い伝えがある」
そして、頬をわずかに染め、恍惚とした表情が浮かぶ。
「偉大なるお方……グラウザーン様の悲願のため、このセレフィーネが必ずや……見つけてみせます」
だが次の瞬間、その顔から甘美な色は消え、冷徹な仮面が戻った。
「さて……今回の勇者たちにも、当たりはいなかった。だが穏健派の戦力を削る程度には役立つだろう。……せいぜい消耗してもらおう」
ふと、頭をよぎる影。
「あの男……。スキル無しではなく、“確認不能”だと?…。 今までそんな例は一度もなかった……どうも気になる…」
さらに2人の女召喚勇者も気がかりだった。
「あの2人、天城紫音と千歳柚葉といったか?…あの2人も要注意だな。国王のように、秘薬までは使ってないとはいえ、アイツらも洗脳出来ていない。早めに消えてもらった方が良さそうだな」
薄紅の瞳が細まり、思考の奥に小さな棘のような不安が刺さる。
「……厄介なことにならなければいいが……」
王女の仮面を被った魔族――セレフィーネは、月明かりに照らされたバルコニーへと歩み出た。
夜風が金色の髪を揺らす中、その瞳には計算と不穏な光が宿っていた。
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